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2015年5月29日(金)第4,535回 例会

地下街の昨日,今日,明日

髙 橋  秀一郎 君(不動産経営)

会 員 髙 橋  秀一郎  (不動産経営)

1954年2月,大阪市生まれ。’76年3月,東京大学工学部卒業。同年4月,阪急電鉄(株)入社。’03年6月,取締役。’06年4月,常務取締役。’07年4月,阪急不動産(株)専務取締役。’10年9月,阪急リート投資法人執行役員,兼・阪急リート投信(株)取締役社長。’12年6月, 大阪地下街(株)代表取締役社長。 当クラブ入会2012年11月。

 日本の都市は可住地面積が非常に少ないこともあって,地下空間の利用が世界で最も盛んな部類に入っていると思います。

 ロンドン,パリの下水道とか地下鉄も昔から有名ですし,カナダのトロントでは,寒いところですので地下の歩行者ネットワークも整備されています。海外にも地下空間利用の事例は古くからたくさんあります。ただ,いわゆる地下街というものは,厳密に言うと日本特有の利用形態と言えるかと思います。

梅田はわかりにくい

 地下街の定義は「道路や公園等の公共施設の下に公共地下道とともに設けられた店舗とか事務所の一団である」。これが狭義の地下街です。

 狭義の地下街は,防災上の規制が非常に厳しく,地下の公共通路に面したビルの地下店舗(準地下街)とは規制,法律が異なっています。

 東京から来られた方は「梅田の地下は本当にわかりにくい」と,いつもおっしゃいます。純粋な地下街は3つだけで,ホワイティうめだ,ディアモール大阪,ドーチカ(堂島地下街)です。公共地下道,地下駅コンコース,接続ビルの地下が混然一体となっているのが,わかりにくさの原因かなと思います。

 阪急梅田駅の地下の阪急三番街もショッピングセンターになっていますが,これはまさに駅ビルの地下で,地下街の範疇には入らない。最近,立ち退きが話題になっている串カツ屋は,公共通路に当たる部分に立地しています。

 全国の地下街は,大半が昭和30年代後半からの約20年間に建設されています。建設後35~50年経過していて,老朽化対策が課題になっています。

 1970年に天六の地下鉄工事現場でガス爆発,’72年には地下街ではないが千日前デパートの火災で大変な犠牲者が出た。そのたびに地下街に対する規制,設置基準が厳しくなり,地下街単体で投資を回収するのが非常に困難になったため,’90年以降,地下街建設に急ブレーキがかかったというのが実態かと思います。

地下街の存在価値

 大阪市内の地下街建設のきっかけですが,主要ターミナルの道路状況がとんでもないことになり,街路整備と歩行者の安全対策を一挙に進めようということで,まず地下街会社が先に設立されました。最初に着手したのが難波の高島屋前で,「NAMBAなんなん」という名前で営業しています。’57年12月開業です。

 続いて建設されたのが,’63年11月開業のウメダ地下センターです。全区画テナントがすぐに埋まり,開業当日の来街者は1日100万人と言われています。

 これを機に,税金を投入することなく地下道を整備し,かつテナントに入った中小企業を育成できる,一石二鳥だ,という地下街のビジネスモデルが確立され,全国で地下街が普及するきっかけにもなったと言われています。 3番目に着手したのがアベノ地下センター(現あべちか)。次に,なんばウォーク(旧虹のまち)。5つ目がコムズガーデンです。

 ディアモール大阪とクリスタ長堀は,両方とも新しい地下街です。クリスタ長堀は駐車場整備,地下鉄建設と一体的に整備された地下街です。

 地下街の最近の様子を見ますと,大阪地下街が管理している5地下街全体の売上高は10年前に540億円ほどあったのが,現在は450億円程度で,2割減少しました。ここ2~3年は横ばいに見えますが,これは大阪のターミナル地区が活性化したことが原因で,決して地下街の魅力が回復したということを示しているものではないと認識しています。

 近年,地上施設が見違えるほど整備され,相対的に商業施設としての地下街の価値が低下の一途をたどっている。敵対ではなく,相互補完とか相乗効果を追求する関係でいけば,まだ地下街の存在価値は残っているのではないかな,と思います。

 最初のころ主力だった洋品雑貨,特に衣料品が減り続けており,一方で「その他サービス」というジャンルの売り上げが増加している。最近では携帯電話,リラクゼーション,保険などが増えてきている。

 B級グルメとか昔ながらの喫茶店など,地下街の定番イメージを形成している店舗は,消費増税のときにもあまり影響を受けなかった。これは,今後もしぶとく生き延びていける,という印象を抱いています。

アジアにノウハウ提供

 最後に,将来どうなるかですが,国内では恐らくこれ以上,地下街が新設されることは,そうたくさんはないと思います。既存の地下街が拡張されることも,さほどないように思っています。

 地方都市ですと,市街地の活性化が優先されるとか,空洞化対策が優先されるとか,あるいは大都市でも空中デッキなどの地上施設の充実がどんどん進むので,金のかかる地下街にはさほど力を入れなくても,というように思うところです。

 地下街そのものは「安全,安心,快適なトランジットモール」という機能に特化しながら,質的向上が図られると思われます。その中では当然,生き残り競争も出てくるでしょう。

 まだ完全に具体化していませんが,人口密度の非常に高いアジアの主要都市で地下街導入の気運は最近高まっているようです。これまで日本で培ったノウハウを提供できる機会も,これからあるのかなと思うところです。

(スライドとともに)