1947年生まれ。京都大農学部卒業。スミソニアン研究所博士研究員などを経て現職。生物・植物のいのちと人間の関係についてソフトな語り口で平易に解説し,ラジオやテレビで引っ張りだこ。
きょうは「植物はすごい!!」というテーマで,機能性のある植物の話をします。植物の命は小さいものですが,私たちと同じ生き物で,同じ悩みを持ち,悩みを克服するために頑張っています。植物の祖先は約40億年前に海の中で生まれました。上を見ると太陽がさんさんと輝いています。植物は太陽の光を受けて栄養をつくり成長していくので,上陸できたらどんどん成長して繁殖していけると太陽に憧れました。そして約4億年前にいよいよ上陸すると憧れの太陽は「紫外線」というものを持ち,優しくなかったのです。
私たちは紫外線の害を知っています。シミ,シワ,ひどい場合は皮膚がんになると言われます。有害なのは「活性酸素」を発生させるからです。病気の90%は活性酸素が原因とか,生活習慣病,がん,老化はこれが引き金だとか言われます。植物は日焼けしないし,シミもシワもつくりませんが,紫外線は植物にも活性酸素を発生させます。
植物は,活性酸素を消去する物質を持たなければなりません。それが「抗酸化物質」で,代表的なのは老化を抑制し白内障のリスクを減らす「ビタミンC」です。もう一つが「ビタミンE」です。若返りのビタミンで,ナッツ類,ウナギ,ゴマなどに含まれます。植物がビタミンCやEを持っているのは,自分たちの体を守るためです。人間は活性酸素を取り除くため,植物のつくった物質を利用させていただいているのです。
植物は,ポリフェノールの一種「アントシアニン」という色素類を持っています。赤い花も青い花の色もアントシアニンです。もう一つカロテノイド系の色素,代表が「カロテン」で黄色の花の色素です。「花はなぜきれいな色をしているのか」という質問に対する答えの一つは,虫を引き寄せて花粉を運んでもらうため。もう一つ大切な役割として,植物は花の中で自分たちの子どもが生まれてきますが,花びらの中にたくさんの抗酸化物質をつくるアントシアニン,カロテノイドを持ち,子どもを紫外線から守ります。
花の色は,強い太陽の光に当たるとますます濃いきれいな色になります。紫外線から守るためたくさんの抗酸化物質をつくり出すので,逆境の中にあってこそ花はますます美しくなる。きれいな色で動物にアピールして,種ごと食べてもらったら動物はどこかへ行ってフンと一緒に種をまいてくれます。また,果物の中で確実に種が完熟するまで紫外線の害から守り続けるため,ナスやトマトの実も強い太陽の光が当たるとますます濃いきれいな色になります。
植物が私たちに提供する「6大栄養素」は炭水化物,タンパク質,脂質,ビタミン,ミネラル,食物繊維です。近年は「機能性成分」という言葉もあり「第7 の栄養素」と呼ばれます。私たちの健康を守るものです。
フランス料理は,脂ののった肉に脂だらけのソースをかけて食べます。そんなに脂肪をとったら動脈硬化になって心臓病で亡くなる率が高くなりそうですが,フランスはドイツや英国,米国に比べ心臓病による死亡率が非常に低い。この「フレンチパラドックス」は解かれました。1991年11月,米CBSテレビのニュースショーで「赤ワインを飲んでいれば心臓病を予防できる」と発表されました。フランス人はワインを多く飲む国民で,赤ワインの中に含まれるポリフェノール類,アントシアニン,カテキン,タンニンなどの「機能性成分」の働きによるというのです。
「ジャパニーズパラドックス」もあります。日本人男性の喫煙率は高く食事も欧米化しているのに,なぜ長生きかという不思議です。日本は生活環境が安心,清潔で,医療技術が進歩し,それを多くの人が受けられる保険制度を持っている。国内産農産物の品質は非常に高い。さらに近年は世界から,日本人は連帯の意識が高く,他人を思いやる心がある。困っていたらお互い助け合う心を持っていて,他人の親切を信頼して受けられる心を持っている。それらが日本人の強さなのだと言われています。ただやっぱり一番根底で支えているのは食べ物,つまり「和食パワー」です。
世界的に知られているのはダイズです。近年はダイズの「イソフラボン」という機能性成分が注目されています。イソフラボンは,骨粗しょう症を予防し,更年期障害を軽減する作用も持っているし,コレステロールの値を下げるという非常にいいものです。ただ,サプリメントで過剰にとってはいけないと言われています。99年には米食品医薬品局がエダマメは心臓病のリスクを低下すると発表しました。エダマメはダイズの未熟な種子ですから同じ成分です。
緑茶には認知症予防効果があると発表されました。「カテキン」とか「ミリセチン」という機能性成分が入っており,健康には大切なものとされていました。「セサミン」をたっぷり含むゴマもあります。ゴマは肝臓の活性酸素を除去する効果が言われています。もう一つが「β?クリプトキサンチン」という機能性成分が豊富な温州ミカンです。ミカンは肝臓を守ると言われ,動脈硬化を防ぐ効果もあります。
話は尽きませんが,時間が来ましたのでここで終わらせていただきます。いろいろな機能性成分をとって健康になるということは,その前に「バランスの良い食事」というのがあってこそだと思います。皆さんが健康でご活躍されることを願って,きょうのお話を終わらせていただきます。どうもありがとうございます。
(スライドとともに)