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2014年2月14日(金)第4,474回 例会

シニア層の時間の使い方

辻 田  昌 弘 氏

三井不動産(株)
S&E総合研究所 所長
辻 田  昌 弘 

1958年生まれ。’80年3月一橋大学法学部卒業,同4月三井不動産(株)入社。2000年4月企画調査部調査課長。’05年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科卒業。’03年(社)日本経済団体連合会21世紀政策研究所出向,’07年S&E総合研究所長。

 高齢化が進む今日の日本において,豊富な資産をお持ちで,なおかつ非常に自由になる時間を有しているシニア層は,新たな消費の担い手ということで大いに期待をされております。

 シニアの自由時間と言いますと,例えば大卒のサラリーマンが60歳まで働くとして,1日通勤時間を含めて大体10時間働くとすると,総労働時間は「10万時間」になります。一方,60歳でリタイアをして,男性の場合は平均余命が22年ありますので,1日12時間が自由時間だとすると,老後の自由時間が「10万時間」になります。つまり,働いている時間と老後の自由時間というのはほぼイコールで,いかに老後の自由時間というのが大きいかという話なのです。確かにリタイヤされた方は働いていないのだから,自由時間はたくさんあるでしょう。しかし,その時間を具体的に何に使っているのかということについては,我々は必ずしもよく分かっていません。

テレビが占めるシニアの自由時間

 では,この膨大な自由時間をシニアの方は実際どのように使っているのでしょうか。総務省の「平成23年社会生活基本調査」で見てみましょう。まずシニア層の入り口世代とでも言うべき「55~64歳」。働いている方は男性約7時間,女性は5時間ぐらい仕事をされています。働いてない方はその分の時間が浮くわけです。この時間をどう使っているのでしょうか。内訳を見ると教養・趣味・娯楽・交際・スポーツ・読書など,まんべんなく全項目で増えているのですが,最も大きく増えているのが「テレビ」を視聴する時間です。特に男性の場合,無業者は有業者よりも108分と2時間弱多くなっておりまして,1日に4時間11分テレビを見ているという結果が出ています。

 さらに,もう少し上の世代を見てみると,テレビの視聴を含めた自由時間は,男性の場合は実はあまり変わらない。ところが女性の場合は,家事に充てる時間が減っていく分だけ自由時間が増えていくという傾向が分かります。ちなみに女性の自由時間は55~64歳で5時間半ですが,75歳以上になると6時間20分で,1時間ぐらい増えていきます。また,テレビの視聴時間だけを取り出してみると,男女とも年齢が上がるにつれて増加していきます。特に75歳以上になると急激に伸びていきます。つまり,仕事からリタイアされた無業者のシニア世代は,自由時間のうちテレビを見ている時間が占める割合が非常に大きいということです。今のテレビというのは,もしかするとシニアによって支えられていると言ってもいいのかもしれない,というのが現状です。

ビジネスにどうつなげるか

 シニア層をビジネスにつなげようと考えている企業からすると,テレビは強力なライバルです。では,テレビにかなりの時間を取られている中で,どうやってシニア層の自由時間をビジネスにつなげていけるのでしょうか。ポイントは3つです。

 1つはインターネット普及などでテレビの力が落ちていると言われていますが,やはり現状ではシニアに対しては非常に有効なメディアであるということが言えます。テレビをもっと積極的に活用するということがあってもいいのではないでしょうか。コマーシャルの打ち方,あるいは番組とのタイアップも,シニア層に向けて企画をしていくなど,テレビをシニアにアプローチする有力なメディアだという視点からとらえ直す。これがまず挙げられると思います。

 2番目としてはテレビの前からいかにシニア層を引き離すかです。1日の3分の1とか4分の1の時間を見ているシニアの方を,まずはテレビの前から引き離さないとなかなか自分たちのビジネスにつながっていかないでしょう。そのためには,テレビよりももっと面白いコンテンツを考えないといけないということです。

 3点目は,今日は統計データをもとに「自由時間」を切り出してお話しましたが,実際生活をしていると厳密に切り出せるものではありません。いわゆる純然たる自由時間ではないものと工夫して組み合わせていく。例えば「家事」を省力化する観点から,家事を外注するようなビジネスをやることで自由時間を増やせる可能性があります。睡眠時間以外の時間というのは,考えてみれば組み合わせ方や商売の工夫の仕方によってはすべて自由時間になり,お金を使っていただけるチャンスがあるのではないかと思っております。

もっと緻密なアプローチを

 シニア世代を中心とするマーケットというのは,成熟化するわが国において今後の成長が見込まれる数少ないマーケットの一つであると言われています。ただ,現状,このシニアマーケットに対して,シニアをうまく取り込んでいる企業やビジネスモデルというのは意外に少ないのです。実はかなり皆さん苦労しておられるのです。

 きょうお話しした内容も,非常にざっくりとしたマクロの統計データを使って簡単に分析しただけなのですが,それでも意外な発見があったということです。ですから,もっと緻密にこのシニア層にアプローチしていかなければならないのだろうと考えています。いずれにせよ,少子高齢化,人口減少が進む日本で新しい市場をどこに求めるか。一つは海外に行くというのがあるでしょう。たとえば,人口が増え,経済成長も著しいアジアに展開するとか。もしそうでないならば,この低成長の国,高齢化の進む国で,このシニアのお客様をきっちりと把握してビジネスを展開していくということを考えないとなかなか難しいだろうと思っており,もっと深く掘り下げ て勉強していきたいと思っております。

(スライドとともに)