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2016年3月4日(金)第4,571回 例会

よくわかる日本銀行

宮 野 谷  篤 君(中央銀行)

会 員 宮 野 谷  篤  (中央銀行)

1959年生まれ。’82年東北大学法学部卒業,日本銀行入行。’99年金融市場局金融調節課長,2004年考査局参事役,’08年政策委員会室秘書役,’10年金融機構局長,’13年名古屋支店長,’14年理事・大阪支店長。
当クラブ入会’14年8月。昨年10月にも卓話を担当。

 今日は日銀の金融政策と資金供給の本質についてお話しします。まず,金融機関以外の方はご覧になることはないと思いますが,金融政策の本質を理解してもらうため,日銀のバランスシートを見ていただきます。

219兆円の資産が増加

 日銀の主な資産に,市中から買う「国債」があります。量的・質的緩和をガンガンやっている最中の去年12月時点で325兆円。金融機関向けの様々な「貸付金」は36兆円。資産はこのほか,「金銭の信託」や「外国為替」も少しあります。

 主な負債は2つ。1つは発行銀行券で98兆円。皆様の財布にあるお札です。もう1つが,金融機関が日銀に預けている「当座預金」で253兆円あります。もろもろ足すと,日銀の資産は383兆円で,それと同じ額の負債と資本勘定で見合っています。

 黒田緩和が始まる前の2013年3月から2年9ヵ月間の資産増加額は,国債が200兆円,貸付金は11兆円,金銭の信託等で6兆円,全体で219兆円です。それだけ量的・質的金融緩和で猛烈に金融機関に資金供給をしたということです。バランスシートなので,資産が増えれば負債も増えます。日銀当座預金は195兆円増えましたが,銀行券は15兆円とマイルドな増加にとどまっています。日銀の資金供給,バランスシートの特徴は,日銀が資産を増やして市中に猛烈に資金供給をすると,ほぼそれと同額だけ日銀当座預金も増えることです。メディアに,日銀がせっかく資金供給をしても,金融機関が日銀当座預金にお金をため込んでいると書かれることもありますが,それは正しくありません。日銀が資金供給すれば,そのお金を金融機関の当座預金に支払うので,必ず反射的に増えます。当座預金がこんなに増えているのは,日銀が200兆円も資金供給を実行できたことの反射的な効果だということになります。

お札のコストは1枚17円

 もう1つ本質的な話を。「金融政策も,いっぱいお札刷ってもっとばらまけば,景気はよくなります」と言う政治家もいますが,真実ではありません。金融政策と財政政策は景気刺激を目指すという意味で共通点はありますが,決定的な違いは,金融政策では財政政策のように贈与を行うことはできません。贈与というのは補助金交付など税金の無償な使用ですが,それは国会の議決を経るからこそ可能です。一方,日銀は国会の議決を経ずに,独立に金融政策を遂行できる権限を与えられている反面,その業務は金融取引に限定されています。そこが財政政策との大きな違いです。

 資金供給と皆さんの財布の中にあるお札との関係についてお話しします。お札をつくっているのは日銀ではありません。国立印刷局に日銀が需要予測を立てて製造を依頼します。刷り上がると,日銀が引き取って金庫に保管します。ちゃんと製造費を払います。ちなみに製造コストは2014年度で年間515億,1枚当たり17円ぐらいです。

 日銀が金庫に保管している段階では単なる紙です。金融機関が日銀の当座預金から現金を引き出すと,銀行券が発行されます。この時点で発行銀行券という勘定が日銀の負債勘定に計上されます。「お前のところ,お札いっぱい刷れていいな」と言われますが,刷っているのは日銀自身ではありませんし,お札自体は負債ですので,負債がいっぱいあってうれしいという感じでもないのです。

マイナス金利の適用は一部だけ

 最後にマイナス金利政策について。今まで,金融機関の日銀当座預金の大部分に0.1%の金利を付けてきました。2月16日のスタート時点で日銀当座預金残高が260兆円あり,うち210兆円は引き続き0.1%のプラス金利を付けています。ゼロもしくはマイナスの金利を課すのは残りの部分だけです。つまり,実際は260兆円のうち20兆円にしかマイナス金利を適用しないことにしました。全部あるいは大部分に適用すると,金融機関収益への影響が大きくなり過ぎ,金融機関の金融仲介活動を阻害しかねないためです。

 今後,このままでまた物価上昇目標が達成できないような局面に陥った場合は,量を増やすか,質を増やすか,あるいはマイナス金利幅を広げていくという3つ目の選択肢を得たことで追加緩和の幅が広がったわけです。

 それはわかったが,やった後もあまりよくなってないではないか,と疑問を持たれていると思いますが,日銀の初期の狙いは結構効果が出ています。日本の10年国債の利回りは0.25%でしたが,マイナス金利導入後は一気に下がって今はマイナス0.05%ぐらいです。長期金利も含め金利全般を一段と押し下げる効果は発揮されており,それに基づいて金融機関は貸出金利や住宅ローン金利を一段と下げたりという行動に移っています。

 普通預金金利は一番低いところで0.001%,100万円預けても利息は10円です。ただ,元々は0.02%で200円でした。200円が10円になったことは申し訳ないのですが,貸出金利が低下する効果が何千円と出ますから,経済的には預金金利低下のデメリットより貸出金利低下のメリットのほうが大きいと思います。

 残念ながら,株や為替の動向は変わっていません。日本の政策のせいというより,中国経済や原油価格,中東情勢など海外の不確実性が大きいためです。中国経済にしろ,原油価格を安定させようとする動きにしろ,不確実性を緩和しようとする政策協調の動きは出てきています。それに伴ってマーケットが安定してくれば,企業収益は非常に好調ですので,今の株価が続くことはないと思っています。

(スライドとともに)