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2020年2月21日(金)第4,750回 例会

ラグビーの神様について

新 木  直 人 氏

賀茂御祖神社
宮 司
新 木  直 人 

1937年生まれ。’63年京都市左京区鎮座,賀茂御祖神社(下鴨神社)奉職。2002年現職。’07年洛北地域の六社の宮司を兼務。1989年以降,全国賀茂社連合理事長やボーイスカウト等多数の要職を務める。
京都紫竹RC 2016~17年度会長。著書:「糺の森/下鴨神社」,「世界遺産糺の森/下鴨神社」等。

 皆さん,こんにちは。お招きいただきましてありがとうございます。何か大変な病が社会に蔓延しているようであります。ことしの正月は天気もよかったですし,非常に穏やかに明けまして,この1年はさぞいい年になるのではないかなと思っていた矢先にこういうことになって,大変な思いをいたしております。皆さんも「どうしたもんやろか」と悩みごとを抱えられたと思いますが,神社界もそうなのです。ただ神社は,こういうことはぜひ避けてほしい,病気にかからないように,疫病にならないようにとお祈りするところですから,それをやめるというたらえらいことで,宗教としての役割を果たせません。特に下鴨神社は全国に崇敬者がおられて,「葵祭」という京都の三大祭をする神社でもありますので日本中に関係があります。お祭りをやめては意味がないのではないかと思います。

糺の森で日本初の試合

 さて,昨年非常に日本中が盛り上がりましたラグビーの「神さん」についてです。私はラグビーをしていたわけでなく,にわかファンの一人であります。
 下鴨神社の境内を「糺の森」といいます。「源氏物語」に糺の森と出てきますので,今日でもそのように境内を呼んでおります。糺の森はかなり広かったのですが,信長の検地,秀吉の検地,徳川三代の検地,明治4年の「上知令(じょうちれい)」でどんどん狭くなりました。下鴨神社の様々な財産の目録などを見ていますと,糺の森の中には54のお宮さんがあることになっています。日本の神さんは八百万の神さんで,800万からの神さんがおられます。下鴨神社にはその800万の大もとの神さんが3人おられます。そのおひとりが「神魂命(かんたまのみこと)」という神さんで,「雑多社(さわたしゃ)」というお社が糺の森にあります。
 下鴨神社ではいろんな毬に関する行事がお祭りの日に行われております。正月の4日には「蹴鞠始め」で蹴鞠をやっております。お馬さんに乗って球を打つことを「打毬(だきゅう)」と日本ではいいますが,西洋ではクリケットと呼ばれます。馬に乗って球を打つ遊びです。そういうことがそのお祭りの日に行われております。葵祭は何が始まりかと言いますと,お馬さんが走ることがお祭りの原型でありました。

全国の関係者が参拝

 ちょうど雑多社のお社の前が広い馬場です。明治の初めのころは慶應義塾も京都府庁の近くにありまして,慶應と京都大学の前身である旧制第三高等学校の学生さんがその馬場でラグビーの試合をしました。明治43年と記録されております。
 神戸の居留地や横浜の居留地に外国人の街ができ,そこで行われていたラグビーを慶應の学生さんが習って,三高の学生さんに教えて,最初に試合が行われた場所ということで,三高の同窓会の皆さんが碑を建てました。それが「第一蹴の地」という石碑でございます。
 そんなわけで,このたび,ワールドカップが日本で行われることが決まりました。試合はトーナメント方式ですので,その順番を決める抽選会が行われます。いつもはロンドンなどで行われていますが,初めて外の国に出まして,日本で,しかも京都の地で抽選を行うことが決まりました。
 その一番の理由が,日本のラグビーの歴史の中で非常にゆかりがあるのが京都で,しかも下鴨の地であるということで,京都迎賓館で抽選会を開きました。そしてイベントとして糺の森のこのラグビーの神さんの前で蹴鞠をやりましました。テレビで放送されたりもしましたので,ご覧いただいた方もおいでかと思います。蹴鞠の体験もありまして,さすがに参加国のヘッドコーチらはうまいこと蹴りまして,拍手喝采でそのイベントが終わったことを覚えております。以来,このお社には,全国のラグビーファンをはじめ,会社や大学,高校のラグビーチームのあるところがこぞってお参りをしていただいております。

「魂」は「玉」に通じる

 なぜラグビーの神さんがこうしてあるかというと,その「神魂(かんたま)の神さん」の「魂(たま)」というのが「玉」に通ずるという意味合いで解釈され,蹴鞠の神さんであり,打毬の神さんでありという信仰が江戸時代までありました。この「第一蹴の地」のラグビーの神さんも,「神魂(かんたま)」の「魂」が「玉」に通ずるというような信仰が古代からずっと広がってきているのではないかと思っています。
 ラグビーの関係で,急に知られるようになりましたが,そういう長い歴史を持っているのは,日本人の心の思いが深い,常に自然を大切にする,自然を尊崇するからではないかと思っています。神道というのは,自然のあらゆるものに魂が宿っているという信仰でございます。教義があるわけではない宗教でありますので,自然そのものを拝む,どこにでも神さんがおいでになる,そういう信仰が広まって,市民の皆さんの中でも日常の生活にそれが続いております。
 毬を蹴ったり,ボールを持って走ったりというのにあまり現実味がないのではないかと思いますが,「魂(たま)」という文字が大きな意味合いにとられていたのではないかと思います。何をするにも,どんな仕事をするにも,日本人はその原点を見ながら従事をいたします。
 話が飛び飛びになりますが,平成27年に下鴨神社は平安時代に式年に変わりましてから34回目の遷宮の奉仕をいたしました。54のお社の最後のお社を今つくり変えております。再来月には遷宮ができると思います。
 今回も大阪の皆さんには大変ご支援,ご協力をいただきまして,企業の経営の方々から特にご支援をいただいて,お伊勢さんも同様に大変お世話をいただきました。きょうはこういう機会をいただきましたので,改めてお礼を申し上げます。どうぞ,ことしの5月15日の葵祭には神社のほうへぜひおいでいただきたい。それをお礼にしたいと思いますので。
 きょうはお招きいただきまして,ありがとうございます。どうやら時間になりましたので,ご無礼いたします。ありがとうございました。