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2018年5月11日(金)第4,669回 例会

大和の古刹<聖林寺>を護る

倉 本  明 佳 氏

奈良 聖林寺
住職
倉 本  明 佳

1968年新潟県生まれ。’81年まで父の勤務の都合により静岡県で過ごし,祖父が住職の聖林寺のある奈良県に移住。大学卒業後,一般企業就職,結婚を経て’93年聖林寺勤務。2007年7月千光寺ご住職大塚静遍阿闍梨により得度。’10年3月阿闍梨 網代智盟大僧正(真言宗室生寺派 現管長当時宗務長)のもと加行。同年12月大阿闍梨 下泉恵尚大僧正(真言宗大覚寺派元管長)のもと,伝法灌頂。’10年12月21日聖林寺住職拝命。国宝十一面観音等古刹を守りながら,布教奉仕活動,観光振興に努める。

 奈良県桜井市にあります聖林寺(しょうりんじ)というお寺をご存じでしょうか。JRと近鉄は同じ場所に桜井駅がありますが,2.6㎞南に聖林寺はあります。

 その場所からさらに5.5㎞行った場所にある談山(たんざん)神社は昨年,JRが青紅葉のキャンペーンを打っていました。聖林寺はその談山神社の別院としてできました。

 お寺なのに神社の別院とはと思われるかもしれませんが,談山神社は元々「談山妙楽寺」というお寺でございました。聖林寺を建てたのは藤原鎌足公の長男の定慧(じょうえ)というお坊様で,遣唐使として中国に行き,お坊様の資格を取って帰ってこられました。712(和銅5)年以来,歴史は古うございます。本堂や庫裏(くり)は江戸中期のものです。昔,興福寺と談山妙楽寺が大変仲が悪く,興福寺の僧兵による火災で燃やされたため,江戸中期からのものしか残ってございません。しかし,当時は学僧もたくさんおられたようで,火災では古い仏様を持って逃げてくださったようでございます。国宝十一面観音様以外に,鎌倉時代の端正なお顔立ちの仏様や,室町時代の神仏習合体の仏様と,非常に魅力的な仏様をたくさん残してくださりました。

十一面観音菩薩像は国宝指定

 ご本尊の子安延命地蔵様は石仏で,蓮台といって蓮のお花の上にお座りになっておられます。花崗岩の一枚岩からくり出されてきたと言っていいかと思います。聖林寺は国宝の十一面観音様が有名ですが,拝観に来られる方は,本堂でご本尊様をご覧になり,強いインパクトを受けるようです。「見仏記」というテレビ番組で,イラストレーターのみうらじゅんさんが「スゴイ!何これ。前もって言っといてよ」っておっしゃってましたが,中に入って,まずご本尊様にびっくりされる方が多いようです。

 ご本尊様のいわれは,文春(もんしゅん)という和尚さんでした。3人のお姉様がおられまして,どの方も出産の際に大変難儀されたというお話がございまして,それを絵本にもしております。大和の民話として,江戸時代からずっと伝わってきているお話でございます。

 国宝の十一面観音様のご説明をさせていただきます。仏様は如来・菩薩・明王・天部(てんぶ)と四つのランクに分かれます。十一面観音菩薩は悟りを開く前のお釈迦様の姿がモチーフとなっております。悟りを開けないわけでは決してありません。悟りを開いてしまうと,阿弥陀様が極楽浄土から出てこられないので,勢至(せいし)観音菩薩が我々のところに来てくださるということでございます。菩薩の位置にわざとおられまして,我々のところに来てくださる優しい仏様とご理解いただきたいと思います。

 名前の通り,11のお顔をお持ちでございます。ご本面の上に小さいお顔が載っていて,化仏(けぶつ)と言います。ご本面の上に10の化仏がついており,正面3面の菩薩面は慈悲の相。左側3面にはお釈迦様の説法を聞かない方に対して怒ってらっしゃるような,そんな憤怒面がついています。右側3面は牙上出(げじょうしゅつ)面で,下から上に牙が生えています。われわれ人間の弱い心,悪い心を威嚇したお顔をつけてくださっているのです。後ろに笑い声を上げ悪を蔑む暴悪大笑面というものが1面だけついています。ご本面を入れて11面と数えるのが十一面観音の定義でございます。観音様は「仏説十一面観世音神呪(しんじゅ)経」というお経に由来しています。

母から引き継ぎ十四世住職に

 私は住職になりまして8年目,聖林寺の中興である江戸時代から数えて第十四世です。その前は母,その前には父が務めておりました。私の母はよく働き,檀家様にとっても,私たち姉妹にとっても仏のような方でしたけれども,やはり浄土に行かれました。両親ともに60歳代で逝ったので,志半ばだったかと思います。母の場合,がんが分かった時,とても落ち着いていて,前向きで,計画的にすべてのことに段取りをつけてくれました。今自分にしかできないこと,今しなければいけないと思ったからではないかと思います。

 人間界は仏様にとってはあまりよいところではないので,しっかり生きないと苦しみの多いこの世の中に生まれてきてしまいます。仏教の本来目指すところは生まれないことでございますので,今はもしかしたらお浄土で見守ってくれているかもしれません。

耐震強化には御寄進が必要

 十一面観音様は第1回目の国宝指定で国宝に指定されました。現在は昭和34年につくられた収蔵庫におられますけれども,近く来るといわれる「南海トラフ巨大地震」に対応できる耐震性があるわけではございません。文科省と交渉し,免震板をつけること,今のお堂にも鉄筋を加える大がかりな工事をすることになります。来年の補助金に乗せていただいたら再来年に工事が始められるかなと思っておりますが,国からの補助は一部でございます。

 こちらの仏様は1300年,われわれを一日も休まずに見守ってくださっています。お寺は365日一日も休まずに開けております。皆様も桜井のほうに来られまして,仏様の美しいお姿を見ていただきたいと心から思っております。そして,1300年の時を迎える仏様,この現世で地震などで失うことがないように,皆様に御寄進のお願いをさせていただきたいと思います。どうぞご縁をいただきますように,よろしくお願いいたします。

(スライドとともに)