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2017年2月17日(金)第4,614回 例会

ロボットと生きる社会

本 田  幸 夫 氏

大阪工業大学 工学部
ロボット工学科 教授
ロボティクス&デザインセンター長
本 田  幸 夫 

1956年大阪生まれ。神戸大学工学部卒業,工学博士。日本電装(現(株)デンソー),松下電器産業(現パナソニック(株))を経て2013年より現職。アルボット(株)代表取締役としても生活支援ロボットの普及,市場開拓を推進している。著書「ロボット革命」(祥伝社新書)など。

 今日は,我々がどのような技術革新の時代に生きているのかということと,大阪工業大学が大阪・梅田につくった22階建ての新キャンパスでの「社会実証とデザインシンキング」の活動についてお話しします。

技術革新の可能性

 ロボット技術が進んだ背景には,コンピューターの性能が相当進化していることがあります。iPhoneはトカゲの脳ぐらい,スーパーコンピューター「京」は,初期のサルぐらいの処理能力があると言われます。30年以上前,私の学生時代の大型コンピューターは確実に今のiPhoneに負けると思います。

 「AI(人工知能)やロボットは人の仕事を奪うのか」について,1980年代にカーネギーメロン大学のハンス・モラベック教授は「人工知能の能力は人間を超えるが,運動能力は1歳児以下」と言っており,これは「モラベックのパラドックス」と呼ばれます。

 一方で,アメリカではゴキブリの動きをコントロールできるチップが市販されていてIoTが簡単に作れる時代に来ているし,ある周波数の光に反応する素材で心臓の細胞をつくって人工的な生物を生み出そうというところまで,技術は進んできています。

 2年ほど前,レイ・カーツワイルは2045年問題として「Singularity(技術的特異点)が起こるのではないか」と言いました。モラベックが予想したように,まだ運動能力は人に及ばないし,人工筋肉も人間の力が出るところまで開発できていない。ただ,ひょっとすると相当な技術革新や,材料の画期的な進化でできるかもしれない。そういう時代に我々はいるのです。

 イノベーションを創出した国が勝者になる,と言われます。頭が良い人は日本に大勢いますが,AIも含めロボットの技術中心だけではなく,人に優しい人間中心の技術開発ができるような,それを私は「デザイン」と呼んでいますが,そんなチャレンジ精神を持った突破力のあるエンジニアを育てないといけない。日本は技術では韓国や様々な国よりも優れていながら,(製品は)売れない。それが何なのか,考え直す時期が来ていると思います。

デザインシンキング

 DARPA(米国国防総省国防高等研究計画局)はGPS,インターネット,音声認識,手術ロボット,ドローン,炭素複合材など世界的技術を生み出しています。元は軍事技術です。DARPAのロゴには「BRIDGING THEGAP」(ギャップを埋めよう)と書いてある。何のことか聞いてみると,軍事技術はするがそれはきっかけで,DARPAはイノベーションを起こすことを目指していると。学問的レベルも高く,世の中に役立つことをやる。これが米国の国費を注ぎ込む研究開発の根本です。

 基礎科学の発展と我々が困っている社会問題の解決を,それを超すようなマネジメントをして技術開発をしなさいということです。企業はノーベル賞をとらなくてもいいので,儲けたい仕事をしている。大学には世の中の役に立たなくてもいいと思っている先生が多い。これをうまく結びつけたいと,梅田キャンパスに「ロボティクス&デザイン工学部」をつくりました。世の中に役に立つことをするエンジニアの育成が目的で,キーワードは「社会実証とデザインシンキング」です。

 例えば,自動運転の車はロボットなので絶対に法律を守る。しかし自転車の無灯火や自転車の酒飲み運転など,人は法律を決めても守らない。そうすると自動運転が実用化されたら,いろんなことが起きるのではないか。学生には「君たちの30年後はどうなっているか」を考えさせる教育もしています。また,ロボットを街に入れると,運動能力が高くないので人にぶつかります。アメリカでは幼稚園くらいの時から「人とすれ違う時はニコっと笑って必ず右に」と教えるそうですが,そういうルールも決めないといけない。

 ロボット技術は今まで日本が一番進んでいましたが,社会実証をしようという時,インフラのデザインも変えねばならない。アメリカでは自転車の代わりにロボットを使うなら,ロボット専用の道が簡単にできるようなインフラが整備されてきています。その時に非常に重要なのが,ロボットは専門家の技術ではなく,一般市民の我々がどう使えるのかということです。使う・使わないを決めるのは我々で,使うなら市民が入ってロボットの実用化を目指さねばならない。それを先導し,未来を切り開くのは若者です。

「ダーウィンの海」を越える

 イノベーション経営を阻む3つの関門に「魔の川,死の谷,ダーウィンの海」があります。我々はこれを乗り越えていく人材を育てたい。梅田のビルの1階は市民に開放して多くのロボットを置き,ロボットを体験してもらって様々な意見を吸い上げる。改善すべき点がわかれば,3Dプリンターなどを置いた8階でロボットを改造できるようにする。580人ほど入る4階のホールでは,技術だけではなくそれをビジネスにするような発表の場も設けようとしています。ダーウィンの海を乗り越えるため,投資家などあらゆるステークホルダーの前で発表し,産業を興すことを大阪でやりたい。それを人が多く集まる梅田の地でやろうと考えています。

 ロボットというテクノロジーを社会実証していくということは,ライフスタイルや社会インフラのデザインを考えながら,研究開発で産業の創出をしていかないといけない。我々はロボティクスというAIも含めた技術と,社会実証のデザインを掛け合わせる所で,我々の豊かな未来を解くカギが見つかるのではないかということで活動をしていきます。

(スライド・映像とともに)