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2020年1月24日(金)第4,746回 例会

生活者の平成30年史 ~データでよむ高齢者・子ども・家族の価値観~

夏 山  明 美 氏

博報堂生活総合研究所
主席研究員
夏 山  明 美 

1984年博報堂入社。主にマーケティング部門で得意先企業の調査業務,各種戦略立案等を担当。2007年より現職。研究所のリサーチ全般のプロデュース,独自調査の管理・運営,生活変化の研究等を担当。共著に『生活者の平成30年史』,『C to B社会~賢くなった生活者とco-solutionの関係へ~』等。

 博報堂は人々を消費者でなく,多様化した社会で主体的に生きる「生活者」として捉え,新しい価値を創造していこうという考え方を大切にしています。その旗振り役,生活総合研究所を1981年に設立し,さまざまな研究をしています。長く生活者の価値観を研究している民間の機関はあまりないでしょう。

「常温社会」を楽しむ

 最初のデータは「生活者全体26年変化」です。’92年から首都圏・阪神圏で20~69歳の男女3,080人に調査しています。
 「日本の行方についてどうなると思いますか?」という問いに,’90年代後半は「悪い方に向かっている」との回答が多かったのですが,ここ数年「現状のまま変わりない」という人が多数派になっています。
 「身の回りに夢や希望が多い」人が減り,将来への期待感が低迷しています。ただ,「身の回りで楽しいことが多い」人は増えています。将来的に大きな希望はなくても,今ここにある暮らしに幸せを感じているのです。
 次に「社会と個人のどちらを重視するか?」という質問には「何か社会のために役立つことをしたい」という人が減る一方,「国や社会のことより,個人生活の充実にもっと目を向けるべき」という人が過去最高になりました。
 そこで私たちは「熱く怒りを感じることも,悲観することもない。ありのままを受け入れ『イマ・ココ・ワタシ』に幸せを見つけようとしている」と捉え,熱くもないし冷たくもないということで,「『常温社会』を楽しもうとしている」と分析しました。

「秋活」

 高齢者・子ども・家族に分けて,価値観の変化を見ていきます。まず「高齢者30年変化」です。10年おきに首都圏で60~74歳の男女700人に調査しています。
 高齢者の特徴は三つありました。社会との向き合い方については「退かない」,人との向き合い方では「頼らない」,自分との向き合い方は「気負わない」です。
 「退かない」については,「人生における60代の位置付け」を聞くと,「趣味に生きる時」「開放・解放の時」が減り,「再出発の時」と捉える人が増えています。
 「頼らない」という価値観では,「子どもとはいつまでも暮らしたい」と考える人が減っています。経済的な面では「子どもに経済的に負担をかけたくない」という人が,2016年の調査で94.2%になっています。介護でも「家族以外に介護してもらうことに抵抗はない」という人が61.6%にもなります。
 「気負わない」では,「何でもほどほどにやる方だ」という人が増えてきています。収入は減っても楽しいことは減らしたくないという意識が生まれているようです。
 60歳以降を季節に例えれば,子育て,仕事を終え,いろんなものを楽しむ「秋」です。学びの秋,スポーツの秋,仕事の秋といろいろな「秋活」を楽しんでいる人が多い。企業は「秋活」を支援していくことが大事です。
 次は「子ども20年変化」です。首都圏で小4~中2の男女800人に調査しています。
 「自分の性格」について聞くと「優しいと思う」「礼儀正しいと思う」が,この10年で多くなりました。日本の子どもは性格が丸くなったようです。
 「消費」については「お金を無駄遣いしないように気を付けている」という子どもが徐々に増え,過去最高です。小遣いをもらっている子どもに使い道を聞くと,「貯金」が53.8%で過去最高。それ以外では「食べ物や飲み物」「マンガ」「CD・DVD・ブルーレイ」ですが,いずれも減っています。
 最も大きく変化した分野が「情報」で,最大の要因はスマートフォンです。「スマホを持っている」子どもは,小学生で21.6%,中学生61.6%。ゲーム,音楽,マンガ…。ただでいろんな情報が手に入ることが大きいようです。私たちは,彼らを「タダ・ネイティブ」と名付けました。生まれたときからスマートデバイスが浸透し,情報もコンテンツもただで楽しむことが常識という世代です。
 普段はゲームをただで楽しんでいる中学2年生の子どもが,声優が登場しゲームの音楽を生演奏するライブで,父親のチケット代も含め18,000円を使ったそうです。「好き」を表明する手段としてお金を払う。「希少価値」から「応援価値」への移行です。応援しがいがあるか,賛同できるかどうかに変わっていくのではないかと思います。

夫婦のツートップ化

 最後に「家族30年変化」です。対象は首都圏で妻が20~59歳の,夫婦同居している630世帯。変化のトレンドとして「家族のユニット化」が挙げられます。「家庭内で妻が夫を何と呼ぶか」という質問で「パパ,お父さん」と呼ぶ人が減り,名前で呼ぶ人が増えました。家族内の役割でなく,個人として夫と妻が向き合い始めています。夫婦といえども個人の集まり,ユニット化しています。
 そして「夫婦のツートップ化」です。妻は強く,夫は優しく譲る形になっています。
 最後は,「夫婦で進むワークシェア化」です。「夫も家事を分担する方が良い」という妻は最新調査で85.1%,夫も81.7%と,どんどん意識が高まっています。
 家事について,ある男性が「家族が寝静まってから動画を見ながら皿洗いをするのが楽しい」と話していました。「家事という家のこと」を「個人の楽しみごと」にしていました。そこでわれわれは「家事」を「個事」と呼び,そういう発想転換を提案できるのではないかと考えました。逆に,個人でやっていること(個事)を家族でやったら,もっと楽しいという発想ができると思います。
(スライドとともに)