1973年明治大学商学部卒業後,(株)大丸入社。2003年5 月同社代表取締役社長。’07年9 月(株)大丸と(株)松坂屋HDの経営統合により発足したJ.フロントリテイリング(株)取締役。’10年3 月(株)大丸松坂屋百貨店代表取締役社長。’13年4 月J.フロントリテイリング(株)代表取締役社長(現任)。’03年7 月当クラブ入会。’05年度雑誌委員長。
今年は,国内企業の業績が改善するというようなことで久し振りに景気のいい話題が多く,私ども百貨店業界も今年1月から6月の全国百貨店売上高は,前年同期比で2.3%増加いたしました。上半期としては2年連続のプラスで,実に16年ぶりということでございます。お陰様で7 月以降も堅調に推移しております。
百貨店の好調を支えているのは何と言っても「高額消費」です。全国百貨店の商品分類別の売上高推移グラフで,「売上高総額」の伸び率を比べると,「美術・宝飾・貴金属」と,高級ブランドが含まれる「身のまわり品」が大きく上回っており,高額品が百貨店の売り上げを牽引しているということがよくおわかりいただけると思います。しかし,かつてのバブル期のように,誰でも彼でもが高額品を買っているというわけではございません。こちらの表は,私ども大丸松坂屋百貨店の「腕時計」の売上動向を示したものでございますが,販売数量の伸びよりも,販売金額の伸びのほうが大きくなっております。販売数量は3月~ 8月累計で4.8%の増加に対して,販売金額の伸び率が41.8%増で,1 点当たりの単価が上昇しているということがおわかりいただけると思います。また,いわゆる高級腕時計20万円から30万円クラスは数量・金額ともに1 桁しか伸びておりません。最高クラスの300万円以上は,数量では95%増,金額でも116.5%増ということで,ともに約2倍という勢いで増えております。このデータから読み取れることは,「高額品を買われるお客様の層が広がった」ということではなくて,もともと高額品をお買い上げになっていた一部の富裕層が,より高いものを買われているという「高額消費」の実態が推測できます。
それでは,今年の消費動向を読み解いていきたいと思います。キーワードが3 つございます。1つ目は「ちょい足し」,2つ目は「伝統回帰」,3つ目は「プチ贅沢シェアリング」です。
まず1 つ目の「ちょい足し」ですが,これは文字どおり「少し足す」という意味で,いつものファッションに何か1つ加えることで,流行や個性を表現できるような「ちょい足しファッション」というのが支持をされてきております。(女性モデル登場)モデルのファッションは,毛皮のかわいらしい襟が特徴でございますが,実はこれ「ティペット」と呼ばれるつけ襟でございます。防寒とおしゃれを兼ねた「ちょい足しファッション」として注目をされています。このようにオーソドックスなスタイルでも,「ティペット」を付け替えることでガラッと印象が変わります。また,今年は千鳥格子が流行しておりますが,このようにストールを羽織るだけで最新のスタイルに変身できるところが,「ちょい足しファッション」の醍醐味ということでございます。
2つ目は「伝統回帰」でございます。東日本大震災や東京オリンピック招致を契機に,日本の伝統や文化,日本の職人技に対して憧れや尊敬を抱く「伝統回帰」が,消費を促す要素の1 つとなってきております。
(女性モデル登場)例えば若い女性の間で,きものの人気がジワジワと広がってきています。特に注目をされますのが「カジュアルきもの」で,洋服感覚の絵柄に合わせて大きなバッグを持ったり,ジーンズのきものに靴をはくというような自由にコーディネートを楽しむ新しい着物のスタイルというものが出てきております。また,本物志向の高まりを背景に,「日本のものづくり」に対する信頼というものが増してきております。(女性モデル登場)モデルの手元をご覧ください。これは,鋳造の街として知られます富山県高岡市で,明治時代から続くメーカーが製作した「おりん」でございます。この「おりん」の音には,自然界の癒される音に共通してみられる「1/f(えふぶんのいち)」というものがあるそうです。
3つ目のキーワード「プチ贅沢シェアリング」についてお話をさせていただきます。今年はプチ贅沢の楽しみ方が若干変わってきております。「自分へのごほうび」ということをよく言っておりましたが,今はひとりで楽しむ人は少なくなり,家族や友人と一緒に皆でプチ贅沢を楽しみたいという傾向が強くなってきております。
クリスマスから年末年始にかけて,人が集まる機会が多いこの時期は「プチ贅沢シェアリング」のニーズが高まり,クリスマスやお正月にはいつもより贅沢な料理がテーブルにのぼりそうです。そのために,今年はクリスマスケーキやおせちなどに「プチ贅沢」をうたったものが目立っております。
最後になりましたが,景況感の改善を背景に,百貨店各社は来年の初売りの目玉としていつもより高額の福袋を取りそろえております。私どもも,来年の景気はさらに上向くということを願って,100万円の福袋を100個販売するほか,金の茶釜の福袋をご用意いたしました。鍛金の世界で第一人者,平澤正英先生の作品で,縁起のよい富士山をイメージしております。純金製で,お値段は何と1 億円でございます。
それでは,縁起のいい金の茶釜をご覧いただきながら,来年も皆様がご健康で,そしておしゃれで,ますますご活躍されますことをお祈り申し上げまして,私の話を終わらせていただきます。(スライドとともに)