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2017年3月3日(金)第4,616回 例会

マラリア感染抑制へのチャレンジ

谷 内   晃 氏

住友化学(株)
生活環境事業部長
谷 内   晃 

1961年生まれ。’84年九州大学農学部卒業。’84~86年,青年海外協力隊でアフリカ・マラウイ国村落開発にあたる。’87年住友化学工業(株)入社。国際アグロ事業部,マーケティング部などを経て,2004年Sumitomo ChemicalAgro-Europe,Business Planning Director(フランスリヨン市在),’15年生活環境事業部グローバルマーケティング部長,’16年4月現職。

 私はアフリカにいた時にマラリアで何度か意識不明になり,地元の人たちが病院に担ぎ込んでくれました。今日はマラリアの現状や住友化学がマラリア対策をした理由について映像をご覧いただき,続いてビジネスの現状と今後についてご説明します。

住友の事業精神

 住友化学は約100年前,四国の別子銅山で発生する物質から肥料をつくる住友肥料製造所として発足しました。現在,連結で従業員は約3万人強,売上高は2兆円強で,研究開発に力を入れています。事業部門は石油化学とエネルギー,IT関係,医薬品,健康農業関連の5つがあります。海外グループ会社は68社で東南アジアやインド,アフリカ,南米で拠点開拓に注力しており,売上高の海外比率は約61%,従業員も約6割が海外の方です。

 住友の事業精神の特徴を表す言葉に「自利利他公私一如」があります。「事業は会社として利益を得るものであるとともに,社会に対しても利益をもたらすものでなければならない」との意味で,この理念のもとで仕事をしなさいということになっています。

 続いて,我々がアフリカの貧困を克服し,持続的発展に寄与するために取り組んできた長期残効型蚊帳「オリセットネット」事業の現状と,今後の展望について説明します。これは繊維の中に薬剤が練りこまれ,水洗いしても防虫効果が長期間落ちない蚊帳です。

 マラリアを媒介するハマダラカは血を吸った後に壁にとまって休む性質があるため,壁に殺虫剤を塗っていれば死んでしまいます。WHOが1950年代に屋内残留散布によるマラリア根絶に乗り出した当時は,村々でDDTを壁にまいていました。安全性や抵抗性の問題から,’84年には殺虫剤を薄めた薬液に蚊帳を漬けた殺虫剤処理蚊帳の普及が始まりました。ただ,これでは手間がかかるため,殺虫成分が徐々に染み出て5年間有効な蚊帳をつくりました。2001年にWHOから長期残効型蚊帳として推奨を受け,同様の蚊帳が世の中に出る契機になりました。

「世界初の蚊帳」をつくる

 開発当初のコンセプトは,洗濯しても再処理の必要がないこと,現地は暑いので風が通る広い網目にすることの2点でした。当時は農村地区に多くの工場が建設され,田畑から来る害虫を防ぐために殺虫剤を樹脂に練りこんだ防虫網戸という製品がありました。我々の研究所にいた伊藤高明さんという方が土曜,日曜も返上して殺虫剤含浸蚊帳をものにしたいと開発を続け,10年がかりでオリセットネットを世の中に出したのです。

 商品化後は増産に次ぐ増産を行い,普及を進めました。最初に中国・大連で工場を立ち上げ,コストの関係からベトナムで増産し,やはりアフリカでつくって雇用を生み出すことが肝要だと,タンザニアでの製造に取り組みました。工場は元々何もない更地でしたが,今は一つの町のようになっています。立ち上げ当時こそ技術指導のために日本人がいましたが,現在は7,000人以上いる従業員に1人もおらず,現地の人が完全にマネージしています。そういう意味で現地でのパートナー選びは非常に重要だと改めて感じています。

 現地の蚊も様々な薬剤に対して感受性が変化し,異なる製品のニーズも出てきました。そこで現地で使うものは現地で開発すべきと考え,’12年にタンザニアの工場の隣に研究所を設立しました。様々な種類の蚊を飼い,約30人の研究者が現地ニーズに合った各種製品の開発研究をしています。

 我々がこうした取り組みに着手した背景をご説明します。国連が進める開発途上国を支援するプログラム「ミレニアム開発目標」には大きく8つの目標があります。このうち「疾病の蔓延防止」が我々に直接関係し,「極度の貧困と飢餓の撲滅」や教育支援も行っています。「乳幼児死亡率の削減」でも国連目標に貢献できると考えています。

 ’13年度までに累計で8億張りくらい配布し,マラリアが問題になっている地域が大体カバーできたというところです。現在は3年を目安に交換し,大体年間2億~3億張りがWHO等の資金で配布されています。

新たな総合対策へ

 (蚊帳メーカーは)現在は13社あり,値段も当初の3分の1以下になって採算性は非常に厳しい。このため我々のプレゼンスを出していこうと考えています。アフリカやアジアですべての蚊帳に使われるピレスロイド系の殺虫剤は,長年使われると人間の薬と同様に抵抗性が出てくるので,約3年前には殺虫剤をより効きやすくする成分を入れた第2世代の「オリセットプラス」についてWHOの推奨を受け,普及を進めています。成虫は死なないが触れた成虫が産んだ卵は孵化しない薬を練りこんだ第3世代の「オリセットデュオ」もWHOの推奨を受ける予定です。

 また,デング熱を媒介する蚊は昼間に人を刺すため,昼間の空間にいる蚊を防除する薬もつくっています。40年ぶりに新しい作用性をもつ屋内残留散布剤や,幼虫も防除する新製品も投入しており,こちらも今年中にWHOの推奨を受ける予定です。蚊帳と新しい薬によるサイクルを構築し,Integrate Vector Management――日本語で「蚊帳,薬剤による総合防除」と呼んでいますが,マラリア防除の新たな体制を世に構築したいと取り組んでいます。

 先ほど伊藤高明さんの名前をあげましたが,彼の使命感と情熱から出た製品であり,ビジネス面では厳しい状況が予想されますが,今後も彼の意思を継いで頑張っていこうと心新たにしています。

(スライド・映像とともに)