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2018年7月13日(金)第4,678回 例会

ここがちがう囲碁界と将棋界

後 藤  俊 午 氏

囲碁棋士 九段 後 藤  俊 午 

1966年生まれ。兵庫県出身。日本棋院常務理事。’85年大手合第1部全勝優勝。’96年第22期天元戦準決勝進出。’97年第22期碁聖戦準決勝進出。’99年第12回世界選手権富士通杯本戦出場。2002年第1期トヨタ&デンソー杯本戦出場。(囲碁関連受賞履歴)1990年第24回棋道賞勝率第1位賞・連勝記録賞受賞☆28勝7敗.800 14連勝。’04年通算500勝達成。

 将棋界と囲碁界というのは,お隣というよりも非常に仲のいいいとこ同士という感じです。将棋の棋士の友人,知人たくさんいまして,結構一緒に飲食したり,若い頃は草野球を一緒にやったり,ゴルフしたりと。囲碁棋士と将棋棋士って,ほとんど生活の形態が一緒なのです。平日に時間がとれる,不規則な生活,仕事がある人なんて限られていて,皆,暇を持て余しているということで,よく一緒に遊びます。

 もちろん私,碁打ちなので碁打ちとも遊びますけど,将棋の人と遊ぶ,とっておきの利点といいますか,仲違いしない最大の理由がありまして,それは何かと言うと,ふだん絶対に勝負をしない,戦う相手ではないのですね。よく飲み屋とかに行って,私は将棋は初段ぐらいですけど,将棋の人でも囲碁をする人がいて,碁盤と将棋盤と2面並べて,飲みながら同時にそれで対決します。酒が入ると遠慮がなくなりますから,私は将棋を何ぼやっても絶対勝たせてもらえない,囲碁もその逆で,そうやってワイワイと遊ぶ。

 藤井聡太効果で,将棋ファンというのは,最近また「観る将」と言いまして,皆さんお聞きになったことがおありかどうかわかりませんが,観る将棋。将棋を指したりすることはないけど,将棋を観て楽しむ,あるいは将棋の棋士を観て楽しむ。確かに藤井さんなんかは,まあ観ているだけでも楽しいですよね。あのありとあらゆる世代に愛されるいいキャラというか,私は自宅にテレビがないので藤井さんを映像では観たことないのですけども,新聞や雑誌等で観ているだけで,ああ,やっぱりすごい人だなと思います。

人生の岐路は小学生の時

 人生の岐路で何回か,私,親父にだまされまして。一つは小学校に上がるときに,お前,小学校に行くと,大体何か習い事を始めないかん,これだけの中でどれか選べと。それが,ピアノ,ヴァイオリン,裁縫,囲碁,さあ,どれや。要するにこの中やったら,こいつは囲碁を絶対に選ぶやろうなという中に入れてきよったのですね。今思ったら,なかなかこれはいい作戦やったなと。親父に感謝するべきなのかどうか。

 小学校3年になると硬式野球のチームに入れたのです。それ以前は小さ過ぎて硬式野球はあかんということで,父親に,「3年になったら硬式野球のチームに入りたいから」と言って,「わかった,わかった」と。ある日曜日,「よし,行くぞ。とりあえず大阪に出かけるからついてこい」。野球チームの見学でも連れていってくれるのかなと思ったら,当時,大阪の老松町,南森町に日本棋院関西総本部という組織がありまして,そこへ連れて行かれたのです。

 私は神戸の東灘区で,大阪なんか滅多に行くこともないし,父親についていくしかないのですけど,ビルの一室でおかしいなと思っていたら,そこに石井邦生九段,当時院生というプロを目指す子どもの師範をしている先生の前になぜか私,座っていまして,「君,囲碁,結構できるらしいな。プロになる気もあるのか」,「エー,何の話ですか」みたいな。でも,気がついたら小学校3年生のときに,私はその日本棋院の院生というプロを目指すところになぜか入ってしまった。今から思えば,人の運命というのは案外そういうところで決まるのやろうなと。

世界で5千万人の囲碁人口

 囲碁の起原は判然としないのですけど,一応言われているのは中国の占星術です。それが変化して囲碁というゲームになったと。囲碁というゲームは,一言で言うと盤面を使ってやる陣取りゲームです。自由に好きなところに石を置いていって相手より少しでも自分の陣地を広げる。こういうゲームは世界中にあまり類がない,唯一無二と言っていいゲームではないかと言われております。中国では,今からさかのぼって2千年ぐらい前には,人々の間で囲碁がされていたのではないかということになっている。日本に伝わってきたのが奈良時代でしょうか。

 将棋と囲碁を比べて,日本国内では将棋のほうが圧倒的に人気者ですけども,日本特有のゲームなので,日本だけなのです。その点,囲碁というのは世界中に広まって,ルールもほぼほぼ一緒です。日本,韓国が中心になって使っているのが日本ルール,中国には中国ルールというのがあるのですけど,技術的な面ではほとんど影響が及ばないので,ほぼ世界中,同じルールで楽しめる。

 人口も全世界規模なので,囲碁人口大体5,000万人ぐらいはいるだろう。そのうち中国人が2,000万人,日本は,これはレジャー白書の統計をもとにしているのですけど,現在350万人ぐらいと言われています。それに対して韓国は囲碁人口800万。韓国の人口は4,000万人ぐらいで日本の3分の1程度,それで日本の倍の囲碁人口ということで,多分囲碁は韓国人の気質に合っているのでしょうね。

 将棋人口は日本で大体700万人ぐらい,世界で見ても701万人ぐらいなので,これイメージで言うと,囲碁というのはサッカー,将棋は蹴鞠ぐらいの感じですね。でも,現在の日本では,サッカーよりも蹴鞠が圧倒的に人気です。

認知症予防に抜群

 時間がまいりましたので,最後に,一応専門的な医学的見地から見て,「囲碁をすると,脳の前頭葉はじめありとあらゆるところにいい効果を与えて認知症予防に抜群。まず,第一に囲碁をやれ」と言われているぐらいなので,皆様,ぜひこれを機会に囲碁に興味を持っていただければ幸いです。将棋でも結構です。