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2014年1月24日(金)第4,471回 例会

遊びは学び
-子ども博物館キッズプラザ大阪の実践から-

篠 﨑  由紀子 氏

(株)都市生活研究所 代表取締役
キッズプラザ大阪 館長
篠 﨑  由紀子 

大手建設会社を経て,1979年シンクタンクである(株)都市生活研究所を設立,代表取締役に就任。2001年から4年間大阪市の教育委員を務め,’06年8月から子どものための博物館「キッズプラザ大阪」館長。

 「キッズプラザ大阪」は,「キッザニア」と呼ばれる職業体験できる企業のパビリオンとよく混同されますが,日本で初めての本格的な子ども博物館です。子どもたちが楽しい遊びや体験を通して学び,創造性を培い可能性や個性を伸ばすことを基本理念に17年前に誕生しました。開館以来,近畿2府4県から毎年40万人を超えるお客様にお越しいただいております。

施設は1階,3階~5階の4つのフロアで,床面積8,300㎡,展示面積5,300㎡です。大阪市100%出資の外郭団体,一般財団法人大阪市教育振興公社が運営を担っております。今,橋下徹市長の改革で,外郭団体が随分いろいろ槍玉に挙げられておりまして,キッズプラザ大阪もその一環で,「自立しなさい」という大変な命題をいただいております。

「学ぶのは楽しい」気持ち育てる

 「知的好奇心や創造性を刺激する」,「他者や異文化との交流と相互理解」,「自然や地理の理解と共生」,「日本文化と子ども自身の文化の伝承と創造」という4つのテーマを掲げています。子どもたちが「遊びながら学ぶ」,「体験しながら学ぶ」というプロセスを「やってみたい」と自主的に思えるような仕掛けを作ります。子どもたちは工夫してやってみる中で,自分だけの答えを見つけ出します。そしてそれをより深く学びにつなげていく。「体験から学んでいく―― In Learning By Doing」ということに重点を置きながら,私たちは活動しております。

 まず,展示物とプログラムの2 つがありま す。展示物はすべて触って実際に動かしてかまいません。実際に手を触れて五感を使って体感する。ワークショップというプログラムもいろいろ企画しております。その中でたくさんの人と一緒にやることによって,より理解を深めていこうということを考えております。専門の指導員と,インタープリターというボランティアがおりまして,この子どもたちの学びをサポートします。

子どもたちが無意識に楽しみながら遊んでいる中で,学んでいることを自ら気づいていきます。一緒に体験をしている人たちと「どうだった?」という感想を言い合うことで,言葉を通して自分の意識を顕在化させ,気づきにつなげていくというプロセスです。体験を通した学びによって,館内の科学・文化・食・アートなど各分野における知識や刺激とともに,「学ぶことは楽しい」という学びに対する肯定感を育てたいというのが私たちの主眼です。これから世界で活躍するグローバルな時代に未来を担う子どもたちにとって,まず「不思議を感じる心―― sense of wonder」,それを思いにして「言葉にして伝える力」,この2 つが非常に大事だと感じております。

低い日本の幼児教育への支出

 少し観点を変えて,日本の幼児教育について,世界との比較の中で考えてみました。OECDが1998年以降,幼児教育や保育政策に関する調査のプロジェクトを発足させ,世界の子どもを取り巻く状況を調査し様々な提案を行っています。「就学前教育・保育への支出」については,1 番がハンガリーです。ハンガリーでは幼児教育への支出に対して公的なお金が50%入っております。日本は何と後ろから2番目,一番後ろはスロベニアです。韓国は後ろから4 番目ですが,この後,2012年から幼児教育を無償化して,どんどん国がお金を出しております。日本の場合には,幼児教育に対する公的支出が少なく,親御さんの負担が非常に大きいというのがよくわかると思います。

 また「就学前教育・保育に関する投資効果について」では,質の高い幼児教育・保育は社会にもたらす収益性が高く,大人になってからの投資はほとんど収益性がないということです。ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・ヘックマンさんの理論に基づいて,大人になってからの経済状態や生活の質を高める上で就学前教育が有効であるという理論が立証されました。以来,幼児教育への投資を非常に重視するようになってきています。日本の場合は大学教育に関しては熱心ですが,小学校に入るまでは非常に低い。「スタートストロング」。一番最初の幼児教育について,日本はもっともっと力を入れていく必要があるのではないかと考えています。

逆風の中のキッズプラザ

 こういう中でキッズプラザ大阪は,学校教育とは少し違った観点から,体験の中から学んでいく,そして学ぶことの意欲をかきたてる活動を行っております。私が就任しました当時はのんびりと子どもたちのために,良い活動をしていくということでよかったのですが,橋下市長さんが登場されまして,橋下さんは7人のお子様のお父様でいらっしゃいますが,なぜだかキッズプラザに対するご理解がございません。美術館・博物館には指定管理でしたら指定管理の委託費というのが出ますが,私どもはこれまで大阪市から補助金をいただいておりましたが,これから4年間でゼロにする,自立経営しろと言われておりまして,今,大変な逆風の中におります。

 幼児教育の大切さ,先ほどのヘックマンの理論も持ち出しながら,幼児教育に日本はもっと投資をすべきだ,公的な負担をすべきだということを,社会のオピニオンリーダーとして皆様方から発信していただければと思っております。日本の場合,幼児教育はすべて個人の負担ということになります。個人になりますと,できる人とできない人との差が入口段階でついてしまう。やはりここは公的な負担で幼児教育をしっかりやり,スタートストロングでさらなる学びの力,そして生きていく力をつけていける,そういう社会,システムにしていくべきではないかと思っております。

(スライドとともに)