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2017年11月10日(金)第4,648回 例会

Harvard公衆衛生大学院に留学して

福 田  真 弓 氏

RI第2660地区2013~14年度
ロータリー財団・グローバル奨学生
福 田  真 弓

2005年千葉大学医学部卒業,同年,医療法人 鉄蕉会亀田総合病院総合診療科後期研修医。’08年国立循環器病研究センター脳血管内科レジデント,’11年同専門修練医。’13年 Harvard University, School of Public Health(MPH-Clinical Effectiveness 専攻)Master of Public Health取得。’14年国立循環器病研究センター先進医療・治験推進部(現データサイエンス部)。脳血管内科医師。

 国立循環器病研究センターで脳卒中の診療に当たらせていただいていますが,2013~14年度ロータリー財団の奨学金をいただきまして,Harvard公衆衛生大学院に留学させていただきました。

 医学系の研究は大きく分けて,実験室で行うような「基礎研究」とその後の「臨床研究」があります。新しい医療品や医療機器などの安全性や有効性を判定して最適な治療法を開発するためには,実験室のデータだけでは不十分で,最終的には人を対象とする「臨床研究」が不可欠です。例えば,昔は脳卒中を起こすと予防策とリハビリ,保存的な治療しかなかったのですが,「アルテプラーゼ」という薬が出て,血栓を溶かすことで脳のダメージを最小限にとどめることができます。使わなかった患者に比べ,社会生活に復帰できる割合が50%も増えました。臨床試験がしっかり行われると,治療を一変させるインパクトをもたらすことができると学びました。

援助受け臨床研究の先進地へ

 2008年のデータでは,日本は基礎研究の論文数は世界3位でしたが,臨床研究は18位程度。基礎研究を重視する風潮があり,臨床研究に携わるインセンティブも少ないためとされています。また,体系的教育システムの不足も指摘されています。私が学生の時も,臨床疫学,統計学などの専門知識を学ぶ機会はほとんどありませんでした。一方,欧米では公衆衛生大学院が20世紀の初頭から制度化されています。日本では2000年に京大に誕生したばかりで,欧米と100年の開きがあります。現在,アメリカではおよそ45のSPH(公衆衛生大学院)があり,約1万人の学生がいます。医療職以外に,法律,経営,メディア,心理などから学生が構成され,各界で指導的な役割を果たす専門家を養成しています。入学者の15%程度は海外からの留学生で,疫学,医療統計学に加え,医療政策学,人間行動科学,環境医学も学べます。

 このため,私も留学したいと考えるようになりましたが,ハーバードは学費が年間600万円と高額で,生活費もかかります。そんな時,ロータリー財団が「未来の夢計画」という新事業を開始するとウェブ上で知りました。千里ロータリークラブの推薦を受け,面接などの上,’13年5月22日にロータリー財団奨学生に正式採用していただいたのですが,この日が私の誕生日で非常にすばらしいプレゼントをいただいたと考えております。新事業だったということで,推薦いただいた皆様方に大変ご尽力いただきました。

 私が在籍したのはクリニカル・エフェクティブネスコースで,臨床研究に従事する医師を対象に開発されたプログラム。1年を通じてテーマを決めて実習の臨床研究を実践し発表することが卒業要件でしたが,ロータリーの皆様には現地でも助けていただきました。ボストンのロータリークラブに受け入れていただき,クラブのアドバイザーだった日系のMiake-Lyeさんは賃貸物件を一緒に探してくれたり,日本食の買い物に連れていってくださった他,研究者の紹介やミーティング参加まで非常に親身にフォローアップしていただきました。財団奨学金・学友委員会の委員長をされていた2660地区の北埜登様がご夫妻でボストンを訪問してくださったことも非常に励みになり,’14年5月に卒業できました。

今後も医学発展へ留学支援を

 留学当時,日本では臨床研究関係の不祥事が問題になりました。解決には疫学・生物統計専門家や,リサーチアシスタントといわれるような研究支援体制の充実が必要です。日本の国民性や医療制度に合わせた独自の臨床研究も必要でしょう。今私が在籍する国立循環器病研究センターには研究開発基盤センターがあり,臨床研究の推進などを行って,基礎から臨床への橋渡し的研究の基盤整備を行っています。私の在籍するデータサイエンス部は臨床研究の計画段階から全過程で研究者の支援を行っており,研究に参加する患者さんの人権の保護と,試験の品質の保持活動,臨床研究者の教育や支援をしています。

 私は帰国後に急性期の脳卒中の脳出血患者への血圧を下げる治療,降圧療法を検討した国際共同試験に携わりました。これは「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」という医学系の雑誌に掲載され,国立循環器病研究センターとしても非常に大きな貢献をすることができました。 振り返れば,私はロータリー財団奨学生として金銭的なサポートを,非常に手厚くいただきました。これまでも各学会には基礎研究に関する奨学金のプログラムがあるのですが,臨床研究分野での大学院留学,特に大学院の修士課程を卒業するプログラムに対する奨学金や研究費を出す学会,企業はほとんどありませんでした。そんな中でロータリー財団に助けていただき,非常に心細い留学生活も安心して送ることができました。また,ロータリーの重点分野での奨学生という誇りと使命感を持つことができ,それが留学中のモチベーションの維持につながりました。

 近年日本の留学生減少が指摘されておりますが,潜在的な希望者はかなりいるのではないでしょうか。特に専門分野でリーダー育成を目的とする専門職系の大学院の入学希望者は少なくないと思います。一方で,自費留学の場合,高額な学費や生活費が高いハードルになっています。ロータリー財団奨学金は未来の日本,世界を支えるリーダーを育成していくうえで重要な意味を持つと,僭越ながら思っております。今後もぜひこの制度を維持して,多くの留学生たちにご支援をいただければと思います。

(スライドとともに)