大阪ロータリークラブ

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2017年2月10日(金)第4,613回 例会

企業の課題も地域の課題も解決します~広告の広がる領域~

日 下  慶 太 氏

(株)電通 関西支社
コピーライター
日 下  慶 太 

1976年大阪生まれ。電通でコピーライターとして勤務する傍ら,写真家,セルフ祭実行委員として活動。『商店街ポスター展』を仕掛け,佐治敬三賞を受賞。他,グッドデザイン賞,東京コピーライターズクラブ最高新人賞,ゆきのまち幻想文学賞など受賞多数。また,都築響一氏編集「ROADSIDERS' weekly」でも写真家として執筆中。ツッコミたくなる風景ばかりを集めた『隙ある風景』も日々更新している。

 昨年夏,「なにわなんでも大阪検定」の広報の一環として,「大阪検定ポスター展」という企画を手がけました。大阪市営地下鉄,JR西日本環状線の計95の駅にちなんだ問題を盛り込んだポスターを制作。他の効果もあって,受験者数は前年より30%増えました。このように,僕はコピーライターとしての技術を使い,大阪を盛り上げる活動をしています。

ポスター展で商店街再生

 2013年に大阪市阿倍野区の文の里商店街で,「文の里商店街ポスター展~商店街再生のために若手クリエイターたちが制作した180枚のポスター展~」を行い,電通のコピーライターたちがボランティアで参加しました。「お客さんは神様やと言うけども うちの常連さんたちは半分ぐらい仏様になってしもうたわ」(手芸店)など,ユニークなポスターが仕上がりました。取材が殺到し,SNSにも取り上げられ,数々の広告賞を受賞。僕も仕掛け人として佐治敬三賞をいただきました。

 ポスター展はどんどん広がり,津波で甚大な被害を受けた女川町でも,仙台のクリエーター約60名が42店舗のポスターを制作。僕もプロデューサーとして参加しました。一番人気は「ツイッター?やってないけどつぶ焼くよ。男は黙って,ひと串入魂」(串焼き屋)。一番好きだったのは,「明るいんでねくて,あかるくしてんのさ。オンとオフはあっけどね」(電気店)でした。女川の皆さんは笑っている方が多く,元気だなと思っていたら,実は,この先店をどうしていけばいいかなど不安をいっぱい抱えていました。明るいんじゃなくて「明るくしてる」という一言が,見事に言い表しているなと思いました。

地方創生の仕掛けづくり

 最近は,岐阜県との県境にある人口約3万人の福井県大野市で,地方創生プロジェクト「大野へかえろう」を手がけています。20~30代の3割が市外に出て戻らないため,子どもを生む世代が減り,消滅可能性自治体と言われている地域です。すごく危機感を持っていて,何とかしてくれないかと依頼がありました。調査をすると,「子どもが地元の魅力に気づいていない」「地元で働く大人のモデルが子どもたちのなかで少な過ぎる」という課題がみえてきました。

 そこで,高校生たちにポスター制作を通して地元の魅力を再発見してもらおうと,「大野ポスター展」を開催。さらに,もう一つの「大野へかえろう 写真集プロジェクト」では,地元の何気ない風景に言葉を添えた写真集を制作しました。おばあさんが大根を洗っている写真の横に「ばあちゃんの手はとても強い。冷たい水にいつも負けない」というようなコピーを,撮影とともに地元の方に考えてもらいました。成人式で全員に配布するとすごく喜んでくれ,世界的な広告関係の媒体にも取り上げられて話題になりました。また,「親が地元のことを誇りに思っていない」「親が地元に帰ってきてほしいと思っていることが子どもに伝わっていない」という課題では,「大野へかえろう」というオリジナルソングをつくり,卒業式で親が歌うというサプライズも行いました。

話題を呼ぶ「四つの輪」

 おもしろいというのは「話題性」です。社会にいいというのは「公共性」です。この二つがあってこそ「ニュースになる」。「おもしろい」と「社会にいい」と「人と人」,「会社と会社」をつなげていくと,いろんな方が無料で協力者になってくれ,大きな力になっていきます。さらに,「おもしろい」と「社会にいい」と「自分にしかできない」がつながると,ほかと圧倒的に違うことができます。それぞれの職能を生かした社会貢献を「プロボノ」と言いますが,個人で動く場合もあれば,企業単位で行っているところも多くあります。

 そして,「おもしろい」と「社会にいい」と「自分にいい」がつながると,執着心が生まれます。「自分にいい」というのは広告賞をとるとか,より良い仕事をつかむとか。つまり「下心」があるからこそ,執着心があって最後まで粘り強くできたと思います。

 皆さんも,何か行う際は,「四つの輪」を考えて下さい。「おもしろい」「社会にいい」「自分にいい」「自分にしかできない」。この四つが重なり合うところが大きく世の中を動かしたり,話題を呼んだりします。「自分個人にとっていい」こともあるし,「自分の会社にとっていい」という判断もあると思います。「自分にいい」とは何か,「自分の会社にしかできない」とは何かと考えて,「どうおもしろく社会によくしていくか」という観点が必要です。

 仕事から始まった人間関係は時間がかかります。新しいクライアントを担当した時,最初はなかなか信頼してくれない。ツーカーの仲になってきた時に異動になり,また一から関係を構築するという経験が結構ありました。でも,プライベートから始まった人間関係は時間がかかりません。プロボノ的な関わりで接していると,すぐに話が始まり,ビジネスにつながることが何回かありました。さらに,社会のためから始まった人間関係も,公共善のようなことを目指してやっている方たちと意気投合してできるので,何かしらスムーズにいくように思います。

 新世界市場の澤野さんという下駄屋の商店主が,「日下君,金は稼いでへん,でも,人を稼いでるんや」と言ってくれました。「おもしろい」と「社会にいい」ということを一生懸命やっていると,だんだん人を稼いで,回りまわってビジネスにつながり,かつ社会がよくなっていく。その一端を担わせてもらっていると感じています。(スライド・映像とともに)