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2016年7月29日(金)第4,590回 例会

たかが古文書,されど古文書-なぜ今,古文書なのか

向 坂  正 美 氏

NPO法人史料データ保存ネットワーク
理事長
向 坂  正 美 

1948年京都市生まれ。大手家電メーカーを2007年に早期退職。’08年から市井の古文書などを調査・保存する団体として任意団体「史料データ保存ネットワーク」を立上げ活動開始。’10年NPO法人化。久美浜町にて古文書を活用して区誌編纂に関わる。’11年,京都市内において成果発表展示会を開催。現在は京都市内を中心に活動中。

 1948年京都市生まれ。大手家電メーカーを2007年に早期退職。’08年から市井の古文書などを調査・保存する団体として任意団体「史料データ保存ネットワーク」を立上げ活動開始。’10年NPO法人化。久美浜町にて古文書を活用して区誌編纂に関わる。’11年,京都市内において成果発表展示会を開催。現在は京都市内を中心に活動中。

捨てられていく古文書

 彦根城博物館には我が家に関する古文書がいろいろと残っていて,古文書教室に通っているうちに,古文書がどんどん捨てられていることを知り,誰かが保存せなあかんと思い立ちました。教科書に出てくるような日本の歴史の古文書は,博物館や資料館,文書館や大学,行政できっちりと保存されています。ところが,個人宅や町村,小さな神社やお寺に残っている古文書は,家制度の崩壊や世代交代の時期にあたることに加え,家屋の建て替えや蔵の取り壊しなどをきっかけに捨てられており,私はこの現状を大変危惧しております。歴史には年表があり,ずっと続いてきているわけですが,実際には不明な点,間違っている点がいっぱいあります。そこを埋めたり,書き直したり,そういったことができるのは,古文書が残っているからです。

 京都の東寺に寄贈された「東寺百合(ひゃくごう)文書」という古文書を京都府が1億数千万円で買い取りました。当時は「紙くずを1億なんぼも出して買いよった」と非難した人もいましたが,今になって,国宝になるぐらいの価値が見出されています。こういうことがあるので,とにかくまず保存をしよう,中身の精査は後世に任せてもいいんじゃないかと,極端な話ですが,そういうふうに考えております。

町おこしに活用

 NPOの活動と調査実績をお話しさせていただきます。まず,相談を受けて,調査方法・費用について話をします。撮影した写真を基に内容を読み,簡単にお知らせします。ここまでは無料です。以降は有料になりますが,古文書の数が多い場合は目録を作成し,翻刻作業で今の漢字に直し,大意を書面にします。そして,目録や翻刻文などを簡易製本してお届けしています。

 私は,古文書を町づくり,村づくりに応用できるかなと思っています。

 嵯峨中院町には,京都市指定有形文化財になっている高さ60cmぐらいの千手観音像があります。かなり古いもので,これにまつわる「嵯峨中院町慈眼堂文書」という古文書が残されていました。三重ぐらいの箱で厳重に保管され,巻物も3巻あり,一番古いものでは760年ぐらい前に遡ります。何が書いてあるかというと,千手観音像は,藤原定家さんが毎日拝んでいた念持仏でしたが,時代を追うに従って,あっちこっち,嵯峨のあたりをウロウロし,一時は民家にあったこともあると。京都にただ一軒,お公家さんの「冷泉家」という家がありますが,冷泉さんのご先祖の為家さんという方が,その千手観音像を見つけ,「これは非常に大切なもんや,この村で保存をしなさい」ということで,同じ文書を2つ作り,町内2ヵ所に預けたということが書いてあります。

 これが京都市指定有形文化財になっている仏像だったので,町内の文化財保存会が,この古文書を金庫の中にずっとしまってきて,1年に1回,お正月に虫干しする程度で,ほとんど人の目に触れることがなかったんです。町内でご存知ない方も非常に多く,たまたま私どもに調査依頼がありまして,翻刻してみたら,そういうことが書いてあるとわかりました。「これはもったいないので,町づくりに使いませんか」と呼びかけ,複製品をつくって,千手観音像とセットにして町づくりを始めているところです。

 ほかにもエピソードとしてはいろいろありますが,一番面白かったのは,京都市内で江戸時代から呉服商をされていた「市田家」の古文書で,幕末に佐賀藩が市田家から3千両借りたという借金証文が残っていました。3千両は今の3億ぐらいでしょうか。その証文が残っているということは返されていない,もらいっ放しですね。

保存条例を京都に

 これは,今日初めて公の場所でお話しするのですが,「古文書保存条例」というものをつくろうとしています。緩やかな規制でもいいから,これによって古文書が捨てられることを防ぎたいと思っています。これからその作業を始めますが,京都には「日本酒で乾杯条例」というのがありまして,緩やかな条例で何の規制もない,ただ,乾杯するときには日本酒から始めましょうねという条例なんです。それよりちょっと縛りがあればいいかなと思っています。

 2019年秋に京都市で「世界博物館大会」があり,数年後に文化庁が京都に移転と,地方創生の気運が高まっています。国は創生事業として「まち・ひと・しごと」というのを言っているのですが,京都だけは「こころ」というのを入れているんです。「こころ」というのは文化につながると思いますので,こういった気運があるときにやりたいなと思っております。

 最後に私の個人的な目標ですが,120歳まで元気に生きてこの事業をやり遂げたいと思っています。ご清聴ありがとうございました。

(スライドとともに)