1951年生まれ。’76年,東京大学経済学部卒業。同年住友銀行入行。2010年三井住友銀行代表取締役兼副頭取執行役員。’12年新関西国際空港株式会社代表取締役社長兼CEO。’10 年7 月 当クラブ再入会。
まず,経済・社会において空港が果たす役割ですが,一番大きなポイントは経済・産業が成長発展する戦略インフラだということです。ようやく日本においても空港にも光が当たり始めていまして,海外へのコンセッション(運営権売却)と言いますか,空港運営の参画,インフラ輸出にも力を入れようという形にもなってきています。
世界の航空旅客数の推移は,中長期で見る限り,間違いなく右肩上がりだということです。航空旅客輸送量予測(2011年~2031年)では,現在,北米とヨーロッパのマーケットが大きいわけですが,2031年にはアジア太平洋が圧倒的に大きくなる,年率6 .6%で成長するということです。アジアに近い関西というのは優位性が間違いなくあると思います。
アジアの主要空港別の旅客数がどのように伸びているかを2004年を100として見ますと,2 倍ぐらい伸びているのが北京です,その下が仁川,シンガポール,香港,バンコク,ようやく100を超えて顔を出すのが羽田,その次に99は成田,関空は92,中部は87,伊丹は77です。日本が取り残され,首都圏に比べると関西はさらに劣後している。
次は貨物ですが,全く同じ状況です。その背景は,長期のデフレというのはありますが,着陸料(ボーイング777-200型機で換算)を比べてみると,仁川17万円,上海17万円,チャンギ19万円,関空が55万円です。来日したIATA(国際航空運送協会)関係者も「日本の着陸料はどうしてこんなに高いのか?」と話していました。着陸料を下げてほしいとか,いろいろな施設使用料を下げてほしいというニーズが非常にありました。
関空は,埋め立ててこれだけの投資をしているわけだから,高いのは当たり前という反応がまず返ってきます。それが不思議だという感覚がない。それと国管理空港については,黒字空港の着陸料収入が,地方空港の建設とか赤字空港の補填にも充てられています。国管理空港ですから着陸料は全国一律です。
宮城県知事が仙台空港を民営化したいと。民営化したらまず着陸料を下げるという考え方です。着陸料を下げて飛行機を呼び込むことがまず大事で,それで利用者が増えれば,飲食,買い物,ホテルに泊まったり,電車に乗ったり,あるいは観光。とにかく飛んで来ないことには話にならないわけです。
それなのに成田も羽田もそうですが,高い着陸料で放ったらかしになっているということで,差がついていったと感じています。
エアラインの世界では今大きく3 つのグループ,スカイチーム,ワンワールド,スターアライアンスに分かれていて,日本航空はワンワールド,全日空はスターアライアンスに入っています。これから3 グループはどうなるかというと,FSC(フルサービスキャリア)とLCC(ローコストキャリア)との競争がさらに激化しているということです。
LCCは,関空ではピーチ,成田でジェットスター,エアアジアが去年スタートしていますが,成田は時間制限があり,もともと混雑空港ということもあって,ここを拠点とするLCCは苦戦しています。そういう意味ではピーチが一人勝ち。24時間空港の関空を拠点にしていますから,遅れても帰って来られる。関空はLCCにとっては非常に有利性があるのではないかと思います。LCCのシェアは,世界全体でも26%ぐらいですが,地域別に見ると北米では30%ぐらい,欧州38%,東南アジア32%。日本では,関空が一番進んでいて,それでもまだ18%です。これを2 ~ 3 カ年計画の間に25%まで持っていこうとしています。LCCがスタートしたことで,新しいマーケットが誕生しています。FSCのシェアを奪うのではなくて,LCCに初めて乗る人が2 割ぐらいはあるとか,韓国に年1 回しか行かなかった,あるいは九州に1 回しか帰らなかった人が3 回乗るようになったとか,急速にそれが高まってきています。
関空はアクセスの問題,遠いとか,高いとか言われているので,南海,JR,地下鉄にも協力いただいて,1,000円ぐらいで行けるような形になり,それと夜,24時間空港なのにアクセスがないじゃないかというご要望にも応え,もうほぼ眠らない空港になってきています。泊まりたい人もいるので,3,000円ぐらいで泊まれるホテルを検討しています。
それと,フェデックスがアジアと北米を結ぶ中継拠点として関空を使います。東京ドームの2 倍ぐらいのものを建てています。来春スタートしますが,関西にとっては非常に大きな起爆剤になる可能性があります。
最後にコンセッションについて,お話します。我々は関空と伊丹両方の空港を運営していますが,伊丹と関空の運営権を期限を切って民間に委託しようという考え方です。資産は国が100%押さえています。ビルのテナントだけに,期限を切って条件を決めて運営権を渡し,そこに収益を上げさせる。そのテナントから家賃,地代をもらうというようなスキームです。それで,1 兆2,000億円の大きな債務を返済していこうという考え方です。
我々の年金資産,これについても個人の金融資産が1,500兆円あるわけですが,それも国債だけじゃなくて,国内でインフラ資産にも還流させていく。実際に長期で7,8,9%ぐらいで回ります。極めて安定的なインフラ投資になるわけなので,官民インフラファンドもできましたし,国も今後こういった形でコンセッションを後押ししていこうとしています。外資も入ってきますが,温かく見守っていただければと思います。