1974年生まれ。慶應義塾大学院修了後,博報堂のマーケティングプランナーを経て,2004年にエニグモを創業。’05年ソーシャル・ショッピング・サイト「BUYMA(バイマ)」のサービスを開始。’12年にマザーズ上場を果たす。世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global leader選出。
私の趣味はアドベンチャーレースです。極地を走るレースのことです。
始まりは「トライアスロン」でした。2008年ごろに友達に誘われ,ハワイのトライアスロンに出場すると,意外とこなすことができたのです。最も激しいトライアスロンの「アイアンマン」は水泳3.8キロ,自転車180キロ,ランはフルマラソンでしたが,これも出場し,「意外とできるな」と感じました。そこでグーグルで「世界一過酷」「マラソン」のキーワードで検索し,見つけたのが「サハラ砂漠250キロマラソン」でした。
摂氏50度を超える灼熱の砂漠を,水など13~14キロの荷物を背負って走り抜けるものです。事前の練習では,始発で40キロ先まで行って,そこから走って戻るということを繰り返しました。次に10キロのお米と鉄アレイを背負って会社に通いました。続いて,その二つを組み合わせ,深夜12時に東京・品川を出発,お米を背負って50キロ走りました。江の島に明け方着くので,おいしいご飯を食べて帰るのです。確実に2キロぐらいやせます。宴会シーズンなどにぜひお勧めです。
砂漠のレースではテントに泊まり,自炊しながら,ざっくりとした地図を見て灼熱の50度の中を走っていきます。一番怖かったのは,トイレに行ったときに,ソースみたいな真っ黒な血尿が出たことです。夜になると温度は0度で,寝袋でも寒い。でも,大自然の中で生きているという実感はありました。
それを終えると,次は「世界一寒いマラソン」で検索し,「南極マラソン」を見つけました。体感温度マイナス50度を超える極寒の南極で行われるレースです。南極ではとにかく朝起きると全部凍っています。ラン,クロスカントリー,自転車をそれぞれ10キロずつですが,私は南極トライアスロンでは世界3位という記録を持っています。ただ,6人しか参加していませんでしたが。
凍りついて死ぬので汗をかかないように走れとか,失明するのでゴーグルは10分以上外してはいけないと助言されました。想像以上のパウダースノーで,自転車は前に進まず,わずか10キロに2時間かかりました。レース以上に辛かったのは,天候が悪くて迎えの飛行機が来なかったため,南極に2週間閉じ込められたことでした。食事がだんだん減り,テントの中でひたすら待つだけです。白夜の反対でずっと昼間なので,全く景色は変わらない。飛行機が着陸する姿が見えた瞬間,「助かった」と拍手が起きました。日本に戻って来られたのが決算発表の前日で,肝を冷やしました。
次の挑戦はなかなか見つかりませんでした。その時,レース仲間で「一番激しかったクレイジーなものは何だ」という話をして出てきたのが「アマゾンのジャングルマラソン」でした。湿度100%の中を衣食住の荷物を背負って260キロ走破するレースです。過去14年で,完走者はわずか500人。ふだんは大会前のレクチャーはあまり聞きませんが,この時は非常に真剣に聞きました。触ってはいけない動物とか,食べてはいけない果物とか,生死に関わる内容だったからです。
ジャングルのレースではいろいろなポイントで気を使って走らないといけませんでした。「ジャガーゾーン」はジャガーが生息しているエリア。「非常に気をつけて」と言われましたが,実際は何もできません。巨大な倒木や胸ぐらいまで浸かる沼も超えていきました。アナコンダもおり,川を渡る際もピラニアや変な虫がいて,危険がいっぱいです。
地図もないアマゾンでは設定された赤いテープが目印ですが,テープ自体がほとんど見えず,間隔もバラバラ。何度か大きなコースアウトをして,3時間ぐらいさまよってしまって,これが精神的にも体力的にもきつかった。下手したら死んでしまうという恐怖があり,水もどんどんなくなり,焦ってくる状態が続いていきます。大会側からは予算の関係でホイッスルを渡され,「危なくなったら吹いてくれ」というだけでした。トイレに行けば下から蟻とか蜘蛛とかがはいあがってきます。大きなタランチュラも意外と普通にいました。サハラや南極に比べてダントツに過酷なレースでしたが,何とか無事にゴールすることができました。
三つの大会で感じたこととしては,砂漠が一番お勧めということです。夕日や星空がきれいですし,発煙筒を焚けば,大会側で迎えにきてくれます。約1,000人の参加者が1人100万円程度払うので,約10億円の予算があり,設備も整っています。
一方,南極はやめたほうがいいと思います。これは人が行くところじゃない。行っても全くコントロールできないので,本当に下手したら死ぬなと思っています。
アマゾンは本当にやめたほうがいい。完走率55%で,2人に1人ぐらいはリタイアしており,戻ってきてから異常を訴える人もたくさんいました。自分も真っすぐ歩けず,軽い脳梗塞状態になりました。
ただ,アマゾンを完走することができたことで,人生の目標ができたなと思っております。自分はファッション通販サイトをやっており,通販のナンバー1といえばアマゾン・ドット・コム。トップのジェフ・ベゾス氏に会い,「アマゾンはクリアした」「次は,お前のアマゾンだ」と言ってやりたいと思っています。これが今自分の目標になっております。
(スライド・映像とともに)