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2020年1月17日(金)第4,745回 例会

就職氷河期世代の人生再設計支援

高 原  暢 恭 氏

(株)日本能率協会コンサルティング
常任顧問・人事経済研究所長
高 原  暢 恭 

1955年岡山県生まれ。’80年早稲田大学大学院修士課程修了。’85年(株)日本能率協会コンサルティング入社。2001年人材マネジメント事業部長シニアコンサルタント。’09年取締役経営革新本部長。’13年常務取締役管理本部長。’17年より現職,シニアコンサルタント。

 本日は「就職氷河期世代の人生再設計支援」についてお話しします。これは企業の未来をつくることにつながるのではないだろうかと常々考えています。「就職氷河期世代」は金融危機やデフレ不況など就職難と言われていた時代に遭遇した世代で,現在35歳から44歳くらいの方々です。正社員に就けないで派遣社員のまま働いてきた人が多くいます。就職活動で何十社も落ちて,そのままニートになってしまった方も含め,だいたい100万人くらいと言われています。人生再設計支援とは,そういう人たちに個々の状況に応じた支援を行って活躍の場所を広げることです。今後3年間でこの世代の正規雇用者を30万人増やすため,政府もかなりの予算を投入しています。事業を発展・拡大させるため企業にとっても取り組む価値があるテーマです。

生産年齢人口が減少

 就職氷河期世代は全体で1,689万人います。その中で「正規の職員・従業員」として働いている方が916万人。いわゆる「非正規の職員・従業員」が371万人です。このうち正規の職員として働きたいと思っていて,なれていない方が50万人いるそうです。「(仕事も家事も通学もしていない)無業者」も40万人います。こうした人たちは35歳から44歳の前後の世代にもいます。
 政府は令和2年度の概算要求レベルで総額1,344億円の予算を計上しました。「就職氷河期世代支援プログラム」としてまずハローワークに専門部署を設置するといった「きめ細かな伴走支援型就職相談体制の確立」に取り組みます。そして「受けやすく,即効性のあるリカレント教育の確立」のため,仕事や子育てを続けながら受講できるプログラムや,正規雇用化に有効な資格取得に資するプログラム,短期間での資格取得と職場実習を組み合わせた「出口一体型」のプログラム,人手不足業種などの企業のニーズを踏まえた実践的プログラムも提供します。こうしたプログラムを職業訓練受講給付金の対象として受講を支援します。
 企業の採用増加につながる環境整備のため,採用選考を兼ねた「社会人インターンシップ」の推進や,各種助成金の見直しといったインセンティブ強化などにも取り組みます。
 兵庫県宝塚市は就職氷河期世代から4人を採用しました。厚生労働省も中途採用者を10人募集して1,934人が集まりました。内閣府の中途採用者には685人の応募がありました。もう少し考えなければならないのは,非正規社員を正社員化する,あるいは企業の外にいる方を正社員化していくことです。なぜかと言うと日本の「生産年齢人口」が減少してきているからです。生産年齢人口は15歳から64歳までです。国立社会保障・人口問題研究所の予測によると,2020年は7,340万人ですが,10年後の’30年は6,773万人となり,7.74%減少します。’40年は5,811万人で,’20年比で20.85%減少します。少子化対策を頑張って仮に大成功してたくさんの子どもが生まれたとしても,実は20年後の生産年齢人口にはそれほど大きな影響を与えません。何しろ生まれて20年たって二十歳ですから。20年後ぐらいまでは,生産年齢人口の減少を受け入れざるを得ない状況になっているとの認識を持たなければなりません。

積極的な人材投資を

 ではどう対応していくのか。5つの手立てが考えられています。1つ目はAI(人工知能)やIoT(さまざまなモノをネットワークでつないで相互に情報交換をする仕組み)を活用して生産性を向上することです。2つ目はさらなる女性労働力の登用です。「年齢別労働力率(1985年~2005年)」を見ますと,男性はほぼ100%働いていますが,女性は70%少々です。3つ目は65歳以上の高齢者の労働力の登用です。70歳を超える方々も労働力として登用していかなければなりません。4つ目は外国人労働力の登用。5つ目は就職氷河期世代で苦労をしている方々,ニートや派遣社員の方々の積極的な登用です。
 このままでは企業は社員数を維持できなくなってきます。20年で生産年齢人口が20%減るのですから。準備をしないと働き手がいなくなる。ただ外国人労働者や派遣社員,女性,高齢者に一定の役割を持っていただいて,もともとの社員の方々と連携しながら仕事をし,新しい価値を生み出すようなリーダーシップをつくっていくのは結構難しいことです。
 日本は資源のない国です。日本の経済がしっかりしてきたのは人材が優秀だったからだと言われましたが,「GDPに占める企業の能力開発費」は米国やフランス,ドイツ,イタリア,英国の欧米先進国と比べて日本はどこよりも低く,どんどん減ってきています。資源のない国・日本は人材育成で勝負してきたというのは伝説に近い話です。このツケは,これから必ず支払わなければならなくなってきます。
 一方で,企業の内部留保は順調に伸びています。日本の企業家は保身に走っているのではないかと大変心配になります。研究開発費やITに関わる情報投資も横ばいの状態です。資本主義は「拡大再生産」に本質があります。新しい利益を求めて投資をして,そしてより強固な体質をつくっていく。日本はそういう精神がなくなってしまった社会に見えてきます。
 今までの企業では吸収できなかった多様な人材に何らかの形で仕事についてもらって,それなりの役割を果してもらわなければ,日本の経済は縮小していくことになります。管理者は様々なレベルの人に合った職務開発ができるようなスキルを身につけなければならないないし,それをきちっと分担をして全体の中にうまく位置づけてマネジメントしていく必要があります。これからの管理者には今までよりも高度な能力が求められてきますが,トレーニングがおろそかになっているので,なかなか展望が見えてきません。就職氷河期世代の問題に積極的に取り組んでいくということは,企業が成長を獲得する条件をつくっていくことになると思います。
(スライドとともに)