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2017年5月19日(金)第4,625回 例会

AI全盛時代に必要なグローバル・リーダーシップ育成

福 原  正 大 氏


IGS 代表取締役社長
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科
特任教授
福 原  正 大 

1970年東京生まれ。慶應義塾大学卒業,INSEAD(MBA),グランゼコールHEC(with Honors),筑波大学博士(経営学)。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行),バークレイズ・グローバル・インベスターズを経て,2010年グローバルリーダーを育成するInstitution for a Global Society(IGS)設立。『ハーバード,オックスフォード…世界のトップスクールが実践する考える力の磨き方』など著書多数。

 AI(人工知能)がどんどん出てくる中で,世の中はどのようになり,どんな教育が必要で,企業はどう対応していけばいいのかお話ししたいと思います。

世界で遅れをとる日本

 大学生や学校の先生向けに講演をする際,必ず投げかけている質問が二つあります。「日本のGDPの世界におけるシェアは何%か」「一人当たりのGDPは世界で何位か」という質問です。平均値として,大方の先生,大学生は日本のシェアは2割ぐらいと回答します。先日,慶応大学で授業をした時には,95%の学生が一人当たりのGDPは5位以内の順位を挙げました。これは,彼らの考えている足元のグローバル化の状況予測ですが,今の日本のシェアは高々5.8%しかありません。なぜ,2割という数値が出てくるかというと,1980年代後半から90年代前半にかけて,日本は世界における重要性をどんどん高めていき,世界の2割のシェアをとりました。当時メディアが大きく取り上げたため,2割というイメージが定着したものと思われます。

 そして,OECDによると,2030年には日本のシェアは3.8%まで落ちると予測しています。日本が2割のシェアを持っている時代は,日本のマーケットさえ押さえれば,世界のデファクトスタンダードをとることができました。高々6%では,日本で大きなシェアをとったとしても,世界においては常に追随する立場しかとることができないわけです。

 さらに,一人当たりのGDPの最新の数値は世界で21位,G7の中では最下位です。実質所得は1991年をピークに20年間で450万円から400万円に落ちました。日本より低かったオーストラリアは400万円から605万円になったように,世界の一人当たりの稼げる力は上がっているのに,日本は下がり続けている。これが日本の現状です。

産業界を席巻するAI

 今は第3次人工知能ブームと言われています。野村総合研究所とオックスフォード大学が,ホワイトカラーの仕事の何割程度がAIに置き換え可能か共同研究しました。2030年までに日本の約49%の仕事が置き換えられるという数値がでました。稟議など紙の仕事が多すぎて効率性が悪く,ホワイトカラーの生産性が最も低いのが日本でした。実は2ヵ月前,日本の超大手の弁護士事務所から呼ばれ,AIを導入して雇用人数を大幅に削減し,語学に堪能でネゴシエーションに優れた弁護士だけで回していくことができるのかという話をされました。弁護士事務所の大半の仕事は定型化され,AIに任せたほうがよほど早いという議論が進んでいます。

 サンフランシスコではAIを使ったサンドイッチ屋が人気で,ボタンで注文するとロボットが自動的に作り,提供してくれます。フランスでは,AIが一人ひとりの興味にあわせた料理を作るレストランが出てきています。このように,AIやロボット,さらにビッグデータ,センサリングなどが入ってきた時に,一体人間にはどんな仕事が残っているのか。年を追うごとにAIのスキルレベルがどんどん上がっていく現状を考えた時に,十数年後,人間はどのようなことをしないといけないのか考えていく必要性が出てきています。こうした中,経済産業省では教育と企業がAIを抜本的に入れていかないと,日本は世界から遅れてしまう,従業員教育や大学教育を本格的に変えていかないと時代に対応できなくなるという話が出ています。

 日本では大学までの教育で,知識が人よりも多い,人と同じ答え,正解にどれぐらい近いかで評価されてしまう。知識をどのように応用するかという行動特性が教えられていない。単に試験に回答するための知識だけになり,考えの軸ができていない。機械学習と言われているAIの一分野や自然言語処理の専門家を見つけようとしても,全く日本にはこういった人材がいない。

 ハーバード大学の入試問題は,まさにこれからの時代のエッセンスを取り入れています。入試担当者によると,「あなたは何者なのか」という問い,これを真剣に考えている高校生であれば,世界を変えるリーダーになり得ると言います。日本では教養という意味では,旧制高校の時代は素晴らしいものがありましたが,新制高校になった時から大学入試が画一的になってしまい,自分とは何者なのかと考える教育が後手にまわってしまいました。

教養教育の重要性

 現在の日本の高校生は与えられた問題を解くという,AIが簡単にできることを繰り返し受験勉強としてやり続けています。スティーブ・ジョブズは自伝を書く際,世界の哲学に通じたリーダーシップの研究所長じゃないと任せられない,哲学が全てのコアだと言いました。AI全盛時代には教養教育の重要度が高まると思います。

 人間ができることが全てできるAIはまだ作られていません。囲碁に勝つAIは料理を作ることができませんが,人間は様々な知を持ちあわせることができます。東京大学では今年4月から「人間拡張学」という新しい学問ができました。AIに置き換わるのではなく,人間がどのようにAIを使いこなせるかに焦点を当てています。

 実際,私どもも北海道の国立大学と経済同友会のインターンシップと一緒になって,こうした学びを一からつくってしまおうという取り組みをしています。AI,グローバル化時代のなかでは足元をどう捉え,将来の変化を見据え,それにあわせた教育を考える時代に入ってきています。

(スライド・映像とともに)