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2013年10月18日(金)第4,460回 例会

感情状態が嘘判断に及ぼす影響

朴   喜  静 氏

当クラブ受け入れ・2012~14年度
米山奨学生
朴   喜  静 

1982年韓国生まれ。’01年~’05年韓国・嶺南大学で心理学を学び,’05年~’07年韓国・慶北大学で社会心理学修士課程を卒業。’07年~’11年 3 月まで韓国・大邱地方警察庁に勤務。’11年4月大阪大学人間科学研究科博士課程後期に入学,’1 2年 4 月から米山奨学生。

嘘をつく時の不自然な行動

 人は嘘をついている時に,どのような行動をするのかについて行った実験の手続きを説明します。まず,人はなぜ嘘を見破られるのかという疑問に対して,ポール・エクマンという学者が,嘘をつく時には3 つの感情が生じると説明しています。

 1つ目は見破られるのではないかという不安,2つ目は欺瞞による罪悪感,3つ目は相手をだます喜び。不安と罪悪感が強いほど行動に現れやすいし,それを隠ぺいしようとしても顔面表情や行動が不自然になると主張しました。

 それで,この嘘をつく時に引き起こされる感情によって,人はどのように行動するのかについて実験しました。日本人大学生を対象に実験室に来てもらい,嘘をつく場面を作りました。参加者に箱の中のクーポン券を取るように教示しました。クーポン券を持っていないかのように演技し,インタビュアーが見抜けなかったら,3,000円相当の商品を差し上げると話しました。参加者の様子ですが,ビデオで撮りましたので,お見せします。視聴する時には顔面表情を中心にして観察してください。

 単純に身体と顔面表情を撮った映像60項目について,行動の測定を行いました。1番の質問に答えるときに眉毛が何回動いたとか,顔面表情は27種類の筋肉の動きがあるので,その動きを測りました。2ヵ月ぐらいの時間がかかりました。

 嘘をつく時には,偽りの微笑があらわれます。口は笑いますけれど目の周りが笑わないのです。また,鼻を中心にして筋肉が片方だけ動きます。このような表情が,嘘をつく時に,たくさん現れることが明らかになりました。また,身体の動きは嘘をつく時は手に現れやすいです。緊張とか不安のせいで,手と手,身体のある部分をこする行動が増えます。それ以外にも,相手に自分の話を信じさせるために,ちゃんと目を見ながらしゃべることも嘘をつく人の特徴的な行動でした。

嘘を見破るのにも感情に左右される

 感情は日常生活で欠かせないものですし,社会的判断,記憶のみならず対人場面での説得に至るまで重要な役割を果たしています。それだけでなくて,人が受けた情報をどのように処理するのかという認知的側面や社会的行動にも影響を与えると思います。先行研究に基づいて,嘘,判断,感情が,自分が受けた情報について嘘かどうかを判断する時に影響を与えるのではないかと思って実験を行いました。

 でも,感情はいろいろ種類がありますので,喜びと悲しみの2 つを用いて実験を行いました。参加者が喜びの感情を感じる時には,注意深く考えないので嘘の正答率が低くなるのではないかと仮説を立てました。それに対して悲しみの感情を感じる時には,精緻な処理をしますので嘘の正答率が高くなるのではないのかと思って,それについて実験を行いました。

 実験の手続きは本当に簡単です。まず感情誘導をしました。感情誘導というのは,自分が経験したことの中で,最も悲しかった経験,そして最もうれしかった経験を書いてもらって,それで感情誘導した後に,4つの映像,真実の映像2つと嘘の映像2つを見ます。それに対して嘘の判断をします。その後に,ちゃんと感情が誘導されたかについてチェックして実験を終了することです。

 結果ですが,予測通りでした。やっぱり悲しみの感情に誘導された参加者のほうが,喜びの感情に誘導された参加者より嘘判断の正答率が高かったのです。その理由については,悲しみの感情を感じた人の場合は刺激映像に対して注意深く考えながら判断する。そのため正答率が高くなったと思います。これに対して喜びの感情を感じる人の場合は,嘘の判断において深く考えずに判断をするため正答率が低くなったと考えております。

 私がこの研究をした理由として,捜査場面に応用したいという部分がありました。取り調べの場面で応用できると考えております。捜査場面だけでなくて,結果を応用するのに最もふさわしいところを選ぶとしたら,個人的な意見ですが,夫婦関係ではないでしょうか。皆様の中で,奥様に一度も嘘をついたことがない人はいらっしゃいますか。――もしそういう方がおられたら,それが嘘だと思います。

嘘をつかないのが、一番大事

 好むと好まざるにかかわらず日常生活で嘘をつくことが少なくありません。本研究の結果では喜びの感情が嘘の判断の正答率を低下させますが,悲しみの感情の場合が正答率を増加させることが明らかになりました。

 それを夫婦関係で応用してみると,もし奥様に嘘をつかなければならない時に、嘘をつくことが成功するかどうかは,奥様の感情状態によって違うのではないかと考えております。つまり奥様が喜びの感情を感じる時には,自分が置かれた状況を満足しているので,細かく考えないで,適当に判断してしまいます。それで,嘘かどうかまで考えないのです。

 でも,一番重要なのはやっぱり嘘をつかないことだと思います。相手が話している内容が,嘘かどうかを判断する必要もない信頼関係を築くことが重要だと思います。でも,やむを得ない状況があると思います。そうしたら奥さんを喜ばせる方法をちゃんと調べることが重要ではないかなと考えております。「しっぽが長ければ踏まれる」ということわざのように,嘘をつくことがばれてしまうとひどい目に遭う可能性もありますので,嘘をつかないほうがいいと思います。(スライドとともに)