1975年早稲田大学理工学部卒業,’77年翻訳会社アーバン・トラストレーションを設立。2000年4月ビジネスカフェジャパン設立。同社代表取締役に。’01年5月(株)リナックスカフェを設立。’11年4月立教大学ビジネスデザイン研究科ビジネスデザイン専攻博士課程特任教授に就任。
2005年に前後して日本の総人口が減り始めました。すごい勢いで減っています。向こう30年ぐらいで1 億人を切るだろうと。人口調査庁の調査によると,6000万人ぐらいまで日本の人口は減る。今の半分以下まで日本の人口は減っていく。これは女性が将来に対して経済的な不安によって人口が減っているわけでもないし,経済政策の失調とか失態によって人口が減っているわけでもない。「人口動態学」からすると全然違う理由です。
文明が進展して民主主義が発展して産業が発展する。女性の地位が向上すると,もとあった家族形態がだんだん壊れてくる。伝統的な家族形態が壊れていくことによって,女性の結婚年齢が上がる。女性の結婚年齢と初産年齢のデータをとってみますと,見事に上がっています。今初産の年齢は35歳を超えていると思います。それから何人も子どもを産むなんて,できっこない。失敗のために何か起こったのではなくて,世の中が進展した結果です。実はこれは問題の解決なのではないかということです。増えすぎた人口を調整する何らかの人類学的な知恵がそこに働いているのではないか,と考えてみてもいい。
今,非常に文明史的な転換期に立っている。これまで私たちの社会システムというのは,すべて人口増大期,あるいは経済成長期の中でつくられてきた,制度設計されたわけです。もし人口減少が天の声だとすれば,「違う方向に行け」というふうにベクトルは指している。その新しい制度といったものを,少しずつ考えていかないといけない。だけどこれがなかなか難しい。前例踏襲型のものの考え方で片がつく,処方箋を書けるような問題ではない。今まさにわれわれはそのところに立っていることを,思い描いていただきたい。
私が一つ注目しているのは,「家族システム」です。縦軸に親子関係,横軸に兄弟関係というマトリクスをつくると,家族形態は四つに分類できます。親子関係がすごく厳格な権威主義的な親子関係,それから自由な親子関係という縦軸。横軸に兄弟関係で,兄弟が皆平等か,あるいは相続とかそういうところで不平等かという軸。日本は親子関係が非常に厳格で,兄弟関係は長子相続ですから不平等で「権威主義的直系家族」という部類です。イギリスとかアメリカあたりを中心とした「絶対核家族」は親子関係が非常に自由で兄弟関係は序列があるという分類です。「共同体家族」という形態は親子関係が非常に権威主義的で,兄弟関係が自由です。「平等家族」は親子も自由だし兄弟も平等で,非常に珍しくて世界で分布しているのはパリ盆地周辺だけです。
日本のような「長子相続型の権威主義家族」では,会社は家族で,日本の家制度,家そのものです。そもそも賃金という概念がない。丁稚から始まって,手代になって,番頭になって,大番頭になって,それから別家するというこのシステムは,日本の家族が分家していくのと同じです。丁稚には給料はない,ただし食べる食料と住む家だけは保障する。その中で技術を磨いて番頭になっていくわけです。終身雇用と年功序列は日本の家制度が内在的に持っていたシステムです。本当は強い。この伝統的な形態は,実は非常に大きな社会形態と類似性を持っていて,集団のつくり方としては,規範になるのは家族形態しかない。ヨーロッパには同じ家族形態を持っているエリアが幾つかあり,一番日本に近いのがドイツで,ほとんど全域が権威主義的な家族です。ライン川周辺の会社を訪ねてみると,感覚が日本の中小企業とほとんど一緒で,今でも家業というのが大変多い。
ヨーロッパ全体は,非常に早く英米型の「絶対核家族」というのが支配的になりました。それに合わせろ。これがグローバル標準です。そのときの考え方の基本は契約です。二世代同居はもうあり得ない。結婚したら別に家をつくる。これが絶対核家族という形態です。この形態に,英米型の会社は非常に似ている。これが事実上支配的と言うか非常に強く,つまり戦後のパクスブリタニカとかパクスアメリカーナの影響を受けて支配的になり,全世界はこれをグローバル標準とせよと,給与システムとか細かいところにそういうふうな圧力が加わったわけです。
日本とかドイツは非常に器用ですから,それをうまく取り入れて,自分たちが伝統的に持っていた家族形態といったものを壊していくわけです。日本はかなりドラスティックに壊しました。自分たちみずから進んで家族形態も壊したがために,こういう非常にはっきりとした人口減少という状態が起こっていくわけです。どのぐらいの時代かというと,戦前の話です。人口が減ったら移民を入れればいいと安倍政権も言っていると思います。しかし,長子相続型の直系家族の伝統を持つ人たちは,それ以外の家族形態の人とうまくやっていけないという傾向がある。
日本と同じ家族形態を持った国がどういうふうにやっているのかというのを少し学んでいったらいい。特にドイツです。比較的EUでの勝ち組になっています。あそこの様々な政策,戦後処理の仕方といったものに対して,非常に規範的で,われわれにとってなじみやすいものがある。危惧するのは,形態は株式会社であってもイギリス型の株式会社ではない家業がこの10年間どんどん減っていることです。ところがドイツは家業が増え続けている。イギリスもフランスも増えている。家業が減っているのは,先進国の中では日本とアメリカです。日本の強さを支えてきたこういったものを安易に,効率が悪いからとか,あるいは垂直統合していって滅ぼしていってしまうというのは得策ではないと考えます。