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2016年1月15日(金)第4,564回 例会

我が国の衛星事業(通信・放送)について

小 森  光 修 氏

スカパーJSAT(株)
取締役 執行役員副社長
小 森  光 修 

1952年9月18日生。’77年京都大学大学院工学研究科修士課程修了。同年4月,日本電信電話公社入社。’92年7月NTTAmericaInc.副社長。2000年7月NTT東日本長野支店長。’02年7月NTT持株第五部門担当部長。’05年6月NTTドコモ執行役員コアNW部長。’08年6月NTTドコモ取締役常務執行役員研究開発センター所長(CTO)。’12年6月ドコモ・モバイル(株)代表取締役社長。’14年6月現職。
(元ロータリアン)

 昨年で通信自由化30周年です。1985年に電電公社が民営化になり,通信に競争が導入されました。その後,いろいろな会社が自由化によって参入しました。結局,NTT,KDDI,ソフトバンクに,スカパーJSATを加えた4 グループに一応収斂されました。

紆余曲折を経て

 通信事業は,インフラのスケールメリットが働かないといけません。通信自由化は,競争の原理がどこまで有効に働くかを物語る歴史の縮図のような面がありました。

 通信自由化と同時に,商社系を中心に衛星通信の3グループの会社が立ち上がりました。しかし,スケールメリットが働かないということで,結果的に1社になりました。

 そして,通信自由化の10年ぐらい後に,今度は放送業界で競争が始まりました。有料多チャンネルテレビと言われる業界で,3つのグループが立ち上がりました。こちらも紆余曲折を経て1社に統合されました。

 衛星・放送というのは,ある意味では垂直統合関係にあります。そこで,衛星と放送の会社が一緒になって,現在のスカパーJSATという会社に収まったのです。

人工衛星ビジネス

 宇宙・衛星関係の話は,マスコミで頻繁に紹介されています。ほとんどが国や科学技術などのミッションで,JAXAとか国際宇宙ステーション,はやぶさ2などに関するものは,ビジネスとは一線を画した存在です。

 では,人工衛星ビジネスとはどういうものなのか。宇宙開発には膨大な投資が伴います。衛星を1機上げるのに,衛星1個で100億円から300億円,打ち上げに100億円以上かかり,保険も10億円か20億円かかります。

 総資産として数百億円の衛星が上がって,それを減価償却していく大変リスキーなビジネスです。

 ビジネスが成り立つのは,ほとんどが静止軌道です。

 静止軌道は,赤道上空3万6,000キロの軌道。この軌道上では,衛星にかかる遠心力と地球の重力が,つり合います。地球の自転に合わせて1日1回転の速度で回り続けることができる。

 衛星は3万6,000キロ上空を,秒速約3キロで走っています。静止軌道では,その名のとおり,地球から見ると衛星が静止して見えます。スカパーのテレビアンテナは,ベランダに置いておくと,そのまま見ることができます。地球は自転していますが,衛星も回っているからです。

 ですから,世界の静止衛星の軌道上配置を見ますと,ぎっしり詰まっています。銀座や大阪の御堂筋みたいな一等地なのです。この静止軌道に私の会社は,15機の衛星を保有しています。アジアで1位,世界で5位のオペレーターです。

 業界に最近,大きな変革が起きかけています。500キロ以下とか軽いのでは10キロのものを打ち上げ,通信のインターネットや,リモートセンシングと言って,地球の高画質の映像を撮り,さまざまな分野で画像を販売してビジネスにします。

 1機で地球上をカバーできませんので,多いものでは4,000機の計画もあります。1つや2つ落ちてもたいしたことないという考え方で,コスト破壊を起こし,ビジネスとして成立しかかっています。

先駆者の登場

 最近の衛星の話題では,イーロン・マスクという人物がいます。この人物は,つい数年前に,ロケット打ち上げ業界に登場し,大きく世界の業界を揺さぶりました。

 南アフリカ共和国出身で,スタンフォード大を2日でやめて,ペイパルというインターネット決済のベンチャーを成功させます。その後,スペースX社のロケット事業に挑み,成功しました。

 他にテスラモーターズを立ち上げ,ソーラーシティという太陽光発電会社の話も,よく新聞などで取り上げられています。

 昨年まで連続18機の打ち上げを成功させて,ヨーロッパの連合のアリアンスペース社を追い抜くような勢いになっています。

 ただ,昨年6月に,宇宙ステーションへの輸送ミッションで初めて失敗しました。失敗しますと,調査委員会が国レベルでも立ち上がって調査。徹底究明して対策を練って,慎重を期して再開します。「リターン・トゥ・フライト」と言うのですが,昨年末にこれを成功させました。

 このとき,成功させるだけでなく,機能を大幅に向上させ,打ち上げたロケットをもう一回元のところに着陸させ,これを再利用しようと計画しました。再利用となると,コストが劇的に安くなります。これを見事成功させてしまったのです。

 最後に放送のお話を。私どもは昨年3月から4Kのチャンネルを立ち上げました。

 4Kは,これからノウハウを蓄積する段階ですが,スポーツなど間違いなく4Kだとすごい。野球もサッカーも,カメラを引いても全体も,ボールも,選手の顔も,観客一人ひとりも,はっきり見えます。コンサートのライブなども,非常に迫力があります。

 昨年,1959年の皇太子様のご成婚パレードの35ミリフィルムを,4Kでデジタル・リマスターして放送しました。これは本当に感激しました。世に多く残る記録フィルムをリマスターすると,現代に映像がよみがえります。こうした,大きな可能性も見出すことができました。

 (スライド,映像とともに)