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2015年6月5日(金)第4,536回 例会

「いじめ」と子どもたちの心

小 林  哲 郎 氏

神戸女学院大学 人間科学部
教授
小 林  哲 郎 

1954年広島県生まれ。’78年京都大学教育学部卒業,’84年同大学大学院教育学研究科博士課程修了。金沢美術工芸大学助教授,天理大学助教授,京都大学カウンセリングセンター教授を経て,2007年神戸女学院大学人間科学部教授就任。文部省スクールカウンセラー,京都市学校問題解決支援チーム委員を務めるなど学校いじめ問題解決に活躍。

 私は臨床心理学が専門で,スクールカウンセリングとかプレイセラピー(遊戯療法)を長くやっております。学校はいじめという問題が付いて回り,皆さんのお孫さん,曾孫さんにも関係があるかもしれません。「いじめ」とはどういうものか。それから一番お伝えしたいのは「いじめ防止対策推進法」が平成25年に議員立法で成立したということです。

いじめの定義

 まず,いじめとは何か。ハラスメントは,セクシャルハラスメント,パワーハラスメントというような,組織内での上下関係を使ったハラスメント,困らせるという意味です。それから,DV(ドメスティックバイオレンス:家庭内暴力)。これは配偶者間のことが多いですし,中には介護で,認知症の親に対する,高齢者に対するDVもあります。

 それから,虐待。これは親が子どもに対するしつけと称して身体的であったり,性的であったり,心理的,あるいはネグレクト(養育放棄),食べさせないとか,熱が出たのに病院に連れて行かないとか。最近,面前DVということで,お父さん,お母さんが家の中でけんかしているという状況を見せることが子どもへの虐待,心理的な虐待に当たるということも指摘されております。それから,体罰,しごきです。

 わが国で「いじめ」と言うと,学校での児童生徒間のいじめという意味に使われています。それが原因で自死をする子どもたちが後を絶たない,あるいはその後の教育委員会とか学校の対応がおかしいとか。児童生徒間ということで使われています。

 いじめの定義ですが,平成17年までは「自分より弱いものに対して一方的に,身体的・心理的な攻撃を継続的に加え,相手が深刻な苦痛を感じているもの」というような定義で文科省が調査をする,それを教育委員会が集計する形でした。18年以降はそれまでのものから「一方的に」「継続的に」というのが外れています。定義が緩くなっています。

 次に「いじめ防止対策推進法」というのができ,その中の定義は「一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的または物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって,当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」で,先ほどの「攻撃」から「影響」という,非常に多様な意味にとれる言葉に変わっています。カッコつきで「インターネット」という言葉も入っています。

四層構造

 いじめに関する日本とイギリス,オランダ,ノルウェーの調査ですが,世界各国,そんなに変わりません。ただ「無視・仲間はずれ」「うわさ・持ち物に落書き」は欧米諸国の調査では入ってなかったと思います。日本のいじめ研究,調査では,こういうものも一つのいじめとして最初から取り上げられていました。日本では非行加害者に甘いというか,学校の中で起きたことだからというので,あまり被害届を出さないという傾向があります。いつも国際会議で取り上げられるのは,日本は被害者の子どものクラスを替えたり,転校させたりして解決しようとするが,加害者をどうして転校させないのかとか,加害者に罰を与えるべきだと言われます。正義感が強いというか,理屈では当然そうです。

 日本のいじめの特徴に「いじめの四層構造」が言われます。被害者が真ん中にいて,周りに加害者がいて,次の周りにはそれを取り巻いている観衆,これはリングサイドではやし立てるような子どもたち,その周りに,同じ教室にいるけれども気がつかないふりをしている傍観者という立場の子どもたちがいます。傍観者の数が多いほどいじめが深刻化し,エスカレートして継続しやすいという結果が得られています。見て見ぬふりする子どもたちが多い教室でのいじめが,エスカレートしやすいということです。

 一方で仲裁者,「やめたれよ」とか「やめなさい」とか入ってくる人によって,これは抑止することができるということが言えると思います。

傍観者と仲裁者

 加害者,被害者は入れ替わりがある。それから傍観者たちが,先ほどの4カ国調査では,オランダとかイギリスでは中1,中2あたりから減少に転じていますが,日本では学年が進むにつれて右肩上がりです。仲裁者を見ると,イギリス,オランダは中1,中2あたりで底打ちするのですが,日本はだんだんと少なくなっていく。止める人がいなくなって,知らんぷりをする子が増えてくるという発達上の変化が見られるということです。

 今後に向けてですが,ネットリテラシー教育の充実,ネットの使い方の教育を充実させることです。それから,道徳心。社会的ルールとしての最低限の道徳心がなくてはいけないし,いじめの抑制に一番効くのが共感性ですから,相手がどう感じるかということを身につけさせる。そのためにコミュニケーション力とか体験学習みたいなものを強化する。義務と責任を果たし,社会の中で貢献もするし,自分のやりたいこともちゃんと主張する。ロータリーの精神に似ているかもしれません。

 それから,学校でのいじめの発見。教師の対応力,学校での対応力。それから,家族の絆,信頼関係を当然強めていかなくてはいけない。地域での協力,連携もより一層重要になっております。法律ができていることも知っていただき,現場ではそれを生かした教育をしてほしいと思っています。

(スライドとともに)