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2019年2月22日(金)第4,705回 例会

文楽人形~生命を吹き込む遣い手たち~

吉 田  玉 助 氏(文楽人形遣い)

吉 田  玉 助  (文楽人形遣い)

1966年生まれ。’80年,中学卒業後,吉田玉幸に入門。吉田幸助を名乗り朝日座で初舞台。2007年咲くやこの花賞受賞,’11年大阪文化祭賞奨励賞受賞,’15年国立劇場文楽賞文楽優秀賞受賞。’18年吉田玉助襲名。

 去年4月,大阪で吉田幸助から五代目吉田玉助を襲名させていただきました。文楽は,「大坂で生まれた大阪の芸能」です。文楽を皆様に守り続けていただきたいという思いを込めて,今日はお話をさせていただきます。

ぜいたくな演劇集団「文楽」

 文楽とはつまり人形浄瑠璃のことですが,出来上がったのは江戸時代ごろといわれ,300年以上の歴史があります。文楽は,人形遣いが人形に芝居をさせる変わった演劇方法です。そこに語り手である太夫,三味線の浄瑠璃が加わり,喜びや悲しみを表現していく。
 歴史を振り返りますと,最初,人形遣いは1人で,小さい人形を下から手を入れて遣うスタイルでした。それが芝居の表現の複雑化に伴って繊細な動きを要求されていくようになります。そこで3人で遣ってみてはどうかということで,人形の首(かしら)と右手を操る「主遣い」,左手を操る「左遣い」,両足を操る「足遣い」の3人構成になりました。おもしろい構成でございますが,大変お金のかかる――,1体に3人の人形遣いが必要ですので,舞台に6体人形が出ていたら18人かかります。そんなわけで文楽は非常にぜいたくな演劇集団なんですね。
 この人形を見ていただいたら分かりますように,文楽の人形は非常に簡素なつくりで顔は無表情,中身は空洞で手足がひもで吊るされているだけです。本当に簡単な動きしかできません。そこで私たち人形遣いが,命を吹き込みます。昔は主遣いも頭巾で顔を隠していましたが,エンターテインメント性を持たせるためにも今では顔を出す「出遣い」という方法で遣うようになりましたから,人形遣いはあまり表情を出してはいけません。人形の芝居の邪魔をしてはいけないからです。しかし,いくら人形をうまく操れても,やっぱり芝居心がないと最終的にはうまく見えませんから,人形遣いには芝居心も大切です。

主遣いまで約30年の修業が必要

 文楽では最初に「足遣い」として約15年修業します。そして「左遣い」に上がり,また約15年修業。本当に長い修業期間が要るんです。足遣いの頃には,顔のいい超イケメンな子たちもいるんですよ。しかし,修業を重ねてやっと一人前となり,主遣いとして顔を見せられる頃にはもう普通のおじさんになってしまっているわけです。それが我々としてももったいないと感じておりましたところ,2015年2月,「うめだ文楽」というのが民放5局で始まりました。当時私がリーダーを務めていたのですが,これは若い人形遣いが演じ,若い人たちにも文楽を見てもらうというコンセプトでした。今はテレビ大阪,関西テレビ,毎日放送の3局で「うめだ文楽」を応援していただいておりますが,ここでは若い人形遣いたちが顔を出せます。幅広い世代に文楽を知っていただくためにも,すごくいい機会を与えていただいたなと感謝しています。
 文楽の世界に入るには「研究生」「研修生」と2パターンありますが,私は師匠である父の吉田玉幸にじかに入門しましたので「研究生」でした。文楽協会に入って,師匠のところに入門するわけです。「研修生」は国の養成機関で2年間勉強します。人形だけではなくて,三味線や太夫のほか,お花,お茶,お琴,舞踊,全部します。そういうことを勉強させていただいて,何人かが本職,プロになっていくわけでございます。
 父は12年前に亡くなりましたが,父の頃は初代の玉男師匠が絶対的スターで,いつも主役でした。父は顔も強面でしたので苦み走ったような役どころが多く,今で言う名バイプレーヤーとして脇を固めていました。そして祖父は私が生まれるちょうど1年前に亡くなっており,実際に祖父の芸は見たことがないのですが,当時を知る人によれば人形が実物より大きく見えるほど迫力があったとのこと。
 そのように祖父と父が文楽の世界で活躍しておりましたので,私もこの世界に入ることができました。一歩でも祖父や父に近づけるよう,これからももっともっと文楽を盛り上げていきたいです。

師匠から芸を盗み,人形に命を吹き込む

 今日は女の人形で,どのように生きているように遣うか見ていただきたいと思います。左遣いの吉田玉勢君,足遣いの吉田玉彦君は先ほどご説明した「うめだ文楽」にも出演しています。
 文楽では足遣い左遣いを経て主遣いになると「かしら」を遣います。かしらの下には「胴串(どぐし)」という棒がついていて,この中に大事な糸がついておりまして,糸を緩めるとかしらが下を向き,引っ張ると上を向く。芝居の要となる糸ですね。
 顔の後ろ(かしらの中)にはいろんな「引き栓」がついており,目・口・眉の微妙な動きを出すことで感情を表現します。喜怒哀楽や,文楽では見栄を切りますので,見栄に合わせて眉毛を上げて目をずらせ,遣っていきます。人形は,ただ持っているだけでは何も表情がないんです。かしらにも「ここまで回すときれい」という究極の角度があり,そういった角度なんかで色気を出したりします。
 次に足ですが,女には足がありません。そのため足遣いは衣装を少し織り込んでつまみをつくり上げ,それを前後にさばくことで着物が地面にすれる様子を表します。
 人形の全体の動きは,サインでできています。無言でも,肩や,かしらの動きなど主遣いのサインを左遣いと足遣いが感じ取って動かします。例えば,主遣いが膝を打てば足遣いが足音を出すというようなことです。他にも,肩を動かすと手が勝手に流れる,顔を戻して左に返すと手が中に来る,伸び上がると前に行くという,こういうことです。
 主遣いは自分が遣いやすいように要所,要所をふとん針に四筋の木綿糸をつけて縫っています。これは師匠を見ながら覚えます。師匠は手取り足取りは教えてくれません。最初の初歩段階は教えますけれども,あとは見て,仕事を盗む。お芝居でも,やっぱり見て盗む。師匠が手取り足取り教えてくれるようでは,もう下手ということなんでございます。
 ぜひ皆さんこれからも文楽を応援していただきたく,どうぞよろしくお願いいたします。

(文楽人形とともに)