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2015年9月11日(金)第4,549回 例会

上町断層とBCP

近 藤  一 雄 氏

大震研
会長
近 藤  一 雄 

1949年大阪府生まれ。’74年神戸大学大学院建築学修士終了。(株)東畑建築事務所入社。常務執行役員構造統括。構造設計一級建築士。日本建築学会評議委員,日本建築センターコンクリート構造評定委員,日本建築総合試験所建築技術安全審査委員,日本建築構造技術者協会副会長,大震研会長等歴任。

 大震研というのは,「大阪府域内陸直下型地震に対する建築設計用地震動および設計法に関する研究会」の略称です。大阪府域での地震に対して建物をどのように設計していくかを検討する5年時限の研究会で,その成果を紹介します。皆様方においては,すでにBCP(事業継続計画)を実行していると思います。このリスクのうち地震と建物の性能に関する話題を提供させていただきます。

地震の活動期に

 日本地震学会のホームページに,「Q.東北太平洋沖地震の前後から,日本は地震活動期に入ったのでしょうか?」「A.過去1000年程度の歴史記録に基づくと,南海トラフでの巨大地震前後に西南日本の内陸地震活動が活発化する傾向が知られています」というQ&Aがあります。最近だと,1995年に兵庫県南部地震(阪神淡路大震災),2011年3月には東北太平洋沖地震(東日本大震災)が起こっています。去年は御嶽山の噴火,今年は口永良部島の噴火に伴う火砕流,浅間山での小規模な噴火など,最近少し地震活動期に入ったのかなと,皆さんもお思いのことと思います。

 この辺りは梅田ですが,真下を「上町断層」が走っています。大阪市は,阪神淡路大震災後の1997年に,市有の建物の設計について,建築基準法より1割ほど強くしようと決めました。当時,上町断層は一度起こると長さが38キロほどと考えられていたのですが,その後の調査で,58キロとかなり大規模な断層が起こることがわかってきました。

 大阪府と市では,上町断層帯・生駒断層帯・有馬高槻断層帯・中央構造線,それから海溝型として東南海・南海地震を対象に,地震の被害予測をしています。2005年,大阪府自然災害総合防災対策検討委員会を立ち上げ,地震動,液状化などを予測しました。上町断層帯が起こったとき,北区や中央区の震度は6強,7となっています。

 ’06年には,この結果をもとに,建物の被害,人的被害,それから罹災者,避難者を予測する「地震被害想定」を発表し,’07年には構造物設計の指針となる「標準地震動の設定」を行いました。ただ土木用の地震動は設定されましたが,建築用は注意喚起にとどまっています。土木用はインフラ整備で社会的に影響が大きいため,なるべく大きな地震を想定しておけばということで決められましたが,建築は民間の所有物もあるので,なかなか決められなかったのです。

データ無視は職務放棄

 せっかく被害想定の貴重なデータがあるのに,減災に使わない手はありません。上町断層帯の地震は,建築基準法で決められているレベルを大きく超えるものがほとんどです。阪神淡路を経験した関西の設計者として,このような予想があるということを無視することは許されない。法の整備を待っているのでは職務放棄に近い。設計指針というのは,構造設計に責任を持つ構造設計者自身が作成すべきものであるという考えのもとに,’09年10月に大震研を立ち上げました。

 構造設計専門の専業事務所,建築家・設備の方・構造設計者がいる総合事務所,そしてゼネコンと,当初45社集まり,最終的に65社で活動を行ってきました。65社というのは少ないと思われるかもしれませんが,超高層や免震の建物の設計に関わっている設計者は,多分この65社プラスアルファ程度と思っているので,そのような設計をする設計者のほとんどが集まったと自負しております。

 研究会には,学術委員として京大・阪大・神戸大の先生方にも参加していただきました。5つのワーキングをつくり,3ヵ月ごとに全会員と学術委員が集まって,3ヵ月間の成果を披露しました。’15年3月に『報告書』を発刊し,講習会や学会での発表のほか,国交省や一般社会への説明も行っております。研究会は5年間で終わったのですが,構造設計者でつくる日本建築構造技術者協会(JSCA)の関西支部の委員会として,最新の知見をさらに入れていこうと,活動を続けています。

発生確率は空き巣と同じ

 大震研5年間の成果は,『大震研設計指針』1,300ページにまとめました。「設計用地震動をどう決めるか」「それを構造計算するのにどう解析するか」「鉄筋コンクリート造,鉄骨造,免震構造,基礎構造はどう設計するか」ということで,構造体の設計手法を示しています。

 この設計入力,あるいはその設計指針による設計法は,超高層建物・免震・制震建築建物の新築物件に法のしばりはないのですが,一応われわれが考えて,こういうふうにしようと示したものですので,われわれ構造設計者は建築主に対して,「こういうリスクがあります。これに対してこういう設計をどうでしょう」と説明をしています。

 今,大阪市内,堺市市有の建物にはこの検討を行っており,広く使われるようになっています。新築の建物に限ったわけではなくて,既存建物の耐震診断にも有効に使えます。

 上町断層の発生確率は30年で3%といわれています。東海・東南海・南海地震は60~80%です。3%というと極端に低いと思われるかもしれませんが,参考情報ということで一概にこれを比較するのは難しいのですが,交通事故で負傷する確率は24%ぐらい,空き巣に狙われるというのが同じ3%ぐらいです。3%というのはそんなにも低い値ではないとわかっていただけるのではないでしょうか。

 BCPというか地震のリスクを検討されるときに,特に大阪においては長周期と同時に上町断層の地震も対象とし,大震研の指針を参考にしていただければと思っております。

(スライドとともに)