大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2014年8月1日(金)第4,496回 例会

未知への挑戦
~新たなる和紙の可能性を求めて~

堀 木  エリ子 氏

和紙作家 堀 木  エリ子 

1967年京都生まれ。「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに,2m70㎝×2m10㎝を基本サイズとしたオリジナル和紙を制作。和紙インテリアアートの企画・制作から施行までを手掛ける。近年の作品は「東京ミッドタウンガレリア」,「成田国際空港第一ターミナル到着ロビー」のアートワークの他カーネギーホールでの「YO-YO MAチェロコンサート」の舞台美術等。

 長靴を履いて紙漉きをするところから,地下足袋,安全靴にヘルメット,安全帯を腰に巻いて細い足場の上で作品を取りつけるというところまで,一貫した仕事をしています。

ディスコから天職

 和紙の歴史は1500年です。書道とか絵画用の「書く」ということに対する文化であり,お金とか物を「包む」という,美しい紙で丁寧に包んでから人に渡すというような,おもてなしの心の根底にもなっています。紙は「かみ」と言い,神様も「かみ」です。職人さんたちの精神性に「白い紙は神に通じる」という考え方があります。

 私は和紙を勉強して作家になりたくて,デザイナーになりたくてこの世界に入ったのではないんです。広く大人としての一般常識を教えてくれるような企業にと考えて就職した住友銀行では,朝銀行に入るのは誰よりも遅く,銀行から出ていくのは誰よりも早いという不届き者でした。そういう中,ディスコで名物の80歳ぐらいの紳士と知り合いになり,新しい会社にお誘いを受けました。そこが手漉き和紙の商品開発の会社でした。

 デザイナーたちが福井県の武生に紙漉きに行くというので,ついていきました。2月ごろで,大雪でした。冷蔵庫のような冷気の中で職人さんたちが,冷たい水にひじまで手をつけて,紫色になってパンパンに腫らしながら,黙々と仕事をされていました。その営み自体が何と尊いことかと思ったんです。感動しました,というのではちょっと足らなくて,すばらしい世界があると衝撃を受けました。

 会社は2年間で閉鎖に追い込まれました。いくらすばらしい商品をつくり上げても,半年後,1年後には,機械でできた和紙や洋紙,そのほかの素材で同じようなデザインのものが並んで,結局は価格競争に負けました。そのときに初めて問題意識を持ったんです。職人さんたちの営みが,現代では高い安いと計られてなくなっていくと。誰もやってくれないのなら,私がするしかないと思いまして,24歳でしたが和紙をやろうと決心しました。

 天職は見つけたり,見つかったりするものではなく,生涯かけてこの仕事をしようという覚悟とか決心とかがそのまま天職につながっていくと思うのです。幸い私は和紙の仕事を未来へつなごうということを生涯かけてやると決心しましたので,それが天職となっています。

建築インテリアに活路

 アートとかデザインとかに非常に興味を持っている呉服問屋の社長を紹介してもらい,呉服問屋の一事業部として,会社を興こしました。

 最初に,手漉きと機械漉きの差をきちっと世の中に示していかないと新しくつくる会社も同じ運命をたどると考えました。二つ特徴が見つかりました。手漉きは使えば使うほど質感が増すこと,使っても強度が衰えないということです。長く使う,そして劣化しにくいことが効果につながる業界はどこかと考えたときに「建築インテリア」と思いつきました。それであれば大きな和紙がいい。昔,有名な日本画家が欲しいと言ってつくったタタミ三畳分の1枚漉きの道具があって,漉く技術も残っていることがわかりました。

 皆に知ってもらわなきゃ買ってもらえない。そんな大きな和紙があることを知ってもらわなきゃと,東京で展覧会をして大成功でした。呉服問屋の社長に報告に行ったらカンカンに怒っていらっしゃる。何と1年間で3,000万円の赤字が出た。「社長ね,石の上にも3年って,昔の人は言うじゃないですか」などと言ってしまいました。

 「原点に戻ろう」と思い,縄文時代,弥生時代に人はどんなものづくりをしていたのかというところまで戻りました。宇宙人みたいな土偶の発想力,創造力,ああいうものをつくる人間の力ってすごいなと時代を超えて私たち感動するわけです。「人間は皆クリエーターじゃないか,大学や専門学校で専門的な勉強をしていなくてもものづくりはできるんだ」と,妙な自信が湧いてきたのです。

 土器は機能とか用途が土ひねりに与えられて,人の役に立つものになりました。子どもがいるから破られるかもしれない,消防法があって燃えるものは高層ビルには入れてはいけないと言われたら,どんな美しい和紙をつくっても人の役に立たない。建築空間に向けて美しい和紙をつくるだけではなくて,燃えない,汚れない,破れないというような機能をつけていかないといけないと気がつきました。

 赤字を返すのには8年ぐらい掛かりましたが,13年間お世話になり,2000年の4月に独立しました。

できない選択肢を捨てる

 (映像)武生にある工房です。これはストローで無数に入った気泡を吸い上げています。人間の五感というのはすばらしくて,口の感覚で吸い上げるのが,一番紙を傷つけずに気泡が吸い取れます。イチョウの一枚板に生乾きの和紙を張り込んで,乾燥させます。かつて直径2m10㎝以上のイチョウがあったということです。この道具を傷つけてしまうともう代わりがない。伝統産業にとっても非常に大きな問題です。

 私はできることも全く知らなかったけど,できないことも全く知らなかった。職人さんたちはできないという理由を明確におっしゃいます。私はこうすればできるのではないかとやってみる。できない選択を捨てます。できる前提でしか物事を進めない。やってみたらできたということの繰り返しで新しい技術が開発されてきました。

(映像使用)