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2015年5月22日(金)第4,534回 例会

救急隊は誰でも知っている意識障害
―3・3・9度方式

太 田  富 雄 君(外科医)

会 員 太 田  富 雄  (外科医)

1931年兵庫県南淡路市生まれ。’56年京都大学医学部卒業,’61年京都大学大学院外科系終了。同年京都大学医学部外科学講座助手,’63年米国NIH留学。’67年京都大学医学部脳神経外科講師,’68年大阪市立大学医学部脳神経外科助教授,’73年京都大学医学部脳神経外科助教授,’75~2000年大阪医科大学脳神経外科教授。’00年富永脳神経外科病院院長。’07年~(公財)唐澤記念会・大阪脳神経外科病院名誉院長・脳ドックセンター長。当クラブ入会2014年1月。

 今日はちょっとややこしい,「意識障害」のお話をさせていただきます。3・3・9度(さんさんくど)方式という,意識障害の深さを簡便に示す方法であります。身内や親戚の方の具合が悪くなって救急隊を呼ぶ場合,これを使って伝えますと,救急隊は敏速に行動してくれると思います。

 まずは目を開けていて,外傷があったり脳卒中の場合であったりしても,とにかく生き死にには関係しないような状態,まあ落ち着いて行動できるというのは,(意識障害の程度を)1桁の数字で表現できます。次に,呼んだり,つねったりすると目を開けてくるような状態,これは2桁の数で表現します。そして,どうしても目を開けない,いわゆる意識を失った状態,意識喪失状態を3桁で示します。これが意識障害のスケール(物差し),「3・3・9度方式」(Japan Coma Scale)であります。

 これができるまで意識障害の程度は,眠りを中心とした言葉で呼ばれていました。例えば中程度では昏睡(こんすい),混迷といった,精神科の先生の言葉を使っていましたが,われわれメスを持って治療するような医者には,こういう言葉の使用が非常に苦痛でした。

脳の仕組みと神経画像技術

 意識障害がなぜ起こるのかという最も根本的なことは,頭蓋骨にあります。脳組織というのは非常に重要な組織で,外傷が加わらないように頭蓋骨を生理的なヘルメットとしてかぶっている。しかし頭の中で何かが起こりますと,大変なことになるんです。頭蓋骨には底にある大して大きくない「大孔(だいこう)」しか穴が開いてませんから,すべての力がそちらのほうへ行ってしまいます。これが意識障害を起こす大きな原因になっています。

 経過的にご説明しますと,脳の中の圧力が「テント切痕」という部分まで来ると意識が薄れてきます。どんどん進行して大孔まで力が加わってきますと,生命中枢である延髄が通っていますから,簡単に言いますと呼吸停止して死亡するわけです。もちろん最近は人工呼吸器ができていますので,そう簡単には死にませんが。

 1970年代後半になり,神経画像技術の革命的な変化が起こるんです。CT(コンピューター断層撮影装置),MRI(磁気共鳴画像装置)というのが出てきまして,目で見たら一発で診断がつくわけです。

 CT導入以前の神経学的検査法というのはもう非常に難しかったです。われわれ外科医は手先だけやなしに頭も使って手術しているんだということで誇りにも思っていましたが,いずれにしても難しかった。ですから頭の中の病気というのは,スタッフがたくさんいる大学でしか診断がつきませんでした。

 CT,MRIの導入で時代は本当に一転します。診断は容易になり,患者さんを大学に運ぶ必要がないわけです。手術はどこの病院でもできるようになりました。

覚えてほしい3・3・9度方式

 手術をしていて非常にはっきりしてきたことは,手術成績というのは術前の意識障害レベルで決まってくるということです。ですからわれわれは精神科の先生にもらった言葉ではなかなか意識レベルをフォローアップできない,しかし,結局意識状態の完全な把握をしないで執刀はできません。ということで非常に困るわけですが,CT,MRIで簡単に診断がつくようになりました。

 救急患者は脳神経外科医のところに来る前に,いろいろなところを通ってきます。救急患者になるのはほとんどは家庭の中であり,職場であり,路上でなる。そこで,電話連絡を救急隊のところにする。そのときの意識について,目を開けているから1桁の意識障害,刺激したら目を開けるから2桁の意識障害,どうしても目を開けないから3桁の意識障害と言ってもらえれば,救急隊はびっくりして飛んできてくれると思います。一般的にそこには医療関係者は誰もいない,ですからこういう知識を皆さんがお持ちいただくと,周囲の人が非常にラッキーだと思います。

 市民・救急隊・救命救急センター,と渡ってくるときに,同じ意識スケールで引き継ぐことが重要です。誰でも使える意識スケールが重要なことだということです。従来の専門用語は医者でも分かりません。全く新しい意識スケールを導入せんといかんということを,痛切に感じたわけです。

世界共通スケールの必要性

 日本脳卒中の外科研究会(現在は日本脳卒中の外科学会)が立ち上がったのが1972年です。その作業チームとして,東北大,東大,杏林大,京大の4校が担当して作ったのが3・3・9度方式で,’74年に世界最初のスケールの一つとしてできました。後にJapan Coma Scaleという名前になりました。同じ’74年に英国のグラスゴー大学でも同じようなスケールを出していますが,われわれのほうがずっといいものだと思っております。

 実は世界中でこうしたスケール的なものが20種類あるわけですが,これがなかなか統一されないというのも非常に奇異な感じがするんです。災害が発生して各国から救助隊が行きますが,一番最初の救助活動というのは,まずトリアージタグをつけるわけです。それが20種類のスケールがあったのでは,共通の判断ができるとは到底思わない。統一的な意識スケールが絶対必要だと思っています。

(スライドとともに)