1995年NHK入局。岡山局勤務を経て,東京・ドラマ部,大阪局,NHKエンタープライズで一貫してドラマ制作に携わる。「ちゅらさん」「天地人」「坂の上の雲」「カーネーション」「ごちそうさん」などに参加。制作統括として「アシガール」,連続テレビ小説「スカーレット」を手掛ける。2018年より二度目の大阪局勤務中。
私は去年の10月から今年3月まで放送した連続テレビ小説「スカーレット」の制作統括を務めました。朝ドラは意外と知られていないのですが,1シリーズが半年間,基本的には1週も空けずに放送する仕組みで,東京が4月~9月の前期,大阪は10月~3月の後期を担当します。
大阪担当の朝ドラには不文律として「西日本を舞台に」があります。関西をあっちこっち行き,陶芸の話に,となりました。何かに向けて努力し,成果が画面に見えてくるというのは,ドラマに向いています。
陶芸は頭の中に思い描いたものを指先で土に伝え,力を込めて形をつくり,炎の中で焼いていきます。どの方にお聞きしても,実際思い描いたものと炎から冷めて出てくるものは違っている,と。思いどおりのものが完全にはできないというのが,人生で起こることになぞらえるような気がしました。こんなよいテーマが私のために残っていた,と飛びついたような次第でした。
陶芸のドラマや映画で失敗作を割るシーンがあるのですが,取材させていただいた中で,それはやめてほしいといろいろな陶芸家に言われました。「自分たちにとっては,失敗と思ってもどれも愛おしい作品なので,割りたいと思ったことなどほとんどない」と。確かにドラマの作り手としては謙虚に考えなければいけないところです。人生もそうとらえたいとの思いもありましたので,それは心してやろうと思いました。
スカーレットは色の名前で,日本語で「緋色」と書きます。火の色という意味合いです。陶芸に生きる女性を描くのであれば,熱くて,温かいものを描きたいなというのもありましたので,燃えるような人生,心意気という意味でも「スカーレット」というタイトルを選びました。
「スカーレット」のヒロインの喜美子には,戸田恵梨香さんにお願いしました。千人ぐらいが来るオーディションが朝ドラの一つの醍醐味と言われるのですが,今回私は最初から戸田恵梨香さんに,ぜひお願いしたいと話を持っていきました。彼女は非常に演技力があり,すごく幅が広いというか,若い女性からお年の女性まで演じるのがとてもうまいのです。私の中で,ヒロインの60歳までを一人の女優に演じてほしいという思いがありました。
戸田さんは撮影が始まる3ヵ月くらい前から,東京でまず陶芸の先生のもとで修業して,信楽で修業しました。私たちが「吹替」と呼ぶ,手元のカットだけプロにやってもらう手法があります。ただ戸田さんには「手元も全部あなたの手で撮るので,毎日土に触っているようにみえるように修業してね」とお願いしました。彼女も大いにやってくれました。
出演者については,関西弁を流暢にしゃべってほしいというのがあったので,関西出身の俳優を中心に選びました。関西の方に出ていただくとなにがいいかというと,アドリブがきくので,泣くお芝居,怒るお芝居,皆でふざけ合うお芝居,そういうのがとても生き生きしてくるのです。ちょっと言葉指導の届かないところで本当に生きている生活が描けるのも,関西出身の俳優さんのとてもいいところだと思います。
プロデューサーとはそもそも何か,というお話をしておこうかなと思います。とにかく企画を立ち上げて,これをどうしてもやるんだという気持ちを持って始めて,放送して,成功させるというところまでの,全体をみるという仕事です。台本に合わせて,このシーンはどのような映像にする,どうお芝居をしてもらうということを考えるのがディレクター。どういう音楽をかけよう,どういう編集をしようというのも、ディレクターの仕事です。
プロデューサーは全体を見て,地元とのやり取り,脚本でこういう話にもっていく,キャスティングをする,スタッフを集める,お金の計算―。ありとあらゆることをやらなきゃいけない仕事になっています。
女性の成長譚をとりあげることが多いのですが,誰かが元気に成長していく話を朝に届けられるというのは,やはり私たちの中でも本当にやりがいになっています。関西でつくるものは,明るいんです。そういったことをお届けできるのが,とても我ながらありがたい仕事だなと思っております。
今,「エール」がちょっと止まっていて,もうすぐ再スタートしますが,その後,「おちょやん」というNHK大阪の朝ドラを私の後輩が準備しております。松竹の名女優浪花千栄子さんがモデルです。応援していただければ幸いです。
(スライドとともに)