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2016年11月4日(金)第4,602回 例会

ロータリー国際親善奨学生とVTTへの参加を通して

矢 野   郁 氏

国際ロータリー第2660地区
2012~13年度国際親善奨学生
矢 野   郁 

2008年関西学院大学卒業。同年4月日本アイ・ビー・エムサービス(株)勤務。大学時には英語ミュージカル部に役者として所属。卒業後も演劇活動を続け,演劇教育を日本の学校に普及させる活動を目標とし,演劇を専攻分野として茨木東RCの推薦でボストンに留学。’15~16年度にRI7930地区から申し出のVTTにアメリカ側の団員として参加。現在はインターナショナル小学校(神戸)で教えている。

 11月がロータリー財団月間,そして今年がロータリー財団創設100周年の記念ということで,今日はロータリーの国際親善奨学生の経験と,VTT(職業研修チーム)のプロジェクトに参加した経験についてお話しします。

ミュージカルの力

 私は2012~13年度のロータリー財団・国際親善奨学生としてボストンのEmerson(エマーソン)大学に留学しました。2年間,シアター・エデュケーション(演劇教育学)を学び,ミュージカルを演出したり,映画に出たり,いろんな活動をしました。学校以外でもミュージカルやフィジカルシアター,地域の演劇の舞台に立ちました。卒業後は「T.I.G.E.R.」という演劇教育ミュージカルのパフォーマーとして,ニューイングランド地方を1年間,ツアーで回りました。

 アメリカではいじめが非常に大きな社会問題で,多くの子どもたちが苦しんでいます。T.I.G.E.R.はこの問題にアプローチするため,5人のパフォーマーがバンに乗っていろんな学校を回り,ミュージカルを子どもたちに見せます。ミュージカルの中では「これは相手の気持ちを傷つけるのではないか」「これは相手のことをちゃんと考えて行動できていることだろうか」ということを歌や踊り,演劇を通して子どもたちに伝える活動をしました。

 アメリカは多民族国家で,様々な人種がいるために起こる問題もたくさんあります。私自身も,アジア人だからこそ差別されることがありました。ただ,私の年齢では問題に対応するのは難しくありませんが,子どもではどうしたらいいかわからないことが多いのです。

 ミュージカルを通して伝えられるメッセージは大きく,45分間のミュージカルと40分間のワークショップの終了後に子どもがやってきて,泣きながら「もしあなたがここに1年前に来てくれていたら,私はこんなに苦しまなくて済んだのに」と言う子や,妹を連れてやってきて,「妹がいじめられ,どうしたらいいかわからなかったけど,ミュージカルを見て,私はもっと妹のために戦おうと思った」と話したお姉ちゃんもいました。

基本的教育・識字率の向上

 続いて,VTTの活動を紹介します。職業研修チームの定義は「専門職業人のグループが海外に赴き,スキルや知識を学び,現地の専門職業人にスキルや知識を提供するもの」です。私たちのチームはグローバル補助金でVTTの活動をしました。プロジェクト名は「BASIC LITERACY FOR LEARNINGTHROUGH THE ARTS(基本的教育と識字率向上)」で,プロジェクト提唱地区は第7930地区(アメリカ・マサチューセッツ州ボストン周辺)と第2660地区(大阪)です。

 プロジェクトの目的は,演劇的及び芸術的手法で日本の基本的教育と識字率向上にアプローチするものです。なぜ日本で基本的教育や識字率を向上させるのか疑問をもたれるかもしれませんが,文部科学省のホームページによると,子どもの学力,読解力などは低下傾向で,学ぶ意欲や学習習慣が必ずしも十分ではない状況が挙げられています。いじめは小・中・高校で計2万件,暴力行為は3万件を超え,12万人の児童生徒が不登校で,小さい問題とは言えません。

 私たちのアメリカのチームは5人で,プロジェクトは約1週間でした。いじめに遭って登校拒否になった児童が多く通う高等専修学校・専門学校では,私たちが行っているアートや演劇,芸術を通して基本的識字率にアプローチするプロジェクトを実践しました。

 事例を紹介します。子どもたちが普段抱えている問題を文字に起こして台本にするアクティビティでは,参加した高校生の多くがいじめで不登校の経験をしていました。学校で一度もマスクを外したことがなかった男の子は,アクティビティを始めて10分ぐらいでマスクを外しました。最後に先生に感想を伺うと,「ほんの1時間から90分の授業で,学校に来づらい経験を持つ学生もどんどん変化していく。私たちに見せていた表情と全く違う表情を見ることができた」「ずっとマスクをしていた学生が,マスクを取って皆に表情を見せているのを見て,私にとっても刺激的な授業だった」「アメリカの授業のスタイルでも,学生や子どもたちは何も違いがない感じで授業を受け,とても刺激的な様子を見られた」と話していました。私たちのアクティビティを通し,生徒たちがそれに応えてくれたことが大きな成果だったと思います。

ロータリーの奨学生として

 人が人と知り合うこと,人ときっちりコミュニケーションをとることは,簡単なようでとても難しいときがあります。それを少しのきっかけ,少しのアクティビティで簡単なことにすることが,演劇教育の大きな目的です。

 実はVTTのプロジェクトを提案したとき,ロータリー本部からは「受け入れられません」と言われました。日本やアメリカは先進国で,識字率の向上や基本的教育にアプローチするものだと理解してもらうのに2年間かかりました。チームとして日本に来て,子どもたちや先生方にこんな方法があると伝えられたことは,本当に大きな成果でした。

 私は’12年からロータリーにお世話になり,多くのことを経験しました。今後もプロジェクトを紹介し,これまで出会った皆様や団体と情報交換をして,ロータリーの奨学生として学んだことをいろんな方にアプローチしながら,日本で活動を広げていくことが使命だと思っています。

(スライドとともに)