大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2020年8月21日(金)第4,760回 例会

コロナと人種問題に揺れるアメリカ ~秋の大統領選を占う~

髙 井  裕 之 氏

欧州エネルギー取引所 上席アドバイザー
米州住友商事(株) 前ワシントン事務所長
髙 井  裕 之 

1980年神戸大学経営学部卒後,住友商事入社。ロンドン駐在を経て,金融事業本部長,エネルギー本部長などを歴任(同社執行役員)。住友商事総合研究所代表取締役社長,米州住友商事会社ワシントン事務所長を経て,2020年7月から欧州エネルギー取引所上席アドバイザー。

 最近の4~5ヵ月くらいで米国の政局がものすごく変わりました。2月ぐらいまではトランプ大統領の再選はまず間違いないだろうとワシントンの専門家も言っていました。ところが,コロナの間にどんどん経済が悪化して,しかもトランプさんは「コロナなんてない」とか「こんなんは放っといたら治る」とか,とんでもない政策をやったために状況がどんどん悪化してしまった。BLM(Black Lives Matter「黒人の命も大切なんだ」)という運動が起き,どんどんトランプさんの信頼性が地に落ちていったという。

再選を確信

 2月は,ウクライナ疑惑の弾劾裁判でトランプ大統領の無罪が確定して,ご本人は再選すると確信したわけです。史上最長の景気拡大,株価も市場最高値を更新する状況にありました。しかし,コロナが上陸し,トランプ大統領が3月13日に国家非常事態宣言を出します。米株価はコロナを受けて大暴落をするというのが3月の状況でした。
 コロナが蔓延する中,ミネアポリスで黒人拘束致死事件が起こる。ジョージ・フロイトという黒人がお店で買いものしようと20ドル札を出したんです。それが偽札ではないかと警官からいちゃもんをつけられて,膝で首のところを抑え込まれた。10分ぐらい続けたので,窒息してしまって死んでしまったのです。
 抗議デモの人たちがホワイトハウスの前に集まっているときに,トランプ大統領はゴム弾を打って,催涙ガスを使って蹴散らして,側近を連れて教会まで歩いて,バイブルを片手に掲げて,選挙キャンペーンの記念撮影をしたのです。このような行為に対してキリスト教のまじめな方々が反発をして,ものすごくアンチトランプの声が上がった。

2冊の暴露本

 加えて,2冊の暴露本が6月,7月に出る。1つは,元トランプ大統領の安全保障担当補佐官ジョン・ボルトンさんの,「THE ROOM WHERE IT HAPPENED(それが起きた部屋)」です。トランプ大統領は,いろんな外交上の常識を知らないということで揶揄されているんですけど,ある外交のミーティングで側近に,「フィンランドはロシアの一部やろな」と聞いたりとか,こういうのがいっぱい書かれています。もう1つは,メアリー・トランプさんというトランプ大統領の姪っ子が書いた「the World’s Most Dangerous Man(世界で一番危険な男)」で,家族の内側からトランプのことを批判したんです。
 そういうことが重なって,どうなったか。コロナ対策でどちらを信用するか?大統領としてどちらが精神的な安定感があるか?などで,バイデンさんがトランプさんに圧倒的にリードするようになった。ただ,米大統領選挙は人気投票じゃない。538人の選挙人の過半数をとったほうが大統領になる。前回も,ヒラリー・クリントンさんがトランプさんよりも多くとったが,選挙人がとれなかったということで負けてしまった。
 トランプさん,バイデンさんのどちらが強いかを州ごとに分析をして,どちらでもない州をスイング・ステート(Swing State)もしくはトスアップ(Toss-Ups)と言っています。
 いろんな選挙分析をする方がいますが,私が一番信頼できると考えているのが,ラリー・サバトさんというバージニア大学の政治学の先生です。サバトさんは,アリゾナ,フロリダ,ノースカロライナ,ウィスコンシンの4州がスイング・ステートという分析をしています。それ以外は大体色分けがされていて,バイデンさんは選挙人を既に268人まで積み上げている可能性が高いという。270人の過半数まであと2人なんです。4つのスイング・ステートのうちでどこか1つとれば,勝つ確率は高い。しかも,共和党が強いと言われる州でも,今どんどん共和党の人気が落ちているので,トランプさんが負ける可能性が高いと言っています。

上院選も注目

 大統領選ばかり注目されますが,上院選も重要です。下院は恐らく民主党が過半数をとるのでしょうが,ホワイトハウスを民主党がとっても,上院の過半数が共和党の場合は,ねじれで法案が通らなくなってしまう。ただ,サバトさんによると上院選も非常に今接戦になっている。
 私の結論です。シナリオAは,大統領と上院と下院をすべて民主党がとる。2つ目のシナリオBは,大統領と下院に関しては民主党が制して,上院に関しては共和党が何とか守る。3つ目のシナリオCが現状のまま,大統領と上院は共和党で,下院は民主党ということです。このAとBとCを比較すると,今現在Bの確率が高いのかなと。でも,ほとんど拮抗してAの確率。Cの確率は非常に低いと思っています。
 選挙まで,まだ2ヵ月半ぐらいあるので,バイデンさんが失態を演じてしまう可能性も否定はできませんが,そういうことがなければ,非常に高い確率でバイデン政権が誕生するんじゃないかと。上院まで民主党になると,米国の政策がガラッと変わる可能性があります。米国で事業をされている方がおられましたらば,来年1月20日以降は,世の中がガラッと変わるリスクを想定されていたほうがいいんじゃないかなと思います。
(スライド・映像とともに)