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2016年2月5日(金)第4,567回 例会

国をつくるということ
東ティモールの開発の現場で感じたこと

高 田  裕 彦 氏

国際協力機構 関西国際センター
次長
高 田  裕 彦 

1961年生まれ。’86年同志社大学大学院文学研究科修士課程(新聞学)修了。同年国際協力事業団(現国際協力機構=JICA)入団。’91~’94年JICAインドネシア事務所,2002~’05年JICAフィリピン事務所次長,’11年~’14年JICA東ティモール事務所長などを経て,’14年3月からJICA関西国際センター次長(現職)。
 東南アジア(特に島嶼部)での協力事業に携わることが多く,同地の開発政策,開発の歴史に関心。

 JICAとは,日本政府が開発途上国に対して行う政府開発援助の実施機関です。その中には,技術協力や無償資金協力,インフラ整備に資金を低利で貸し付ける有償資金協力などがあります。

東ティモールという国

 私は,一昨年3月までの3年間,東ティモールでJICAの事務所長をしていました。

 皆さんの記憶には,1999年に現地で大きな騒乱が起きたことがあるのではないでしょうか。実は今,治安は非常に安定しています。

 東ティモールは,インドネシアのヌサテンガラ諸島の東で,豪州の北側に位置します。日本と深い関係があり,南側で出る天然ガスは,東日本大震災のあった2011年以前には日本の総輸入量の約5%でした。

 東ティモールは,1975年にポルトガルからの独立を宣言。翌年,インドネシアに併合されます。東ティモールはカソリックの国で,インドネシアはイスラムの国ですが,これら(併合や独立)は冷戦の影響です。

 その後,インドネシア下に残るか,独立するかという住民投票が行われます。この結果から親インドネシア派の民兵が暴れたのが’99年の事件です。国連の暫定統治後,2002年に独立します。

 人口は約120万人。面積は大阪,京都府と兵庫県を合わせたぐらい。通貨はUSドルを使っています。

 東ティモールが世界に唯一誇れることは,「若者の数が多い」ことです。国連開発計画の統計では,若者(10歳~24歳)は,全人口のうち38%で世界最高です。

 経済の状況では,1人当たりGDPが3,000ドルを超えています。多いと思われるかもしれませんが,石油・ガスの権益を含めていて,これがなければ1,000ドル強だと思います。1日1ドル25セント以下で生活をする人口が34.9%,1日2ドル以下が71%。非常に貧困層が多いと言われています。

命綱の石油・ガスと課題

 豪州との間にある石油・ガス田で,JPDAというのは,共同開発をしている鉱区。産出される資源の権益の90%を東ティモールが取ります。ただ,産出の最盛期は終わり,’24年ごろまでには生産が終わると言われています。

 もう1つ,グレーターサンライズガス田というのがあります。ここはさまざま問題があり,生産の見通しが立っていません。

 また,LNG施設の建設計画として,フローティングLNG(洋上施設)を使うのか,深い海溝を通す大水深パイプラインを引くのかというところで,意向が合わず承認が下りていません。

 石油収入は,石油基金の形で積み上げられています。非常に大きな金額になっていて,171億ドルまで積み上がっています。これが,東ティモールの経済のエンジンです。

 この,石油基金に頼りきっている経済構造から脱却するのが課題です。

 まず,インフラが貧弱であること。産業開発では,国内市場が小さい一方,金融や製造の技術が不足している。子どもが多く,教育は大きな課題です。

 東ティモールには3つ主要産業があります。農業,観光,石油産業です。

 東ティモールでは,食糧自給率が低い。自国で生産しようという意欲もない。

 ひとつだけ農業で商品になっているのがコーヒー。スターバックスコーヒーには,東ティモール製のコーヒーが結構あります。

国づくりへの支援

 JICAの活動には,3本の柱がありました。まず,経済活動の活性化のための基盤づくりとして,人材の育成です。

 東ティモール国立大学工学部の能力強化には,私たちが技術協力という形で,大学の教員の質の向上に取り組んでいましたし,学生には,大阪ガス国際交流財団から奨学金を出していただいていました。

 2番目は農業開発です。マナツト県というところで,灌漑設備の整備を行い,肥料などを大量に入れなくても栽培の仕方を変えるだけで収量が上がるというプロジェクトを行っていました。

 ところが,全体として栽培面積が伸びない。単収が上がれば全体収量は上がるはずですが。どうも米をつくっても誰も買ってくれないということがわかりました。

 3つ目は,政府・公共セクターの能力向上です。東ティモールは新しい国ですので,政府がきちんとやるべきことをやるのが大事だと思って取り組んでいました。

 ASEAN加盟を支援していました。これは,ASEANに加盟すれば,大きな市場を相手にすることもできますし,いろいろな技術も入ってくると考えたからです。最近では,ハイネケンビールが現地に工場をつくるなどの外国投資も出てきているようです。

 私が現地で見ている中で,「国をつくる」ということは,まず平和の定着が大事なことだろうと思います。

 世界の中で東ティモールは脆弱国と言われており,脆弱国のグループで「g7プラス」というグループをつくっています。議長国は東ティモールです。その中で言われるのが,平和がつくれない国では開発なんてあり得ないということです。

 あとは,自国が成り立つための経済開発です。そのために,政府が適切なガバナンスを行い,国民自身が意欲と能力を身につけねばならないと思います。

(スライドとともに)