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2016年4月15日(金)第4,577回 例会

あしたのまちの100の風景~2025年の街・人・暮らし

石 寺  修 三 氏

(株)博報堂 生活総合研究所
所長
石 寺  修 三 

1967年兵庫県生まれ。’89年筑波大学卒業。同年(株)博報堂入社。マーケティングプランナーとして市場調査や商品開発,コミュニケーション業務を担当。2001年新設の異職種混成部門に異動。’15年博報堂生活総合研究所所長に就任。’14年東京農工大学非常勤講師,’16年法政大学非常勤講師。著書に「地ブランド~日本を救う地域ブランド論~」(共著)

 2025年,今から10年先ぐらいの日本のまちについてのお話をします。’25年は一番ホットなテーマです。日本の社会基盤が揺らぐ可能性があるとも言われています。生活者は受身でいるだけでなく,これを乗り切ろうと,生き方,暮らし方を変えてくるのではないかとわれわれは予測しました。まちの未来を左右する2本の軸,そこから生まれる4つのシナリオを示して行きたいと思います。

生活空間と人間関係

 生活者に10年後のまちを,自由に絵に描いてもらいました。そのなかでは,科学技術が発達したまちを描かれた人が結構多くおられました。

 しかし,10年先というのは非常に厳しい現実が待ち構えています。簡単に概要を述べます。超高齢社会,高齢化。’25年になりますと,65歳以上の高齢者が人口の3分の1を超えます。75歳以上の後期高齢者が,高齢者の6割を占めるようになります。

 また,単独世帯が両親と子ども1人という標準世帯より多くなり,1,800万世帯になります。そのうち,高齢者の一人身が圧倒的に増えると予測されています。

 4軒に1軒が空き家になる。シャッター街も増える。買い物に苦労する買い物難民と言われる人が600万人規模になる。

 苦労するのは高齢者だけではなくて,共働きの世帯も非常に苦労するようになる。主に子育ての悩みです。

 このような世界を乗り越えようと,生活者は自衛のために生き方,暮らし方を変えるのではないかと,われわれは予測しました。

 ポイントは2つ。まちの中の「生活空間」を変えること,「人間関係」を変えることです。この2つの変化をもとに未来をシミュレーションしてみたいと思います。

 まず1つ目,生活空間。全国で15歳から69歳の3,300名の男女に,10年後の未来,あなたの生き方としてどちらがいいですかとアンケートを行いました。比較的家の外でシェアをするのか,家の機能を高度化し家の中ですべてが済むようにするのか。前者で4割ぐらいでした。

 もう1つは,人間関係です。こちらは,2つの選択肢を考えました。血縁だけでなく非血縁の人とも関係を結び,助け合って生きていく人。一方,テクノロジーや宅配サービスを使って何とか独力で生きる人。調査をすると,孤独による寂しさや不安がない未来を選ばれる人と,他人とのいさかいや気兼ねがない未来がいいと言う人は,ほぼ半々です。

鍵のないまち, 住所のないまち

 生活者は,生活空間をあける生き方としめる生き方,人間関係をあける生き方としめる生き方という2つの選択肢から選んでいくと考えました。これをクロスさせると4つのシナリオが生まれます。

 1つ目のシナリオは,空間も関係も「あける」まち。プライベートスペースもすべて公共空間で,プライバシーが必要ないことから「鍵のないまち」と命名しました。

 実際,東京・杉並では,会員制のサービスで,血縁のない人が集まって一緒に食事をしたり団らんをしています。海外ですと,ネットを介して,自分が誰かの仕事を2時間ぐらい手伝うと,誰かにまた2時間ぐらい助けてもらうという互助システムが進んでいます。

 2つ目は,空間はあけるが,関係はしめるまち。「住所のないまち」と命名しました。家の中の機能を外に出し,共有しますが,使うときは自分や家族単位で個別に使います。風呂やキッチンを共有,そこを企業がスポンサーとして,ビールがおいしく飲めるようにシャワーを提供するようなこともあるかもしれません。オランダでは,衣服のレンタル図書館があります。借りて気に入ったら買うこともできます。クローゼットの共有です。

壁のないまち, 窓のないまち

 3つ目のまちは,空間はしめて関係はあける「壁のないまち」です。家の中で世界中とつながって暮らしていける,助け合っていけます。例えば,距離の制約を受けずに出勤ができます。福島に住んで東京に自分の映像だけで出勤することだってできるようになる。このまちで亡くなると,電脳空間にお墓を持ったり,デジタルクローンを登録しておいて,亡くなった後も会話できるようになるかもしれません。

 最後は「窓のないまち」。関係も空間もしめたまちはどうなるか。このまちはすべて家の中で完結します。外に出る必要がないのです。ドローンが飛んで配達し,壁は全面スクリーンで世界の風景を好きに投影できます。照明も,地中海や北欧,アフリカと選べます。こういうことで,だんだん窓も要らなくなるのです。買い物もお店が家にやってくるかもしれない。データを送って,家の3Dフードプリンターで料理をつくる,そんな技術も開発,発売されています。

 さて,駆け足で4つのまちの可能性を説明しました。どこに住んでみたいのか,挙手をお願いできますでしょうか。壁のないまちが一番多くて,3,4割でしょうか。

 東京の会場では,壁のないまちと住所のないまちが3割強ずつでした。生活者への調査では,窓のないまちが一番,次いで壁のないまちでした。

 どれも夢物語のようですが,技術を見ていますと,実は10年,15年先は必ずしもすべてが夢物語ではないということがおわかりいただけるかと思います。最終的に未来のありようを決めるのは,生活者の気持ち,意識だと思っております。

(スライドとともに)