大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2016年6月10日(金)第4,583回 例会

動くこと山の如し-地下は未解決リスクの巣窟-

東 畑  郁 生 氏

東京大学
名誉教授
東 畑  郁 生 

1954年兵庫県生まれ。’77年東京大学土木工学科卒業。’82年同博士課程修了。工学博士。ブリティッシュコロンビア大学,タイ国アジア工科大学などを経て,’94~2015年東京大学・社会基盤学科教授。前地盤工学会会長、国際地盤工学会アジア担当副会長。’16年7月からインド工科大学特別客員教授予定。

 日本には迷信があります。「動かざること山の如し」。もともと戦の話なのに,本当の地面の話だと思う方が非常に多い。みなさん安心し切っています。この迷信を疑い,「動くこと山の如し」と読みかえると,世の中はもう少し安全になると思います。

地面の下はリスクの巣窟

 そもそも自然は人間を守ってやろうなんて思っていません。それと何とか,つき合っていかねばなりません。

 いろいろな災害が起きます。災害自体は非常に不幸なことです。そのたびに,足りないもの,抜けているところを,如実に見せつけられます。なんとかしようという積み重ねで,日本が今あるわけです。

 しかし,天文学の世界で230億光年彼方の宇宙を見ている一方で,足元直下50センチに小判が埋まっていても誰も気づかない。それぐらい,ギャップがあります。

 広島の豪雨災害は2014年でした。宅地の造成地に大量の山崩れが来て被害が出ました。現場に行くと川が曲げられている。まっすぐなら少しは良かったのにと思いますが,デベロッパーにとっては,造成地の真ん中に溝があると邪魔になります。普段は良くても,土石流になると大変なことになるわけです。

 ここを上から見ると扇状地です。もともと土石流でできています。そういうところに人間が知らないで住んでしまったのです。

 宅地造成は,だいたい山を掘って谷を埋めます。’11年の仙台では,(谷の)宅地が壊滅している。そこから100mほど横では何ともない。掘った(山の)所と,盛った谷との差です。

 熊本県益城町の被害の例では,建築の耐震設計に頭を悩ませても,下の地面が崩れればどうしようもない。頑丈で立派な家でも,山崩れで下から傾いてアウトになります。

 新しい技術で災害に耐えた例もあります。格子状地盤改良といいますが,土とセメントを混ぜて地面の中で壁をつくるという技術です。神戸のオリエンタルホテルは,地面下にこれで枠を造っていました。

液状化への技術提案

 私が主にこの数年やっておりましたのは,千葉県浦安市の液状化対策です。ここは人工の島の上にあり,市が地面から全部やり直す仕事を始めたのです。柔らかい地盤の上に家を建ててしまったので,家は傾き,水や砂が噴き出して下水管がずれて土砂が入り込んで流れなくなった。

 わが国では家への愛着が強い。地面は強くせよ,家は壊してはならない。家の建っている下の地面をいじって何とかすると,お金も手間もかかります。

 同じころに大地震があったニュージーランドでは,土地は政府に買ってもらい,住人は安全なところへ行きました。

 浦安市で液状化したところは,家と家の隙間に機械を入れて,(地下に)土とセメントを混ぜた壁をつくっています。スカスカの悪い地盤が,地震で左や右への揺れを繰り返して液状化します。これを防止しようと,(地下の)がっちりした壁で抑え込みました。

 狭い場所なので,塀の上に足場をつくり,その上で作業する機械をつくりました。地面の中に機械を押し込み,回転する先からセメントを噴射し,壁を作るという仕組みです。

 値段は一軒600万円。国が300万円,市が独自に100万円。自費は150~200万円になります。高いようですが,土1cm3当たりで1銭です。

 人間は,自分でお金出して安全を買わねばならないということです。

工夫はさまざま

 山崩れの危険があれば,コンクリートで固めるのですが,日本全国で40万カ所となるとそうはしていられません。そんなときは,逃げるにしかず,です。

 崩れそうなところに観測機器を置き,危ない信号が出たら逃げる。たくさん必要なので安くないといけない。私の作ったのは,1台200ドル,2万円ぐらいで,もっと安くなると思います。中国の山奥では,実証実験も行いました。三峡ダムの横でもやりました。

 地盤の問題では,福島の第一原発があります。私どもの専門技術が提供できると思っているのは,汚染物質の封じ込め,地下水の漏れ,溶けた燃料の取り出し,最後は(燃料を)どこかに埋めるという,地面の下に関するところです。

 いい知恵はありまして,重い泥水,重泥水(じゅうでいすい)というものがあります。重い鉱物と水を混ぜた泥水です。放射線が通り抜けるのを防ぐ力が強いのです。鉱物を多く混ぜた泥水と,薄くて水が多い泥水を比べると,水が多いとガンマ線をとめる力が強く,重くなると中性子線をとめる力が強い。泥ですから,漏れている水の穴もとめることができます。

 断層の問題もあります。リニア新幹線は,日本の二大断層,糸魚川静岡構造線と中央構造線を横切っています。リニア運行中に断層がずれれば,運が悪いとしか言いようがないのです。一方で,山陽新幹線新神戸駅では,駅が山側と海側に分かれた構造になっている。断層がずれても短い工期で復旧できる工夫です。

 断層が怖いのは,中国やパキスタンに例がありますが,地震直後は何ともなかったのが,その後,山がどんどん崩れてくるようなこともあります。日本でも静岡や糸魚川のあたりにあります。

 最後は液状化の動画を流します。ありがとうございました。

(スライドとともに)