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2014年12月5日(金)第4,512回 例会

宝塚歌劇の魅力と101周年後の展望

薮 下  哲 司 氏

映画,演劇,宝塚歌劇評論家 薮 下  哲 司 

1971年関西大学文学部仏文科卒業,同年スポーツニッポン新聞大阪本社入社。’77年文化部に配属。放送,音楽,映画,演劇と一貫して芸能分野を担当。副部長を経て編集委員。宝塚歌劇は’80年から昨年末退社まで34年間担当。現在は甲南女子大学非常勤講師,毎日新聞コラム「花の道伝説」連載などフリーの立場で活動。著書に「宝塚伝説」「宝塚歌劇支局」(各青弓社刊)など。

 宝塚歌劇は今年4月5日で100年を迎え,大々的な100周年行事が宝塚大劇場で行われました。100年続くということは世界でも類がなく,しかも稀有な未婚の女性だけの劇団です。宝塚歌劇は1914年(大正3年),17人の少女の上演によって始まっています。それが現在は「花・月・雪・星・宙」の5組,大体各組80人で400人,それに専科,宝塚音楽学校生の約80人を含めて約500人という,大劇団に成長しました。

 (DVD「宝塚歌劇ファーストステップ」音声より抜粋)宝塚歌劇は日本に初めてレビューを紹介し,多数のオリジナル作品や海外ミュージカルを上演,年齢や性別の枠を超え数多くの人々を魅了し続けてきました。中でも女性が演じる男役は最大の魅力といえます。ホームステージの宝塚大劇場,東京宝塚劇場のほかにも,首都圏や大阪など主要都市での特別公演,全国ツアーなどを含め,年間の公演回数はおよそ1,500回,260万人もの観客動員を誇ります。

小林一三が「宝塚唱歌隊」を創設

 宝塚歌劇ではこれまで2,500以上もの演目を世に送り出してきました。『ベルサイユのばら』は池田理代子原作の劇画を舞台化,観客動員数は通算500万人を超え,宝塚歌劇の財産となっています。1974年の初演時にはベルばらブームを巻き起こし,社会現象にもなりました。

 阪急グループの創始者である小林一三(いちぞう)は,1913年,16名の少女による「宝塚唱歌隊」を結成,翌1914年に第1回公演『どんぶらこ』を上演しました。1927年には日本最初のレビュー『モン・パリ』を上演,常に時代の先端をいく活動を行ってきました。

 華やかな舞台に立つタカラジェンヌになるには,宝塚音楽学校に入学しなければなりません。そこでは舞台人として必要な技能はもちろん,小林一三の教えである「清く正しく美しく」の精神で,一人の女性としての教養を身に付けます。歌劇団退団後もテレビや映画,舞台など,各分野で活躍するスターを輩出しています。(DVD終わり)

 映像にもありましたように宝塚は創始者,小林一三さん抜きにしては語れないと思います。明治6年(1873年),(現在の)山梨県韮崎市に生まれた小林一三さんは,15歳で東京の慶応義塾に入塾されます。慶応の周りにあった劇場に通い詰め演劇青年として育ち,19歳で慶応義塾を卒業しますが,小説家を志望されていました。三井銀行に入社し出納係として金の流れを勉強するのですが,入社してすぐに大阪で4年ほど仕事をされます。そのときに関西の財界との人脈ができたことも,この後につながっていきます。

 結局,箕面有馬電気鉄道という,これが阪急電鉄の前身ですが,この発足を手伝ってくれということになり,社長不在のまま専務の肩書きで入ります。

温泉地・宝塚のアトラクションとして

 箕面有馬電気鉄道は社名にもあるように,大阪から有馬までの鉄道を敷く予定でした。ところが有馬温泉の旅館組合が日帰り圏内になることを恐れまして,電車が入ることに反対運動を起こします。それで宝塚で電車が止まってしまうことになってしまいました。宝塚は当時,有馬に比べたら小さい温泉地です。そういう沿線では採算に合わないということで,南欧風の非常に瀟洒な宝塚新温泉パラダイスという,常識を打ち破るような温泉を作られました。そこで催し物が日常的に行われていて,その一つとして宝塚歌劇が少女だけの歌劇団として登場してくるんです。

 なぜ少女だけかというと,当時大阪の北浜にありました三越百貨店に少年の合唱団があり,15人ぐらいが百貨店の前で歌うのが非常に人気を博し,それならうちは少女でいこうということになったということです。最初は歌だけを歌わそうというぐらいの軽い気持ちだったようですが,歌を教える先生が非常に立派な先生で,少女たちのレベルも非常に上がってきたんです。東京の帝国劇場がオープンして,新しい芸能として注目を浴びていたオペラをやらせてみようじゃないかと題材を探し,桃太郎伝説をオペレッタ化した『どんぶらこ』というのをやらせてみようということで,半年間の特訓の後上演されたんです。

 温泉のアトラクションということで大したものじゃないだろうと思って見にいったところ,少女が演じるオペラが非常にレベルが高く,その健気さに見た人たちが感動して話題になり,その後連日超満員の人気になったということです。小林一三さんの夢を少女たちに託し,それを少女たちが身をもって受けて,その必死さが観客に非常に感動を与えて人気になり輪が広がっていったのです。

ファン定着へ男性の力を

 その後団員を増やし大掛かりにして,特に男役の魅力を最大限に活かすレビューが誕生してからは,女性層に強烈にアピールしました。作ったのは男性ですが,女性が守り育ててきた文化ではないかと思います。宝塚の101年からの課題ということになりますと,この100周年で向いている一般ファンをいかに定着させられるかということに尽きると思います。これからの発展にはやはり男性の力が必要だと思いますので,皆さんのお力もぜひお借りして,もう今や一企業のものとは言えません,日本の財産,世界の財産となりつつある宝塚歌劇の応援のほどをよろしくお願いします。どうもありがとうございました。

(DVDとともに)