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2020年11月27日(金)第4,772回 例会

平成23年 紀伊半島大水害 大規模土砂崩壊対策工事

江 口  健 治 氏

鹿島建設(株)
関西支店 赤谷工事事務所
所 長
江 口  健 治 

1967年生まれ。’90年立命館大学理工学部卒業,技術士(建設部門)。2006年第二京阪道路工事,’09年大滝ダム地滑り対策工事,’11年紀伊半島大水害発災直後から赤谷地区対策工事に従事し,現在に至る。’14年,’20年国土交通行政関係功労者(優秀建設技術者)受賞。

 2011(平23)年,東日本大震災の半年後の9月に紀伊半島で大水害が発生しました。本日は,その復旧にわれわれがどう取り組んだか,その中でチャレンジしてきた新しい取り組みなどを紹介させていただきます。

戦後最大規模の土砂崩壊

 ’11年9月の台風12号により,紀伊半島では総降雨量が広い範囲で1,000㎜を超えました。奈良,三重,和歌山の3県で約1億㎥の土砂崩壊が発生し,戦後最大規模の土砂災害となりました。紀伊半島全体で3,000を超える箇所で斜面が崩壊し,川のせき止めが17ヵ所発生しました。このうち奈良県下の大規模な河道閉塞(天然ダム)は4ヵ所。弊社が担当したのは奈良県五條市大塔町の赤谷地区です。赤谷川を崩壊土砂がせき止め,上流に天然のダム湖が形成されました。
 崩壊斜面の高さは約600m。東京スカイツリー(634m)に相当します。崩壊土砂量は1,100万㎥です。せき止めた箇所は幅250m,延長600mに及びました。
 赤谷地区での対策工事の特性を3点挙げます。1点目は流域面積が大きく,ダム湖の水位上昇が顕著で,工事中の被災リスクが高いことです。2点目は,崩落斜面上部には亀裂の入った土塊が残っており,不安定な崩壊斜面直下での工事でした。そして3点目,雨が降ると崩壊斜面に残存している土砂がヘドロ化して施工箇所に流入することです。
 緊急対策工事では不安定な土砂を掘削して地下排水管を設置しました。ダム湖の水を常時下流に流すためです。そして大雨に備え,その上に仮排水路を設けました。最初は強制排水によるダム湖の水位低下作業です。1日でも早く排水して天然ダムの決壊リスクを低減するため,ヘリコプターでポンプなどを搬入しました。実は工事でヘリコプターを使うことはまずありません。フライト1時間当たり約150万円することもあって躊躇しましたが,一刻も早く決壊リスクを下げるという国交省さんの強い意志で決行しました。
 場内ではまず散乱した倒木を集積し,大型機械で土砂を掘削します。突貫工事でした。雪の日も夜間も関係なく,年末年始不休で進めました。そして仮排水路が完成しました。これで警戒区域が解除されました。
 その後は恒久的な対策工事です。天然ダムの安定化と土石流被害の防止が目的です。まず堆積した土砂を固定するために,砂防堰堤をその足元に設置します。その後,下流側にもう1基の砂防堰堤を設置して,上流からの土石流を一時的に止める空間を設けます。

工事中に台風,斜面が再崩壊

 ここからは正直あまり振り返りたくない工事中の被災について説明します。崩落斜面は雨で毎年のように再崩壊しました。’14年8月の台風に伴う大きな崩壊では,構築した砂防堰堤の上部が一部損壊しました。それらを乗り越え,基幹となる砂防堰堤を完成させました。その後下流域の砂防施設を完成させ,恒久対策の重要な施設がほぼ完成しました。
 弊社の若手技術者の当時の素直な思いをまとめてみました。「現地に入るのが怖かった」「一日に何度も作業服を着替える現場はほかになかった」「覚悟を決めて家族で現場所在地に引っ越した」。経験したことがない過酷な工事への覚悟が集約されています。
 これまでいろんな工事を担当してきましたが,これほど安心・安全づくり,モノづくりの難しさと臨場感を体験できた工事は初めてです。われわれゼネコンマンは,仕事を通じて社会貢献できる機会が与えられています。赤谷工事で,その社会的使命を改めて実感しております。懸命に取り組んできた結果だと思いますが,地盤工学会から社会貢献賞を,近隣の地域からも感謝状をいただきました。
 最後に,弊社が開発を進めている無人化施工,自動化施工について紹介します。赤谷工事では,出水期に再崩落などの危険がある場所では無人で工事を進める必要がありました。安全な場所に操作室,オペ室を設け,重機にはアンテナ,カメラ,無線などを装備して動かしております。

工事の自動化で宇宙にインフラを

 新たにロボットを使う無人化施工の開発にも取り組んでいます。従来の無人化施工は特殊な機械を工場で改造して現場に搬入するので,時間を要します。ロボット型の無人化施工は,アルミとゴムチューブで組み上げられた簡易なロボットを現場に持ち込み,重機に載せるだけで遠隔で無人化操作ができるシステムです。
 当社が取り組む自動化施工もご紹介します。従来のリモコンなどによる建設機械の操作とは異なり,人間がパソコンとかタブレット端末で複数の建設機械に予めプログラミングした作業を指示し,自動で運転させます。’24年竣工予定の成瀬ダムも,このシステムを使ってつくられています。
 この技術が全てのプロジェクトに導入されれば,土木現場は無人の巨大な工場になります。人間は遠隔地から管理する。未来は宇宙にインフラをつくることも夢ではありません。AI,IoT,ロボット,全く新しい領域の人材が鹿島,そして土木の未来を変えていきます。
 今後の少子高齢化の加速,建設業における労働人口の減少も避けて通れないことから,この自動化施工技術は欠かせないものになるのではないかと思っております。
(スライド・映像とともに)