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2017年8月25日(金)第4,638回 例会

大阪の文化政策を考える-今後の課題

河 島  伸 子 氏

同志社大学 経済学部
教授
河 島  伸 子 

(株)電通総研勤務,英国ウォーリック大学文化政策研究センターリサーチフェローを経て現職。PhD(文化政策学,英ウォーリック大学)。専門は,文化経済学,文化政策論,コンテンツ産業論など。著書に「コンテンツ産業論」,共著に「変貌する日本のコンテンツ産業」「イギリス映画と文化政策」「グローバル化する文化政策」「文化政策学」「アーツマネジメント」など。文化経済学会〈日本〉前会長,国際文化政策学会学術委員,文化審議会委員,東京都都市計画審議会都市づくり調査特別委員会委員,公益社団法人企業メセナ協議会理事等を務める。

 文化政策を考えるキーワードの一つに「創造経済」があります。文化,芸術から都市や地域の経済,コミュニティを作り出し,活性化していこうという考え方です。「創造都市」論も本質的に同様です。金沢,横浜,神戸がよく知られています。大阪市,大阪府には,もっともっと頑張ってほしいことがたくさんありますので,きょうは忌憚なく意見を言わせていただこうと考えております。

欧米では都市再生へ活用

 欧米では1970年代には都市衰退の問題がありました。重工業を中心とした製造業で栄えた大きな街が,アジアの新興都市などに取って代わられていく。このような中で,都市再生へ芸術,文化の持つ力に注目することも流行になっていきます。観光の目玉として文化に力を入れ,欧米の各都市が’80年代以降,文化への投資を行うようになり,世界に売り込むための施設建設も大変進みました。

 有名な事例では,現代美術専門の美術館があります。ご紹介したい例がスペインのビルバオです。炭鉱を中心に鉄鋼,造船業で栄えましたが,産業が衰退して失業率も20%を超え,再生を図ろうとニューヨークのグッゲンハイム美術館の分館を’97年に建設しました。美術館の中身はニューヨークから持ってきますが,施設建設と運営費,コレクション充実の費用は負担しました。その結果,観光客は年間100万人ぐらいになりました。フランク・ゲーリーというアメリカの有名な建築家が設計しましたが,造船に必要だった金属を加工して曲げる技術を見事に生かしています。街の伝統と過去の遺産を見直して,現代アートで蘇らせたという点で,とても評価が高い美術館です。

 もう一つの事例は,ロンドンのテート・モダンです。テムズ川の南側にあり,元々は大変貧しい地区でした。これが見事に蘇りました。かつての火力発電所を美術館に転用しましたが,建物が非常にすばらしい。今やロンドンの一大観光地となりました。

 文化ヘの投資は新興国の大都市においても起きています。シンガポールにはドリアンという愛称で呼ばれている舞台芸術施設があります。世界の一流の舞台芸術を紹介し,観光客や地元の人たちに愛される施設になりました。

 文化政策は’80年代風の言い方では「モノの豊かさから心の豊かさへ」「経済にとってはお荷物だが,大事だから仕方ない」という位置づけであったかと思いますが,今日では経済成長の源泉にもなり,文化資本への投資は経済的価値を生んでいます。

過去に大阪で意欲的事業も

 大阪の文化政策を振り返ると,2000年代初期は意欲的な試みを大阪市が行っていました。’01年に策定,発表した「芸術文化アクションプラン」には個人的にも関わっていましたが,10年計画で,実験的な創造活動をNPOと一緒にやっていくと宣言していました。「新世界アーツパーク事業」では新世界の遊園地,フェスティバルゲートの衰退に伴う空き店舗をダンスや現代美術,現代アートなど実験的な活動をするNPOへ場所貸しして,街づくりに携わってもらうことをやっていました。研究者の間でも大変評価が高かったのですが,予算縮小や事業の廃止などが続きました。アート関係の人材や団体が大阪から流出し,先細りしていくのではないかというような危機感があります。

 こうして見ますと,創造都市の文化に期待される役割というのは,新たな産業と経済的な貢献,都市の活性化といったことだけではありません。それぞれの街の住人や,働いている人たち,コミュニティのアイデンティティを見直し,将来につなげていく。そういったきっかけづくりになればと思います。

 大阪は割合アートプロジェクトというものも盛んな地域です。一つの事例として「きむらとしろうじんじん」というアーティストがいます。奇抜な格好で大阪の商店街にリヤカーを引いて行って陶芸,野点をする。子供さんとか近所のおばさんが寄ってきて,彼が触媒となってコミュニティの中に対話が生まれたり,この街って何だったのだろうと見直す動きが起きていくのです。今や全国で展開しています。

 大阪では企業のアートサポートも伝統があり,北加賀屋という地域にある千島土地さんのアートサポートも大変よく知られた事例です。千島土地が賃貸として出していた名村造船所の跡地を活かしたアートプロジェクトや,使われなくなった倉庫の中に現代美術の作品を展示したり,保存したりといったようなことをやっていらっしゃいます。

文化への投資を大切に

 最近の動きでは「大阪都市魅力創造戦略2020」があり,大阪府と市が一緒になり,「世界的な創造都市,国際エンターテイメント都市へ加速」していく戦略で,観光・文化・スポーツ・国際化などいろいろな側面から考えているようです。ただ,どちらかと言うと,文化を集客のためのコンテンツとしてとらえているというのが若干の懸念で,消費の対象ではなく,創造過程にも,幅広く文化への総合的な投資をしてほしいと思います。

 文化は特殊な領域ではなく公共政策の一つのインフラとして考えることで成り立っていきます。いわば環境のようなもので,文化投資というもの,文化を大事にすることを今後の大阪でも考えていただけたらと思っております。

(スライドとともに)