1988年読売テレビ入社。制作局,宣伝部,編成部,マーケティング部などを経て現職。主に番組制作費,視聴率・マーケティング調査を担当。
テレビ放送が始まって60年以上たちましたが,2011年のデジタル化以降,テレビの視聴方法が非常に多様化し,ものすごい速度で変化しています。本日は視聴率とはどういうものか,そして,日々の業務の中でどのように視聴率を使っているのか,そして最後に,新しく昨年10月から導入されたタイムシフト測定についてお話ししたいと思います。
弊社の壁に掲げられた「御礼三年連続視聴率三冠」という文字。これは何かと言うと,三冠の三は三つの時間帯を指しています。全日(6時~24時),ゴールデンタイム(19時~22時),プライムタイム(19時~23時)。三つのカテゴリー全てで世帯視聴率1位になることを三冠と言い,世帯で一番見られている放送局であることを示します。もう一つ,全日からプライムタイムを除いたノンプライム(6時~19時と23時~24時)を含めた四つの指標を重視し,日頃からチェックしています。弊社は’17年1月~5月,全日8.2%,ゴールデン12.4%,プライム12.3%,ノンプライム7.0%と関西地区で1位を継続しています。
視聴率には,基本的に世帯と個人があり,「紅白歌合戦」が40%だったとか,新番組のドラマが15%でスタートしたというようなニュースがある時は,数字は全て世帯視聴率です。分母は家の数,テレビ所有世帯のうち何世帯がテレビをつけていたかということになります。1%と言うと,関東地区では総世帯数が1,835万世帯なので18万世帯が,関西地区は716万世帯なので7万世帯が見たことになります。
同じ世帯視聴率でも,その世帯で誰が見ていたかは千差万別です。昨年放送した日本シリーズ「広島-日本ハム戦」第6戦は25%を超える視聴率を獲得しましたが,最も見ていた世代は野球のメインターゲットとなる50代以上の男性でした。次いで多かったのが50代以上の女性。一方で,昨年最終回を迎えた長寿番組「SMAP×SMAP」の最終回も24%を超える視聴率でしたが,人気アイドルグループの番組ということで,お母さんや10代,20代の若い女性が多く,同じ世帯でもどう見られているかには違いが出てきます。
私どもの系列では朝の時間帯,「ズームイン朝」から始まりまして,「ズームイン!!SUPER」という人気番組がありましたが,関西では視聴率がよくありませんでした。現在,弊社ではこの時間帯に「朝生ワイドす・またん!」というローカル番組を放送していますが,その番組編成に至った経緯は,この長年にわたる東阪格差の苦労からでした。
’10年に,この番組を朝5時20分から編成して以降,関西では平均4.6%だった視聴率が1年後には5.3%に,現在は6.6%まで上がり,この時間帯でトップをとる番組に成長していきました。視聴率データとともに番組のマーケティング調査をし,関西の人々のニーズに応える番組づくりに生かしていこうという努力が実り,結果が出ました。このように,視聴率を問題の発見につなげたり,結果の検証に使ったりしています。
博報堂のメディア環境研究所の定点調査によると,1日にテレビを見る時間が’06年は171.8分(東京地区)でしたが,’16年には153分と約20分減りました。一方で,携帯電話やスマートフォンへの接触時間は’06年に11分だったのが,1時間半にも膨れ上がっています。15歳から19歳,20代の男性,10代,20代の女性にいたっては,携帯電話やスマートフォンがテレビに接触する時間を完全に超えてしまいました。テレビにあまり接触しない世代がどんどん増えているというのが,私どもの業界が抱える大きな課題です。
その中で,テレビ視聴率におけるタイムシフト測定というのが関東地区で昨年10月から始まりました。これは,放送日から7日間以内に録画再生された視聴を計測するものです。これによって,これまでのリアルタイムの視聴率にタイムシフト視聴率が加わり,そして両方をあわせた総合視聴率が登場することになりました。
昨年10月3日から今年4月30日の視聴率ランキングをみますと,1位は「紅白歌合戦」後半で40.2%でした。このタイムシフト視聴率は4.1%,総合視聴率は42.6%でしたので,「紅白歌合戦」はほとんどがリアルタイムの視聴だったということになります。一方で,3位のテレビ朝日系列のドラマ「ドクターX」の視聴率は21.5%でしたが,タイムシフト8.8%,総合視聴率28.8%となり,ドラマではタイムシフトの割合が高いことが分かります。TBS系列で社会現象にもなったドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」においては,リアルタイム14.6%,タイムシフト14.9%となり,リアルタイムをタイムシフトが超えた事例となりました。
現在,視聴率を計測できるのはリビングルームにあるテレビのみです。若い人は外で見たり,ネットで見たり,時には違法動画で見たりと様々です。視聴スタイルの変化にまだまだ視聴率調査は追いついておらず,技術革新を含めてテレビ局が一生懸命対応に追われているというのが現状です。ただ,テレビ離れと言われても,人気ドラマが登場したり,オリンピックやワールドカップが行われたり,そして何か事件が起こると視聴率は一気に跳ね上がります。魅力的なコンテンツ,あるいは信頼に応える報道をしていく重要性は今も昔も全く変わらない。それをいかに見てもらえているかをデータとして補足し,現在の視聴率からもっと生まれ変わった新しい視聴率というものを開発していかなければいけない。それが現在,地上波のテレビ局が抱えている課題です。
(スライドとともに)