1952年明石市生まれ。’76年慶應義塾大学商学部卒業。同年出光興産(株)入社。’83年塩野香料(株)入社,’90年同社取締役,2001年同社代表取締役社長就任。’15年日本香料協会会長。’17年公益財団法人関西生産性本部理事就任。当クラブ入会’02年10月。’05年IA委員長,’06年副幹事,’16年RA委員長,’17年副会長・理事,’20年職業奉仕委員長・理事。’15~’17地区財団小委員会委員長。米山功労者(M),PHF(M)。
職業奉仕月間ということで,きょうは「ロータリーの職業奉仕の歴史と変遷および用語について」お話をさせていただきます。
2008年のRI国際協議会で,ロータリーにおける職業奉仕の重要性について渡辺好政RI理事が講演し,「ロータリーの樹」を説明しました。
「1905年,ポール・ハリスら4名によって創始された最初のロータリークラブは,その歴史が示すように,初めに,親睦,助け合いから始まりました。すなわち,ロータリーの樹に水と栄養を送る根はクラブ奉仕であります。ロータリークラブ会員は,クラブという学校で相手のことに思いをはせ,相手を助けるという奉仕の理想を学び,その真意が共存共栄であることがわかります。
ロータリーの目的を基本とし,ハーバート・テーラーによって実証され,ロータリアンの行動規範である『四つのテスト』による奉仕活動の実際を体得することによって,ロータリアンに進化してまいります。ロータリークラブ会員からロータリアンに進化してゆく過程の基盤には,アーサー・フレデリック・シェルドンの『超我の奉仕』『最もよく奉仕する者,最も多く報いられる』が存在いたします。私たちは,この2つのモットーを1枚のコインの表・裏と考えながら,日常の奉仕活動に邁進しております。ロータリーは理念の高唱に終わるのではなく行動の哲学なのであります」
「ロータリーの樹」はロータリーの職業奉仕を理解するうえで,最も良い資料とされています。2013年のRI規定審議会を経て採択されたものです。基本理念である「奉仕の理念」を実践する手段が職業奉仕であることをわかりやすくした図です。
このロータリーの樹を「奉仕」という視点から見ますと,クラブ奉仕はロータリーの樹に水と栄養を送る「根」であり,職業奉仕はその上に成長する「幹」です。そして枝が伸びて実った果実として青少年奉仕,社会奉仕,国際奉仕あるいは米山奨学金,ロータリー財団に基づく奉仕活動などがあります。また,「根」としてはクラブ奉仕のほかに「ロータリーの目的」や「四つのテスト」,そして「超我の奉仕」「最もよく奉仕する者,最も多く報いられる」という2つの標語が示されています。そして「幹」として,職業奉仕と並んで「奉仕の理想」が記されているわけです。このようにロータリーの活動の概念を視覚的に理解できるように表現しているのが,この「ロータリーの樹」と言えます。
ロータリーの四大奉仕,すなわち,クラブ奉仕,職業奉仕,社会奉仕,国際奉仕の考え方は,1927年ベルギーで開かれた国際大会で決められたものです。このときに,それまでロータリークラブの基本理念として一般奉仕概念と呼ばれていたものに「職業奉仕」という呼び名が正式に与えられたのです。
ロータリーの哲学を端的に表現し,職業奉仕の理念の実行に役立つものとして,「四つのテスト」があります。このテストは,シカゴのロータリアンであり,後にロータリー創始50周年に国際ロータリー会長を務めたハーバート・テーラーが’32年の世界大恐慌のときに考えたもので,商取引の公正さを測る尺度として,以後多くのロータリアンに活用されてきました。
彼は,シカゴに本拠をおくジュエル・ティー株式会社の代表役員でしたが,’32年にクラブ・アルミニウム製品株式会社を破産の危機から救ってほしいと要請され,クラブ・アルミニウム社に移り,この会社を再生させる決心をしたのです。大不況の中で,低迷している会社を再生させるには,会社の中に,同業者にはない何かを育成しなければなりません。テーラーはその何かに,社員の「人格と信頼性と奉仕の心」を選んだのです。そして,その育成の指針として,会社の全従業員が使えるような倫理上の尺度としてつくられたのが「四つのテスト」です。
「四つのテスト」は簡単な言葉ですが,クラブ・アルミニウム社の苦境期の決定を下す基盤となりました。会社の広告もテストに照らし合わせて検討し,最上,極上などの表現を避け,製品の実際の姿を手短に述べる形に変わりました。ライバル会社への非難,悪口は,広告や販売推進パンフレットから姿を消しました。やがてテストは,仕事のあらゆる面における指針となりました。その結果,信頼と好意の雰囲気が取引先や顧客や従業員の中に育まれ,会社の業績が次第に好転していきました。「テストによって自分の生き方が変わった」と述べる手紙が数えきれないほどハーバート・テーラーのもとに寄せられたということです。
’87年,国際ロータリーは,40年ぶりに職業奉仕に関する特別委員会を招集しました。審議の結果,職業奉仕における新方針として採択され,職業宣言が採択されたのと同じ’89年に「職業奉仕に関する声明」として決議されました。この声明をきっかけとしてクラブの奉仕活動は活発になりましたが,奉仕の基本理念が忘れ去られ,クラブとして奉仕活動をすることがロータリアンの本来の目的であるかのように考える人たちが増えてきました。また「『一業種一人』という原則も有名無実となって,クラブの奉仕活動に参加できる能力・資力さえあれば,ロータリアンになれると言っても過言ではないくらいになったのではないか」という意見もあながち否定できません。
昨今の企業の不祥事は,ロータリーの直接の責任ではありませんが,このような事態を解消する責任がロータリーにあることは否定できません。ロータリーの基本理念を念頭に置き,日常の職業活動や生活の中で,時にはその理念を思い起こして自己の活動に反映させ,真実のともし火となるのが真のロータリアンということになりましょう。
時間が来ましたのでここまでにさせていただきます。ありがとうございました。
(スライドとともに)