1959年生まれ。大阪工業大学高校(現常翔学園高校),明治大学。卒業後(株)東芝に入社。’86年より摂南大学に勤務,現在に至る。’87年ラグビーワールドカップ出場。指導者として日本代表FWコーチの他,U21・U23日本代表,日本選抜,日本代表A,学生日本代表,関西代表等の監督を歴任。現在,JOC関西ラグビー協会理事(強化委員長),大阪ラグビー協会理事。
第9回ラグビーワールドカップが,9月20日から11月2日まで日本で初開催されます。これをきっかけに,ラグビーの素晴らしさ,魅力を感じていただき,ファンになっていただければいいなと思います。
ラグビーは1823年イギリスで発祥しました。自制心や協調性,尊重,敬愛と心身の苦痛に耐えるという「心・技・体」の成長を重視するスポーツです。1800年代世界進出を目指していた大英帝国は世界のリーダーとなるべき若者に学問だけではなく,心身の強さを求める目的でラグビーを取り入れました。裕福な家庭の子どもが集まっているパブリックスクールに働きかけ,強靭な肉体を持ったエリートを育てるべくラグビーを普及させました。ケンブリッジ,オックスフォード大学の卒業式では学力優秀者より先にラグビー部,ボート部のキャプテンが表彰されます。この2人は文武両道の証として生涯「ブルー」と呼ばれ,多くの人から尊敬を集めます。
日本には’99年に慶應義塾大学,その後,京都大学,同志社大学,早稲田大学,東京大学,明治大学に伝わり,ウインタースポーツの代名詞として広がりました。国立競技場の入場者数上位10傑で,1,2位が東京オリンピックの開,閉会式。アジア大会が4,6,7位。3,5,8,10位がラグビーです。
(スクリーンの)写真は,日本代表の試合前の国歌斉唱の場面ですが,背の高い人,低い人,大きな人,人種,いろいろな人が整列しています。これがラグビーの特徴です。
ラグビーには体格・能力・感性に応じたポジションがあり,自分の身体的特徴を生かした得意な分野でチームに貢献でき,他人をカバーできるところもある。この考え方は人間同士のつながり,社会生活に通じる精神ではないでしょうか。
ラグビーが大事にするのは「審判を尊重する精神」です。ミスジャッジが起きても,何も問わない。また審判が見ていなければいい,ではなく自分の中にレフリーをつくって,ルールを守っていきます。
次は「相手チームを尊重する精神」です。動画を見て下さい。これはサッカーのフリーキックの場面ですが,相手の応援団が,キッカーにプレッシャーをかけています。バスケットのフリースローでも同じです。シュートする選手はその声に舞い上がって本来の力を出せなくなっています。ラグビーは違います。これは昨年の早慶戦です。早稲田の選手がトライを決め,この後ゴールキックを蹴ります。慶應の応援団は早稲田の選手にプレッシャーをかけることはしません。敵チームでも,観客はフェアに応援します。
次は「相手の文化,習慣を尊重する」ことです。その代表は「ウォークライ(War Cry)」です。ウォークライとは,ニュージーランド,フィジー,トンガ,サモアなどの人たちが,外国人の上陸を防ぐために戦った伝統的な踊りです。(動画は)ワールドカップのニュージーランドとフランスの決勝で,黒いジャージで踊るのがニュージーランドです。ヨーロッパの選手はこの踊り(ハカ)にビビッてしまいます。しかし,ニュージーランドだけが得じゃないかということでやめさせない。文化として認めているからです。
次は「多様性を受け入れる」ということで,日本代表には外国人選手が何人か入っています。ラグビーでその国の代表になるには「当該国で出生」「両親,祖父母の一人が当該国で出生」「大会36ヵ月前にその国でプレーしていたか」。この3つをクリアし「他の国の代表になっていないか」という条件です。
またラグビーにはいろいろな言葉があります。「One for all, All for one」「ノーサイド」「キャプテンシー」「トライ」。この4つが代表的な言葉です。
「One for all, All for one(ひとりはみんなのために,みんなはひとりのために)」。自己犠牲と協調です。「ノーサイド」は試合が終われば「敵と味方ではなくなりますよ」ということで,敵であったけれども仲良くしましょうという意味です。国際試合では試合後,必ずパーティーがあり選手はタキシードを着て出席します。この時酔っぱらったりするとそのチームのランキングは下がってしまいます。「キャプテンシー」はラグビーから生まれた言葉で,キャプテンがすべての権限を持ちます。得点の「トライ」も物事に挑戦する,その精神が大切,という意味です。
ワールドカップは20チームを4ブロックに分け,上位2チームが決勝トーナメントに進みます。日本はAプールでアイルランド,スコットランド,ロシア,サモアと同じで,2位に入ると,決勝トーナメントに進めます。日本はランキングを11位から9位に上げて臨みます。
前回のワールドカップで素晴らしいことが起きました。日本対南アフリカ戦。時間は79分53秒。80分のゲームですから,あと7秒で29対32です。キックを狙えば3点。トライは5点。引き分けか,勝つか負けるかを選ぶ,の場面でキャプテンは逆転を狙ってスクラムを選択しました。このときに日本代表のジョーンズ監督は「なぜ南アフリカと同点に持ち込まないのか」と,壁を蹴ったそうです。結果はトライを取って34対32。日本が世界のラグビーに歴史を残した瞬間です。
いよいよ9月20日,日本代表対ロシア代表戦でスタートします。皆様,日本代表にご期待ください。
(スライド・映像とともに)