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2016年9月16日(金)第4,596回 例会

伊勢志摩サミットを終えて

南 浦   彰 氏

(株)近鉄都ホテルズ
取締役 経営企画部担当
南 浦   彰 

1965年生。’84年奈良県立畝傍高校卒業。’88年東京大学経済学部卒業,近畿日本鉄道(株)入社。’90年企画室ホテルチーム配属,’98年(株)近鉄ホテルシステムズ(現(株)近鉄・都ホテルズ)の設立を担当。’99年アメリカ近鉄興業(株)Vice Presidentを経,’04年(株)近鉄ホテルシステムズアセットマネジメント部マネージャー。志摩観光ホテルベイスイート開発に際し担当マネージャーとして参画。シェラトン都ホテル東京総支配人を務め,’15年志摩観光ホテル総支配人,’16年5月のG7伊勢志摩サミットの会場担当。6月現職。

 6月まで伊勢志摩サミットが行われた志摩観光ホテルの総支配人でした。サミットが始まるまでは口外できないことだらけでしたが,無事に終わって既に時効のことも多いですから,そのあたりのお話をします。

会場決定の背景

 安倍総理が2016年のサミットは伊勢志摩で開くと発表したのは,昨年6月5日です。私はシェラトン都ホテル東京の総支配人でしたが,6月10日に志摩観光ホテルに異動になり,地元自治体や消防,警察,各省庁,各大使館の視察などに忙殺されました。

 ただ,伊勢志摩のどのホテルでサミットを開くか決まっていない中,不安な気持ちで当初の数ヵ月を過ごしました。10月に初めて安倍総理が志摩観光ホテルを視察した直後にフランスで同時多発テロが発生し,正式に会場は志摩観光ホテルと発表されたのは年が明けた2月2日です。

 最初の発表から8ヵ月もかかった理由は,1つはセキュリティーの関係,もう1つは昨年のドイツのサミット会場ではないかと思います。アルプスの麓・エルマウ城の屋上にある三方ガラス張りの建物でしたが,アルプスの風景を眺められ,安倍総理が非常に気に入っておられたと聞いています。

 近鉄グループが伊勢志摩サミットで公式に誘致したとか,政治家にお願いしたことは,私の知る限り全くありません。ただ,外務省の事務方に1つだけささやいたことがあります。志摩観光ホテルにはベイスイートと呼ばれる新館部分とクラッシックと呼ばれる本館部分があります。ベイスイートの5階には屋上庭園に面したラウンジのエリアがあり,通常は柱と本棚で2つに区切られていますが,壁と柱を撤去すれば1つの大きな空間になります。この提案を唯一行いました。これが効いたのかは不明ですが,最終的にはここで首脳会議が行われました。

地元食材を駆使

 サミットや会議自体は外務省や国がやることで,ホテルとしてはメインとなる食のもてなしに一番苦労しました。1泊2日の会議で首脳の計5回の公式の食事や数百人の代表団の食事などを全部ホテルで賄うため,ロジスティックスを日々やってきました。一方,セキュリティーの関係で,誰が料理をつくるのか,洋食か和食か,サミット終了まで一切発表されませんでした。

 まず始めたことは4代目総料理長・高橋忠之が地元伊勢志摩の豊かな食材でつくり上げた「海の幸フランス料理」の数々のストック,蓄積したメニューをすべて洗い出し,どんな料理が良いか色々なスタディーをしました。今回のサミットは晩餐会形式ではなく,3回の食事はすべてワーキングディナー,ワーキングランチでした。決められた時間内に最初の皿から最後の皿まで出し切らねばなりません。会議しながらの食事ですので,皿数も絞りました。海外の方もおられるため,和食でもフォーク1本で食べられる食事が望ましい。官邸とも色々と試食会をしました。

 食事に関しても留意事項や宿題が多くありました。2日目はアウトリーチと呼ばれる拡大首脳会議があり,宗教上の理由でダメな食材など様々な要請が出て,事前に外務省の方と一人ひとり,1つずつ嗜好調査をしました。

 地元からの要望もあり伊勢海老,鮑,松阪牛,伊賀牛,野菜に至るまで95%ぐらいは三重県の食材を使いました。文化遺産の和食を売り込みたいのは官邸の意向で,3回の首脳の食事のうち和食をメインとした構成も今回の特徴でした。また,洞爺湖サミットはフランス産ワインでしたが,今回は日本産ワインを使いました。3回の食事の乾杯酒,食中酒もすべて三重県の日本酒で通しました。

 やはり徹底した安全管理が大きな命題でした。リスクを減らすため年末のおせちも中止し,色々な外販商品も一時的に取りやめました。最後は専属の食品の品質管理の人間も立ち合い,食材が厨房に入って調理されて卓に出るまで,すべてを管理していました。

 試作と試食を重ね,完成したワーキングディナーのメニューは非常にシンプルで,スープを入れて5皿を提供しました。メインの「鮑のポアレあおさ香る鮑のソース伊勢海老ソテーポルト酒ソース米澤モチ麦のリゾットとともに」は,地元の鮑と伊勢海老を1皿に盛る掟破りなものでしたが,料理長の思いが詰まったすばらしい一皿だと思います。サミットでのディナーメニューは現在志摩観光ホテルで3万8,000円(税サ込)で発売しています。

 サミット本番では,ラウンジを改装した場所で尾鷲ヒノキ製の直径3メートルの特注テーブルを首脳10人が囲み,後ろに防弾ガラスを並べて会議が行われました。

大統領が称賛

 初日のディナーが終わるころ,オランド大統領が安倍総理を通じて「シェフを呼んでくれ」と言われ,樋口総料理長が出ていくと,大統領が立ち上がって自ら握手を求めて「おいしかった」とおっしゃったそうです。テーブルは今もそのまま置いてあり,JAPANとかITALYと書いた札もそのままです。1名1万円の追加料金がかかりますが,ここで食事ができるプランもありますので,ぜひお出かけいただき,サミット気分を味わっていただければと思います。300人のホテルのスタッフでサミットをお手伝いしましたが,皆さんのお陰で無事に終了し,感謝を申し上げます。

 (スライドとともに)