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2015年10月23日(金)第4,554回 例会

時代の気流を読む。
~注目すべき生活者の変化とトレンド~

嶋 本  達 嗣 氏

(株)博報堂
執行役員
嶋 本  達 嗣 

1960年東京都出身。東京工業大学電気電子工学科卒業。’83年(株)博報堂入社。マーケティング局配属。2000年研究開発局グループヘッド。’06年博報堂生活総合研究所所長。’13年執行役員博報堂生活総合研究所所長。’15年執行役員博報堂生活者アカデミー主宰。

 ビジネスは人間学である―というのが博報堂の精神です。1981年に,博報堂生活総合研究所という機関を設立,私は2006年から今年春まで,所長を務めました。きょうは,生活者が主役の3本の矢の話をいたします。

モノつくる消費者

 生活者が生産を始めています。消費生活から生産生活へ移行する例で,まず,日常で農業の習慣が広がっています。

 農水省のデータで,1990年,日本の農業従事者数は約850万人。2010年には,ほぼ半減の約450万人です。

 年齢構成比では,1990年は65歳以上が2割。2010年には倍。数が減って,高齢者が倍になっています。

 一方,市民農園は約20年で4倍まで伸びています。市民農園のエリアは都市部が多く,先生として「ガーデンスター」という称号をもらう人が生活者の中に出てきました。また,パーソナル耕運機がホームセンター等で,非常に大きな棚を占めています。燃料はガスボンベに,軽量化も進み,お手頃なのです。

 生活総合研究所は’12年に,全国の方々に親子のつながりを象徴する写真を撮ってもらう調査をしました。

 その中に農作物の写真がすごく多い。親子で農業をすることに積極的になっていて,「子育て農」であり,また「学び農」でもあるといえます。

 また,過渡的には,個人で買うには高価な3Dプリンターやレーザーカッターを店に置いて,お茶を飲みながらものづくりをする「ものづくりカフェ」が広がっています。他にも「はんだづけカフェ」,「クラフトカフェ」などもあります。

 最近は生活者が本をつくるようになりました。「リトルプレス」と呼ばれ,手づくりの雑誌を作ってカフェなどに置いています。

 単なる,私は与える側,あなたは使う側,ではない関係性が生まれているのです。

個人資源をつなぐ

 2つ目の話は,ゆるやかな連帯について。「さしだす,つなぐ,つかいあう」運動が始まっています。

 生活者は,一人一人がいろいろな資材を持っています。個人が差し出したものをつないで,皆で使い合うというコネクションの時代なのです。

 世界で900万人がメンバーの「カウチサーフィン」という運動があります。「うちのベッドを提供します」という人のところに泊めてもらうシステムです。基本は無償。日本にもメンバーがいます。ベッドを借りるのは最終目的で,友達をつくるためのネットワークなのです。

 また,「キッチハイク」というコミュニティーもあります。「うちの台所で食べていけば」という人をネット上で紹介するサービスです。これは有料。

 さらに,「さしだす,つなぐ,つかいあう」運動では,「かえっこ」という運動体があります。子どもたちが飽きて使わないおもちゃを交換するコミュニティーです。週末に「かえっこバザール」が開かれます。要らなくなったおもちゃを持ち寄り事務局に査定してもらいます。地域通貨で買い取ってもらい,展示のおもちゃの中からほしいものを買います。今は「かえっこインターナショナル」という運動も盛んです。

 蔵書を皆のものにして読み合うという運動は「まちじゅう図書館」。長野県のケースでは,ブックポストを家の前に置いて蔵書を並べれば,ベンチ1つで,そこが図書館になるのです。首都圏では船橋市で,北海道の恵庭市も有名です。

 また,個人の知恵や技術,能力も資源です。千葉県の生協は「おたがいさま」事業を行っています。困っている人に対し,手伝える人をマッチングするのです。ポイントは,特別な技術,免許がなければならないことだと,おたがいさまにならない。気軽なところにハードルを下げた点がよかった。

記憶も資産

 高齢者が増える社会は,記憶量が増える社会です。その記憶を社会の財産化する動きがあります。「Memoro」といいます。スペイン語で「記憶」という意味。7,8年前から日本にも入ってきています。

 これは60歳以上の高齢者に,知人や家族が思い出をインタビューし,ビデオに撮ります。動画をネットにあげ,ネットで昔話を聞く放送局を開設するのです。

 また,文化を都市の中で再現しようと,最近若い人たちが古い長屋をリノベートしてカフェにしています。

 博報堂生活総合研究所の生活定点観測調査で,「人情味は日本の誇りだ」という問いに,1994年は36%の方がそうだと答えています。それが2014年には,54%になっている。「質の高いサービスは日本の誇りだ」という問いでも同じでした。生活者のなかに和の持つリソースや文化をもう一度注目しようという気運があるのだと思います。

 ほかには,江戸時代に江戸で栽培されていた江戸野菜を復活させようという運動があります。大阪では,なにわの伝統野菜の復活と普及を大阪府が後押ししています。

 このように,知恵も生活文化も昔のよきものを掘り起こし,その記憶を次世代につなぐ動きが始まっているのです。

 生活者は,こうした動きで何を求めているのか。結局,「体験と関係と知識」なのです。しかも,モノやマネーのストックから,関係や知識というソフトストックの時代にシフトしていると思っています。

(スライドとともに)