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2014年7月11日(金)第4,493回 例会

最近の国際情勢と日本の進むべき道

田 邊  隆 一 君(電子機器製造)

会 員 田 邊  隆 一  (電子機器製造)

1948年生まれ。’70年東京外国語大学ドイツ語学科中退。同年外務省入省。セルビア・モンテネグロ大使,アフガニスタン支援担当大使,ポーランド大使,関西大使などを歴任し,2011年5月退官。同年6月日本電産(株)監査役。当クラブ入会2010年1月。’12年理事・国際奉仕委員長。

 私は1973年に外交官としての勤務をベルリンで始めたのですが,当時はこの写真のように,ベルリンの壁を向こう側の東ベルリンから逃げてくる人が射殺されるというような状況でした。やはり原点として,基本的人権とか人間の自由をしっかりと守るべきであるということを強く心に念じたわけです。

 最近の世界情勢ですが,アメリカの『GlobalTrends2030』という予測が「メガトレンド」という世界の4つの大きな構造変化を挙げています。それは①個人の力の増大②権力の拡散③人口構成の変化④食料,水,エネルギー問題の連鎖――というものです。この4つの構造の変化に,さらに世界の流れを変える6つの要素が関わってくる。それは①危機を起こしやすい世界経済②変化に対応できない国家の統治力③国家間同士,あるいは国家の中での衝突④不安定な地域の拡大⑤新しい技術,最新技術が与える影響⑥アメリカの役割がどうなるか――。

米国の影響力の低下

 4つの大きな構造変化にこの6つの要素がそれぞれ関わって世界がつくられていくというのですから,一言で言えばとにかく今後の世界は非常に複雑であるということです。したがって,これまでは米国を軸にして動いていた世界が,そうでない世界に移っていく。場合によっては力の真空が生まれてくるかもしれないということになると思います。

 また今年の1月に,ユーラシア・グループというコンサルティング会社から『TopRisks2014』というのが発表されました。その要点を見ますと,①比較的安定的な世界経済②不確実な新興国経済③グローバルなリーダーシップが欠如した国際政治④米国の役割と中国の国内課題への対応という2つの主要問題⑤中東の不安定な継続――とあります。

 それぞれの国に対する分析を見ていきますと,まずは米国の外交面の影響力が非常に低下していることがある。私もシリアが化学兵器を使ったときに,アメリカは限定的であっても空爆等の軍事力を行使するだろうと思っていたのですが,オバマ大統領の突然の方針変更に大変驚きました。その結果,アメリカの同盟国にもアメリカに対する信頼感の減少とか,戸惑いが生じたと思います。

 次に中国。ユーラシア・グループが挙げている中で注意すべきなのは,新指導部が国民の不満をそらすための反日感情を活用していることです。「対外的な敵対感情を従来よりも積極的に活用する用意がある」という表現に私は驚いたのですが,「九段線」をめぐる活動の活発化などに見られるように,今日の世界の中で最も重要な緊張要因です。

プロパガンダには反論を

 ロシアについて『TopRisks2014』は,経済停滞で人気が低下したプーチンが,自己の立場を強化するために意表をつくような決定をする可能性がある。特にウクライナに対して自己主張の強い外交をするのではないかという分析をしていました。そこにクリミアの併合ということが起こったわけですが,ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に入っていなかったことから,こういうような事態を招いているわけで,あらためて集団的安全保障体制の重要さというのを感じます。

 シリアを含む中東の安定化は望めない。イランとの核の交渉はまだ続く。イラクでは,国内分裂のような状況になってしまっているうえに,ISIS(イラクとシャームのイスラム国家)というイスラム過激派の台頭も新しい不安定要素です。

 私の考えをまとめますと,まずは「アメリカはもはや世界の警察官ではない」というオバマ大統領の言葉は重要です。5月にあった大統領のスピーチを分析してみますと,軍事力を行使することについて非常に慎重です。

 ちょっと話は変わりますが,世界における日本のイメージというのは,英国のBBCワールドサービスの調査によると,だいたい1位から4位あたりを占めています。ところが最近,中国や韓国がいろいろなプロパガンダを世界にしかけている。これには日本は官民一体となってきちんと反論していく体制が必要です。私は海外広報課長というのを日米経済摩擦の一番厳しい1986年ごろにやりまして,「日本は異質な国である」という見方に何年もかけてキャンペーンをやった。今回の中韓のプロパガンダに対しても,日本は長期戦の覚悟で対応する必要があると思います。

長期的な国家戦略

 ここまで見てきましたように,世界のパワーバランスが大きく変化する中で,今後10年は非常に厳しい時期になる。日本は防衛能力の向上や,日米同盟のみならず「デモクラティック・アライアンス」(民主主義同盟)ともいうべきオーストラリア,インド,ASEAN,NATO,英国を含むEUなどとネットワークをしっかりつくっていく。積極的な平和主義による貢献を引き続きしっかりやっていくと同時に,日本が何を考えているかもしっかり発信していくことが必要です。

 ここで1956年に日本が国連に加盟した際の重光外務大臣のスピーチを引きましょう。「わが国の今日の政治・経済・文化の実質は,過去1世紀にわたる欧米とアジア両文明の融合の産物であって,日本はある意味において東西の懸け橋となり得るのであります。このような地位にある日本は,その大きな責任を十分自覚しております」というものです。

 われわれは,世界の現実を直視して日本の独立と繁栄を確保する,そういう長期的な国家戦略をしっかりと持って,この激動の世界の中で生きていく必要があるのではないかと感じております。

(スライドとともに)