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2016年9月30日(金)第4,597回 例会

日本から世界の問題を解決する

原   丈 人 氏

アライアンスフォーラム財団 代表
内閣府本府 参与
原   丈 人 

1952年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業,スタンフォード大学経営学大学院,国連フェローを経て同大学工学部大学院を修了。中米で考古学研究後に渡米し光ファイバー事業会社を創業。90年代にはシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリスト。国連政府間機関特命全権大使,ザンビア大統領顧問,日本の財務省参与など国内外で公職を歴任。著書多数。

 私の故郷の大阪にお招きいただき,ありがとうございます。中長期の投資については今後,「未来投資会議」でやっていこうと国の方針が変わりました。強靭な資本主義経済を再構築し,国民の大多数が豊かな中間層となるための処方箋という形で5つのテーマを未来会議の中に入れ込むようにしています。

会社は誰のものか

 1つは社中分配です。私は米国やイギリス,イスラエルなどの会社で会長などを務めましたが,彼らは「会社は株主のもの」と考え,会社が上げた利益のほぼ全部,またはそれ以上のものを株主にだけ還元することが常態化しています。日本では,株主だけでなく従業員,顧客,取引先,地域社会など会社を支えるすべての人たちに富を分配するのが伝統的な考え方です。「会社は社会の公器」という考え方もアメリカにはありません。グローバル時代になり,アメリカ型の考え方に日本が飲み込まれるのか,日本の考え方を世界に広めていけるのか,大きな戦いがあります。

 「会社は株主のもの」ということになると,例えば1,000億円のリターンを10年で上げた経営者も「次は9年でやってくれ」「次は8年で」と,短ければ短いほど良いことになります。しかし,研究開発や製造業は短期間でリターンを上げれば良い産業ではありません。こうした産業部隊をしっかりと抱えている日本が,金融サービス経済界の方に入っていくのは大変危険です。私は中長期の研究開発型の企業,製造業が最も優れた日本の資産だと考えています。一方,短期主義の英国などはコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードを入れ,結局90年には製造業,研究開発型企業が消えました。金融ビッグバンを通じて,常に金融が基幹産業だと。しかし,投機の考え方とは「ゼロサムゲーム」です。全体が中産階級でも,投機型の金融資本主義を何回か繰り返すと,1人のお金持ち,本当に少数のスーパーリッチクラスと,中間層がなくなって大多数の貧しい人たちが生まれる現象になるのは,数学的なゲームの理論でも証明されています。これを実行したのがイギリス,アメリカで,中間階級層がなくなって民主主義が機能しなくなりました。

中長期経営を発展

 中長期の経営を発展させていくため,私は「上場会社における四半期決算開示義務の廃止」をやろうと考えています。関経連が四半期決算開示義務の廃止などに関して「大きな問題点だ」と金融庁や東証に対して意見書を出し,京都経済同友会も機関決定するなど大きな流れが出てきました。中長期経営を定着させる仕組みを日本の中から世界に発信していきたい。すでにEUは2015年11月には原則として四半期決算開示を廃止し,半期で良いことになりました。金融資本主義型の魔の手がわが国の経済財政の中核に入ってこないようにしたいと思っています。

 私がベンチャービジネスの創業期に,どうやるべきかを考えて出来たのが公益資本主義の考え方です。この考え方の1つは社中分配で,株主ばかりではなく会社を支えるすべてのメンバーに分配する。2番目は,中長期にわたって持続性のある経営を行う考え方です。3番目は企業家精神で,ここは日本の上場会社で大分抜けていると感じます。リスクをぎりぎり一杯のところまで取り,自分が社長の間に冒険し,新しい事業をつくり,若い後進にそれを譲っていくのが重要です。

 ものづくりの国家にするため,税制に関しても’13年には中長期の株主に対して色々な面で優遇策を入れました。その1つがAA株で,最初に実行したトヨタ自動車は昨年7月に5,000億円の株式を発行しました。これは5年間売却できない優先株で,トヨタは中長期の研究開発,特にシリコンバレーにつくったAIの研究などに5,000億円を投じました。私は,未来に対する投資は投機的な株主ではなく,中長期を支えてくれる株主と区別し,株価の面でも配当の面でも優遇すべきと考えます。

投機取引の弊害

 東京証券取引所の株式の取引高の70数%以上は外国人で,圧倒的多数が投機取引です。1秒間に何百回とか何万回も株を売買する投機家を私は害だと考えています。FXトレーディングもそうですが,ゼロサムゲームの典型です。結果,わが国の個人金融資産も現在1,700兆円まで減りました。私はハイスピードトレードをやっている所に対しては税率を上げようと考えています。

 金融資本主義のアメリカでさえ,投機家に対する税率は41.3%です。税制面では,配当課税や利子課税に対してサラリーマンの所得税が非常に高く,汗を出して稼いだお金に関する所得税を軽減し,利子所得,または配当所得などでも期間の短いものは税率を上げる方法を考えています。

 企業統治では,コーポレートガバナンス・コードが日本に入りましたが,社外取締役を2名入れねばならない。しかし,委員会設置会社の場合,監査委員会,指名委員会,報酬委員会で使い回しするため,2名が兼務,兼務になる。しかも指名委員会などは,日本で法的な拘束力を持つことになっており,どこの誰かわからない社外取締役を指名委員会社の委員長にして,そこで次期社長を決められたらたまりません。これは我々が’13年11月に経済財政諮問会議で決めた「目指すべき市場経済システム」という大きな憲法みたいなものに反するコードであり,徹底的に見直して改正する考えです。先取の精神を持つ大阪から日本を変え,日本を変えて世界を変えていく流れを作っていきたいと思っています。