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2014年1月31日(金)第4,472回 例会

美術館が街づくり
~文化が人をつくり,街を変える~

蓑     豊 氏

兵庫県立美術館
館長
蓑     豊 

金沢市生まれ。慶應義塾大学卒業後,ハーバード大学大学院美術史学部博士課程修了,文学博士号取得。カナダ・モントリオール,米国・インディアナポリス,シカゴの各美術館にて東洋部長を歴任。大阪市立美術館長,金沢21世紀美術館初代館長,サザビーズ北米本社副会長などを経て,2010年4月より兵庫県立美術館長。主な著作に「超・美術館革命-金沢21世紀美術館の挑戦」「超〈集客力〉革命-人気美術館が知っているお客の呼び方」(角川書店),ほか多数。

文化が育てば, 経済が良くなる

 『エコノミスト』の最新版に,「世界で現代美術が大変なブームを起こしている」と大きく特集されていました。その記事で,アメリカで一番多くの人が行くのは美術館・博物館と知り,びっくりしています。イギリスでも,人口の半分は美術館・博物館に毎年行っています。スウェーデンは,4 分の3というデータが出ています。ルーブルだけでも年間1,000万人近く来ています。

 日本の若い子どもたちも美術館に行き,良いコンサートを聞くことで,感性を磨けば,日本も元気になると思っています。文化が育つことによって経済がよくなると思います。

 3 月23日まで,兵庫県立美術館では「ポンピドゥー・センター・コレクション」を開催していますが,ポンピドゥー・センターが生まれたのが1977年です。この1977年というのが,美術館のエポックです。この建物ができて,美術館のイメージを引っくり返してしまったと言われているほど,革命を起こしたと思います。今回の兵庫県立美術館での「ポンピドゥー・センター・コレクション」で現代美術の面白さに触れていただきたいです。

 「今回のように,人の入らない現代美術の展覧会開催は今まで考えられなかった」。ポンピドゥーの方も,フランス大使もおっしゃっていました。大変,多くの金がかかった展覧会ですが,私は賭けをしました。本当に人は来ませんが,10年後,20年後に「やっぱり蓑はいいことやったな」と思ってもらえるはずです。このような思いで,「ポンピドゥー・センター・コレクション」に取り組んでいますので,ぜひ見に来て下さい。

美術館を核にした街の活性化

 私が初代館長を務めた金沢の21世紀美術館は,2004年にオープンし,今でも毎年150万人,累計で1,000万人以上が入場しています。兵庫県立美術館は2002年にオープンして,昨年やっと800万人。それを考えると,45万人しかいない金沢で,現代美術でたくさんの人が来てくれたのか。少しだけお話しさせていただきます。

 一番初めに,カウントダウンを行いました。美術館では発想がなかったと思います。金沢のど真ん中で,大きなビルボードに何でもない簡単な言葉を書いて,これを毎月替えていったわけです。そのお陰で,皆さんが待ち遠しくて,そして最後は「めでたし。めでたし」。宇宙船が降りてきたような建物があの古い,戦災にも遭っていない金沢に現れたわけです。いろいろなところで取り上げられたことがこれだけの人が今でも来てくれていることにつながっています。

 空中から見ますと,兼六園の真下に位置していますので,非常に交通の便もいい。日本の場合バブルでたくさんの美術館ができましたが,土地も安いということもあり大体郊外です。やっぱり美術館はダウンタウンにあって,そこから発信していくのが健康な状態だと思っています。金沢が成功した大きな理由です。

 2010年に兵庫県立美術館に着任して4 年目になります。何とかして年間100万人入る美術館にしたいという思いで,いろいろ考えています。その中で今までやってきたプログラムをちょっと紹介させていただきたいと思います。有名な安藤忠雄さんの設計した建物で,大きさは西日本一だと思いますし,日本でも3 本の指に入るぐらい巨大です。ウォーターフロントも安藤さんの設計です。海から入ると六甲の山が見えて,すばらしい建物です。ここにどうしたら人が来るか。――市長に頼んで,王子動物園と美術館を結ぶ道に「ミュージアムロード」という名前をつけてもらいました。電柱は地中化にして,王子公園からの道がミュージアムロードになりました。

 金沢と同じように応援店をつくりました。また,横尾忠則現代美術館が近くにあります。すぐに,横尾美術館にも行けますので,国からお金をいただいて,土・日無料の循環バスを出させてもらっています。人が集まり,文化を育てる。美術館を核にして,街そのものを活気づけるのです。

「ポンピドゥー・センター・コレクション」とは

 今,兵庫県立美術館でやっている「ポンピドゥー・センター・コレクション」の紹介を少しだけさせてもらいます。

 「エコー」という作品があります。この作家は元々チェリストで,ルクセンブルグ生まれ。お父さんは中国人,お母さんがイギリス人。暗い部屋に入りますと,巨大な画面で,多分スイスかどっかで撮った写真だと思いますが,岩があって遠くのほうに街が見えます。赤いワンピースの女性がチェロを弾いている。彼女が弾くのをやめる。その何秒後かに岩にぶつかった音が出てくるという非常にドラマチックなものです。これは2003年のビエンナーレで金獅子賞をもらっています。

 部屋に巨大なものがぶら下がっています,女性のストッキングみたいなものです。それに香料が入っていて,すごくいい匂いがしています。現代美術は,最初見たときは度肝を抜かれます。私はそれを日本の皆さんに見せたいのです。

 こういう作品で人が来るかというのは,非常な賭けです。だけど,新しい扉を誰かが開かないと,日本の子どもたちは,印象派ばかりの同じ展覧会で終わる人生になってしまう。多分大変な赤字が出ると思います。それを恐れずに進めていきたい。皆さんのような方に理解していただいて日本を変えていきたいという思いでお話ししました。

(スライドとともに)