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2013年8月2日(金)第4,450回 例会

今後の日本経済・金融市場展望
~「アベノミクス」で日本経済は復活するか?~

熊 谷  亮 丸 氏

(株)大和総研 
チーフエコノミスト
熊 谷  亮 丸 

1966年生まれ。’89年東京大学法学部卒業後,日本興業銀行(現みずほFG)入行。2005年メリルリンチ日本証券・チーフ債券ストラテジスト。’07年株式会社大和総研・シニアエコノミスト。’10年から現職。

真っ当な経済政策

 まずはアベノミクスの中間的な評価についてお話します。いわゆる3本の矢,「金融政策,財政政策,成長戦略」という基本的な方向性自体は極めて真っ当な経済政策であって,非常に正しい方向へ行っていると考えています。とりわけ大胆な金融政策は非常にうまくいっている。他方で財政政策はしっかりと財政規律をある程度根底のところで守っていかないと,国債が大きく売り込まれる可能性がある。もう1 つは,やはり3 本目の矢の部分,とりわけ岩盤規制などと言われている規制の緩和,医療・農業・介護等々ではしっかりとした成長戦略を強化していく必要があるという考え方でございます。

 特にうまくいっているのが金融政策。日銀が動かすベースマネーが,ストレートに物価,経済に影響を及ぼすだけではなくて,為替の市場で円安を起こす。昨年11月14日,当時の野田総理が事実上の解散宣言をしたわけですが,その11月14日から為替はもう20円程度円安になっている。もう1つは株式市場。株の時価総額は,昨年11月14日と比べると160兆円程度,国家予算の1.5倍以上の富がわずかこの半年あまりの間につくられている。昔の古い経済で,貸し出しを伸ばすということをストレートに目標にするのではなくて,為替の市場で円安を起こす,そして株高を起こすことによって人々の期待に直接働きかけて,最終的にデフレの脱却へとつながっていくというのがアベノミクスの考え方でございます。

野党の批判は的外れ

 アベノミクスに対する2つの典型的な批判は,的を得ていないと考えています。まず長期金利の上昇が景気に悪影響を及ぼすから,結局は長期金利が上がってしまうと失敗ではないか。これはずっと野党が言ってきた批判で,これに対しては3 つの反論が考えられる。まず1点目,今金利が上がっているのは財政赤字の拡大からくる悪い金利上昇ではなく,景気回復や株高期待からくる良い金利の上昇である。2 点目は,重要なのは名目金利ではなくて,期待インフレを差し引いた実質金利。今,実際の名目金利は0.8%程度でございますが,1%以上の期待インフレがあるのです。0.8から1 を引くと実質金利はかなりのマイナス状況で,極めて景気刺激的な状態である。3 つ目の反論は,株高・円安のプラスの効果のほうが,長期金利の上昇のマイナスよりもはるかに大きいものである可能性が高い。具体的には長期金利が4%上がらない限りは,アベノミクスによる円安・株高のプラス効果のほうが残ってくる。

 もう1つの批判は,インフレ進行で輸入品の値段が上がり,国民生活が苦しくなっているのではないか。日本経済は,売上が伸びて半年~1年すると賃金が伸びる。そこから半年程度すると物価が動くというサイクルがある。要は,今売上が伸びているわけですから,今年度後半から来年の春になってくれば少しずつ賃金が底入れの方向に向かってくる。さらに企業が稼いだお金の中で個人に分配されている分(労働分配率)は,過去20年間ぐらいで見るとほとんど横ばい。ですから,企業が元気になってくれば,一定の割合で個人の懐にお金が入ってくる。また,円安というのは,まず最初に輸入品の値段が上がって,短期的には国民の生活を苦しくするが,あくまで時間差の問題で,円安が進んで半年~ 1年程度すると徐々に円安が輸出の数量を押し上げていく。ですから,これから年末から来年にかけては,円安によるプラスの効果が出てくる。国民の生活が苦しくなっているというのは,あくまで一時的,過渡的な問題,もしくは経済全体の話ではなくて,一部の経済の業種などを切り取った話である。まず賃金から上げろというような経済評論家や野党がいるわけでございますが,経済合理性からいけば間違い。やはり,まずはアベノミクスがやっているように,1丁目1番地は企業が元気になることでございます。

財政規律と規制緩和が課題

 今後の課題について。今財政で,消費税を上げるか上げないかという議論がございますけれども,今の日本の財政状況は,経済成長しただけで財政再建ができるほど甘い状況ではない。プライマリーバランス(基礎的財政収支)のシミュレーションでは,国際公約である「2020年度の基礎的財政収支の黒字化」を唯一達成できるシナリオには3 つの条件がある。第1 条件は名目成長率3%の高成長を達成すること,第2 条件は消費税を予定通り10%まで上げていく。その上でなおかつ第3条件として2010年代後半の5 年間で毎年社会保障費を4%ずつ,1 兆円ぐらいのペースで削減していく。つまり,高成長と増税と社会保障の徹底的な合理化,この3 つを三位一体でやったとして,やっと2020年度の時点で財政再建の入口のところに立てるということでございますので,今,その消費税を上げるか上げないかということをやっている場合ではなくて,それをやった上で,なおかつ成長戦略と社会保障の合理化を三位一体としてやっていくということが必要である。

 もう1つの課題は,成長戦略でございます。医療・介護などを中心としたサービス業は,今のところは非常に労働生産性の効率が悪いわけですけれども,圧倒的な雇用の吸収力が存在する。加えて今後その抜本的な規制緩和,混合診療ですとか,もしくは農業分野などを含めていわゆる岩盤規制と言われる農業・医療・介護・労働分野に踏み込んでいけば,かなりの伸びしろが期待できる。今後の課題としては,法人税の減税に加えて,今規制でがんじがらめになっている分野をしっかりと規制緩和などによって解き放っていくということが,極めて大きな課題であるということでございます。

(スライドとともに)