大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2015年2月6日(金)第4,520回 例会

ネパールの現況と開発課題

尾 藤  好 文 氏

国際協力機構(JICA)
南アジア四課(ネパール)課長
尾 藤  好 文 

1973年生まれ。’96年一橋大学法学部卒業。同年海外経済協力基金(OECF)入社。’98年米国コーネル大学大学院(開発学修士)。2000年外務省国際協力局有償資金協力課出向。’03年国際協力ニューデリー事務所駐在員,’06年同南アジア部課長代理(インド)。’08年国際協力銀行・国際協力機構(JICA)の業務統合。’13年1月より現職。大学時代のバックパッカーをきっかけに卒業後は一貫して国際協力の世界に身を置き,南アジア地域でのODAの案件形成から実施に関与。

 国際協力機構(JICA)は政府開発援助(ODA)の実施機関で職員1,800人,海外拠点が90カ所,国内15カ所,JICA関西は神戸の中央区にございます。ネパール事務所も比較的大きな事務所で,働いている50人のうち日本人が12人,JICAボランティアが常時50人前後おります。随伴家族も含めますと関係者150人がネパールにいます。

こども, 農業, ヒマラヤ

 お見せしている写真は,私が3カ月前に出張した際にポカラの近郊で撮ってきた3枚で,ネパールの現況を表す象徴的な写真と思っています。左上の女の子,こちらは今後の教育や貧困を表す1枚です。右上の少年たちは竹籠を背負っていますが,大人の男性が国内には少ないということも農業国ネパールの象徴です。下のパノラマ写真はポカラから見えるアンナプルナ山脈です。一般的な日本人にとってネパールはヒマラヤなどの8,000m峰があるイメージかと思います。

 ここ2年ぐらいに配信された記事から,4つを抜き出しました。ひとつ目は2014年4月のエベレストの雪崩です。登山ガイド13人が死亡しましたが貧しいシェルパ族に保険金がほとんど下りず,ガイド協会がストライキを起こしました。2番目は昨年5月に就任したインドのモディ首相が8月に,ネパールを訪問したことです。17年ぶりの正式訪問で,友好国家として支援することを表明しました。3番目は今月ですが,ヒマラヤ高地の貧しい村では,いまだ日常的に少女が誘拐されているという記事が出ました。4番目は厚生労働省が発表した日本の外国人雇用の状況です。昨年10月末現在でネパール人雇用の前年比の伸び率は70%と,最も伸びた国となりました。計2万4,000人で,外国人労働者全体の3%ちょっとをネパールが占めています。

 ネパールの政治では,新憲法の制定が最大の課題です。ネパールを語るとき,決められない政治というのがあります。何事もコンセンサス政治,全政党全員が納得した上で一歩を踏み出そうという状況が続いています。経済はこの10年ほど国内総生産(GDP)の成長率は4%と,低位安定してきています。GDPに占める農業の割合が3割,製造業がわずか7%と,成長を牽引する産業が育たないことが課題です。

国を支える出稼ぎ労働者の送金

 それでも成長が継続できている背景に,海外の出稼ぎ労働者からの送金があります。ネパールは南アジア最大の出稼ぎ労働者を出している国で,国家経済の3割が出稼ぎ労働者からの送金でまかなわれています。2012年度では約30万人が海外に出て,年間5,000億円規模の送金をしました。送金で貧困状況は改善傾向にありますが,一方で都市と農村の地域の格差が拡大しています。

 開発課題では経済成長や民間投資活動全体の停滞があります。国際競争力,中でも電力は世界148カ国中の144位です。最大では1日16時間の停電,特に乾季には首都カトマンズでも計画停電をしています。2番目の開発課題としては,ガバナンスが脆弱で行政能力が地方の末端までは行き届いていないということ。それと表裏一体の関係ですが,農村部の貧困,格差,多民族による問題,ヒンズー教に由来するカーストの問題,ジェンダー問題が挙げられます。50年間続いたマオイスト闘争はこういったカースト,差別,格差に対する農村の住民の怒りが原動力になったと言われています。

 個別の開発課題では,都市の環境問題,農村の低い生産性,中国,インドとの競争力が高くないということ。教育では小学校を卒業できずに留年したり,中途で退学したりという学生が多いこと,教師の質やマネジメントも課題となっています。道路の整備の遅れもあります。

コミュニティー調停を支える

 日本のODAでは,商業性の高い柑橘類,ジュナールというフルーツの栽培があります。インドや中国から買い付けに来て,農村の現金収入の向上につながっています。もう1例挙げると「地方コミュニティーの調停能力の強化」というプロジェクトがあります。村レベルの争議を話し合いによって解決しようということで,調停人3名が1件につきボランティアで奉仕します。地方自治体法に基づく行政サービスの一環です。サービスを認知してもらうため,野外劇やラジオ番組をつくったり,住民集会や基礎研修,調停センターの開設をしたりしています。調停人550名のトレーニングにも取り組み,491件の事案のうち405件の和解を生むことができました。

 ネパール開発課題へのアプローチをまとめますと,決められない政治に対しては,民主化,国づくりへの地道な支援を続けるということ。また成長戦略を描けないジレンマには,ネパールの最大のポテンシャルのある産業である水力発電への取り組み,またインドとの国境の物流を強化するようなインフラ整備に価値があると考えています。公的機関の役割としては,官と官の協力の支援には限界があるので,市民の協力との連携を図っていければと考えております。

 今回の卓話の機会にあたり,ネパールの日本人コミュニティーや関係者に支援・協力のニーズを聞いたところ,具体的な案件が上がってきましたので,この後のクラブフォーラムで意見を述べさせて頂きます。

(スライドとともに)