大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2016年9月9日(金)第4,595回 例会

激変する世界の夜間景観 ~にぎわいを創り
シビックプライドを熟成するあかりのチカラ~

長 町  志 穂 氏

照明デザイナー 長 町  志 穂 

1988年京都工芸繊維大学工芸学部卒業。芦屋市在住。松下電工(株)照明デザイン室課長を経て,2004年LEM空間工房設立。’08年6月(株)LEM空間工房改組。同社代表取締役。京都造形芸術大学客員教授,京都精華大学非常勤講師,京都工芸繊維大学非常勤講師。照明デザインや都市景観に関する講演多数。

 照明デザイナーは非常に専門的な職種ですが,都市や社会の中で,小さいながらも色々なことができる仕事だと思います。今日は,あかりが社会の中でどんな役割を果たし,どんな価値があるかについてお話しします。

3つのジャンル

 私自身の仕事は,大きく3つのジャンルに分かれます。1つは新築で,新しいものをつくる仕事です。2つ目は以前からあったものをもっと魅力的にする,古いものを再生する仕事です。3つ目がコミュニティデザインで,街を活性化するなどのジャンルです。

 新築では,オフィスビルや大学施設などの照明を計画します。現在の照明デザインは照明器具を考えるのではなく,「光をどこに置いて,影をどこにつくるか」が仕事です。これは基本的にすべてのジャンルで同じです。

 大阪を代表する建築家の武田五一さんがデザインした堂島大橋は,夜間は私のデザインで輝いています。土木遺産や古建築に第2の命を吹き込んだ典型的な仕事で,橋が輝く夜の景観,ランドマークになっています。建築の力は100年,200年もつものです。間接照明など現代のあかりに変えることで,建築が本来持つ良さを見出せる。命を入れることで,潰さずに次の世代に大事なものを残していける。それが私たちの仕事の非常に大事なところではないかと思っています。

 次にコミュニティデザインのジャンルです。イルミネーションを枝につけてきれいな樹木はケヤキですが,御堂筋のイチョウは枝が暴れていて,同じことをしては輝かない。だから幹につけるなど,オリジナルのデザインを考案します。場所に応じたことをする,私のデザインの作法で最も大事にしていることです。

光のマスタープラン

 40年前の住環境では,あかりは全て白かったのですが,今新しく建つものは全部暖かい色です。暖かい色のほうが落ち着くことが生理学的にも実証されています。ブリュッセルは全部暖かい色で出来上がった街です。ナポリやリスボンなど多くの街が光の色を決めたり,ガイドラインやルールをつくったりしています。諦めなくても日本でもまだできます。たった20年で環境を整え,様変わりした国はいっぱいあります。

 次に,光のマスタープランの話です。経営者の方は経営指標について向こう10年間の長期計画や中期計画を立てていると思いますが,同様に都市や街もマスタープランとして長期や中期の計画,そして次年度の計画を立てるべきです。

 いち早くルールや作法を決め,取り組んだのがシンガポールです。シンガポールリバーの流域は有名なホテルが並ぶ地域や住宅地などとエリアが分けられ,住宅地には住宅地らしいあかりというガイドラインを都市計画局が決めています。中間域の商業エリアはカラーライティングをふんだんに使っています。

 照明デザイナーの役割は,全部織り交ぜた未来像を描くことではないかと思います。神戸では私自身がシンガポールを真似て,神戸市などと一緒にエリアを分けて同じようなことしています。5年たち,少しずつ最初に描いた通りに変わってきました。民間はやる気になればできます。公共でできること,民間でできること,それらを描きながらやっていくことが大事です。

 夜間景観では,その土地ならではの魅力をピックアップすることがヒントになります。南仏のマルセイユといえば沢山のヨットが停泊する姿が旅情をかきたてますが,以前は夜になると真っ暗でした。桟橋に小さな青い光を入れただけでマリーナの景色は一変しました。市がすべての案件に夜間景観のマスタープランを持ってやっているからです。新しい国立美術館のコンペでは「夜は港のランドマークになること」との一文が入っていました。ロンドンでも,それぞれの橋に違うライティングがされ,新しい駅舎は一から考えられています。地域に前からあるものと,新しいもの全てを計画的に都市の魅力としてつくっています。

 日本の現代建築で,100年後に世界中の若者が写真を撮りに来たいものがありますか。世界では大事な図書館や劇場を思い切ってつくり,夜間もランドマークにしている。日本もそんなふうにならないかなと思います。

場所の魅力を生かす

 最後に,賑わいをつくるためにどうするか。廃線になっていたニューヨークのある地下鉄駅は,以前は麻薬取引などに使われて危険な地区でした。今は整備されて夜間景観がつくられ,レストランやクラブ,ブティック,バーなどが並ぶおしゃれなゾーンに様変わりしました。夜をきちんとつくると,宿泊しながらの観光が圧倒的に起きます。20年前,コペンハーゲンの伝統的な建築物の前は,ただの駐車場と車道でしたが,計画的に1階をレストランやテントのお店にしたら,今ではガイドブックに「コペンハーゲンに行ったら絶対行きなさい」と書いてある。改修,改修で何ができるかがポイントです。たった5年や10年のスパンで皆頑張っています。

 都市だけではなく,田舎でも観光地でも,どこかに必ずトリガーがあります。今は水木しげるロードのテコ入れをやっていますが,妖怪の町なので,夜には妖怪が出てくるあかりを考えています。その場所,その土地,その人,その店ならではのものを生み出していく。それがデザインの基本だと思います。

 あかりで色々なことが直せたり,違うフェーズに行けたりすることがあります。皆様のお仕事やご近所の環境を一度チェックして,アイデアを出していただくのが良いのではないかと思います。

(スライドとともに)