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2013年11月22日(金)第4,464回 例会

流動化する中東情勢

内 藤  正 典 氏

同志社大学 
大学院グローバル・スタディーズ研究科
研究科長・教授
内 藤  正 典 

1956年生まれ。東京大学大学院理学系研究科地理学専門課程修了。’81年シリア・ダマスカス大学留学。東京大学助手,一橋大学助教授を経て,’90年トルコ・アンカラ大学政治学部客員教授。2010年現職。

 中東というと日々紛争,流血の事態,そればかりが大きく報じられてしまいます。インド,パキスタン,アフガニスタンまでは中東に入れませんが,そこから西,つまりイランからサウジアラビア,そして北アフリカのエジプト,その西にあるチュニジア,リビア,モロッコまでは中東に入れます。

 この地域に今日の国境線を引いたのは,概ね第一次世界大戦ごろのイギリスとフランス。こっそり相談して,線を引いてしまいました。1916年のサイクス・ピコ協定です。これが今日の中東情勢の不安定の原因と言っていいかと思います。

 今の中東で,激しい紛争に見舞われているのはシリアで,2011年の内戦開始以降,死者は既に20万近く。難民もトルコだけで40万以上出ていて,数百万に上っています。

 エジプトはアラブの春ということで2011年から,アラブ諸国で長年続いてきた独裁政権を倒そうという動きが広まります。最初にチュニジアで起きて,次にエジプト,リビアにも飛び火します。エジプトでは,30年にわたって支配したムバラク大統領の政権を2012年に何とか廃止に追い込み,初めて国民が自分の手で選挙をしました。その結果,ムスリム同胞団というイスラム勢力が勝った。すると,ムバラク政権下で甘い汁を吸ってきた人たちはモルシ大統領をつぶそうとします。その亀裂は激しくなって,残念ながら今年7月,クーデターが起きて軍事政権が成立します。

 続いて,イラン核開発の問題です。今日になってEUのアシュトン上級代表との間の協議が煮詰まっていますが,恐らくイランがまだ核弾頭を十分につくるだけの濃縮ウランを持っていなければ,「濃縮の技術は続ける」と言うはずです。もしここで,「濃縮について,分かりました。EUやアメリカの言うように止めましょう」と言ったならば,既に持っているということです。イランが核開発について妥協する可能性はないという前提に立って,この地域の政治を見なければなりません。

深刻な影響及ぼすシリア情勢

 イラクですが,2003年にイラク戦争を起こしてフセイン政権をつぶしたものの,その後10年間安定していません。中・南部のシーア派地域とスンニ派地域は,毎週金曜日にお互いのモスクに爆弾を仕掛けるという,愚劣な争いを続けているため,恐らく国家は分裂の方向に向かいます。そこにシリアの極めて不安定な情勢が影響しています。

 この間に,アメリカがこの10年間何とかして掃討作戦をしようとしたアル・カイーダが再び伸びています。この点について我々は非常に危機感を持って見ています。アル・カイーダは統治能力のない破綻国家の中に忍び込んで来ます。

 シリアは,もはやジハード(聖戦)の死に場所になっているので,イスラム過激派がシリアに集まって来て,ここを死に場所にしようとやるわけですから,落ち着きようがない。

イスラム世界の平和構築が極めて重要

 これがさらに,北アフリカに影響を与えていたアルジェリアとかマリ。今年1月アルジェリアで,日本企業の日揮も加わっているプラントが襲撃されました。日揮のように半世紀以上にわたってあの地域において大変な経験を持っている実績のある企業でさえ,従業員の犠牲を防ぐことはできなかった。

 そんな中で希望は,唯一民主化と経済成長を実現しているトルコです。GDP成長率は年平均で5~ 7,まあ高いと10%近くになっています。軍の力を押さえ込んで民主化と自由化を達成した。このトルコが,今孤立してしまっている。何でかと言うと,シリア内戦についてのスタンスです。1 度は武力介入に踏み切ろうとしたんですが,アメリカが二の足を踏んだために出るチャンスがなくなった。

 今のシリアで政権側について武器と資金を供給している国は,ロシア,中国,北朝鮮,イランです。イランを除けば,我々の近隣にいる国なんです。そこをよく考えて下さい。

 現状でイスラム教徒は世界に15億も16億もいます。4人に1人です。あと10年の間に恐らく3人に1人になる。そんな中で,イスラム世界の平和構築というのは極めて重要。日本は幸いなことに戦後一貫して軍事力を行使していません。

タリバンも出席した同志社国際会議

 去年6 月に同志社大学で行った「アフガニスタンの和解と平和」についての国際会議には,カルザイ大統領の顧問大臣,高等和平評議会の事務局長,タリバン政権時代の高等教育大臣も出席しました。実はタリバンは初めて海外に代表団を送ったんです。それが京都に来た。「そんなことが起きるのか」と,ニューヨーク・タイムズ,ウォール・ストリート・ジャーナル等いろいろな新聞が電話をかけてきました。「本当に来たのか?」「来ました」「何で来たんだ?」「我々は教育と本当に和解の話し合いをしてもらうために場を提供するけれども,一切政治的な野心はない」。それを繰り返し大統領側と反政府側に話したところ,先方が「来る」と言ったんです。

 カルザイ大統領は,この和平交渉を「同志社プロセス」と高く評価してくれました。クリントン国務長官からも「あれはヒットだ」という言葉をいただきました。決して私は希望を捨てておりません。ただ,こういうプログラムをやろうとしても,東京では絶対無理です。大学がまず二の足を踏んでやってくれない。京都の大学というのは,職員も進んで協力してくれました。これはありがたいことでした。私の第二の人生,日本の西の方から世界の平和に向かって貢献していきたい,微力を尽くしていきたいと思っています。ご清聴ありがとうございました。