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2013年7月19日(金)第4,448回 例会

食と消化器病

林    紀 夫 君(内科医)

会 員 林    紀 夫  (内科医)

1947年生まれ。’72年大阪大学医学部卒業。’89年大阪大学医学部第一内科講師,2000年大阪大学分子制御治療学教授,’07年大阪大学消化器内科学教授,’09年大阪大学医学部附属病院院長,’12年関西労災病院院長,’09年千里RC入会,’12年退会。
’12年大阪RC入会。

お酒の強い人, 弱い人

 私もお酒が好きで,よく飲みます。肝臓を専門にしているので,「どの程度お酒を飲んでも大丈夫なのか」と聞かれます。お酒を飲んで障害が出てくる基準は国際的に決まっており,「多量飲酒者」は1 日当たり平均日本酒で3 合,アルコール約60g以上を消費する人です。現在,日本では男性4.1%,女性0.3%が該当します。ただ,この量を飲んだら臓器障害が出てくるというわけではありません。

 清酒1 合は180mlで,濃度15%,アルコール22gです。これと同等のアルコールは,ビール中ビン1 本,ウィスキーダブル1 杯。ワインの1 杯は120mlとして,12%でアルコール12gですので,大体2 杯です。ワインは量的に飲める種類のお酒なのです。

 酒はエタノールですが,まずアルコール脱水素酵素(ADH)で代謝されて,アセトアルデハイドに変わります。アセトアルデハイドはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)で酢酸に代謝されますが,一番毒性の強いのはアセトアルデハイドです。これが血中でどの程度上昇してくるかで,お酒の副作用が出てきます。

 代謝スピードは個人差があります。アセトアルデハイドの代謝スピードが遅い遺伝子を2 つ持っている方は,ビールを1杯飲んでも濃度が急激に上がり,それ以上お酒が飲めなくなります。一方,代謝活性が非常に高い酵素を持っている方は,お酒を飲んでも代謝ができます。実はお酒は飲んだから強くなるというよりは,遺伝的にその代謝スピードが決まっていると覚えておいてください。

 お酒の障害は代謝スピードが遅い人に起こると思われるかもしれません。実はそうではありません。そのような人たちはすぐ症状が出ますので実際お酒を飲めません。だから,アルコール障害は逆にお酒を飲めるタイプの酵素を持っている人に多くいるのです。

脂肪肝の三大原因とは?

 アルコール性肝障害の大きな特徴は禁酒すると病気は非常によくなります。先ほど常習飲酒家は毎日3 合以上と説明しましたが,専門家の間では,「常習飲酒家」と「大酒家」と分けています。常習飲酒家は毎日3 合以上を5 年以上,大酒家は毎日5 合以上を10年以上と定義しています。

 お酒を常習飲酒しますと,まず起こるのが脂肪肝です。肝臓に中性脂肪がたまり,いわゆるフォアグラに近い状態になります。そのままずっと持続していると,肝臓に繊維化が起こり,肝繊維症という病態になり肝臓が硬くなってきます。最後はアルコール性の肝硬変になります。脂肪肝,繊維症の時は,症状らしい症状はほとんど出ません。

 実は1989年までは日本でも肝硬変の主なものはアルコール性とされ「お酒を飲むのを止めなさい」と専門家は言ってきました。この年,C型肝炎ウイルスが発見されました。現在世界で,感染している人は1 億7,000万から約2 億人と言われています。従来,アルコール性の肝硬変だと思っていたのが,C型肝炎ウイルスが原因だったことが多いのがわかってきました。1991年の調査では,日本のアルコール性の肝硬変患者は12%にとどまっています。普通の生活をしている限り,アルコール性の肝硬変はそれほど頻度の高いものではないのです。

 脂肪肝の原因は,肥満,糖尿病,アルコールが3 大原因。アルコールよりは肥満によるものが圧倒的に多く,人間ドックで肝機能異常を指摘されたら,体重制限をして運動してください。それだけで,良くなります。

 ただ,脂肪肝は放置していいわけではありません。最近,非アルコール性脂肪肝炎という病気が出てきて少し注目されています。実は脂肪肝のうちの2 ~ 3%で,お酒を飲まないけどもアルコール性の肝炎と同じような病態で,積極的な治療が必要です。肥えてなくても肝機能が異常で,原因がわからないなら,専門家に相談してください。

お酒は楽しく飲もう

 「お酒を楽しく飲むために」ということでまとめます。お酒の種類で肝障害の程度に差はありません。高級なワインを飲んでも一定の量を飲み過ぎると障害が起こってきます。二日酔いにならない方法はないか。二日酔いはほとんど脱水ですので,水分の補給だけで対応できます。ウコン,シジミは慢性の肝障害によく使われているのですが,専門家の間では,あまり飲まないほうがいいだろうと言っています。その理由は,ウコンやシジミには鉄分の含量が非常に高く,肝臓の悪い人に適していません。

 もう一つお酒と関係があるのは,食道がんです。食道がんの成因は,タバコとアルコールと朝粥の3つです。これは直接食道の粘膜を障害するので濃度の高いお酒は飲まないほうがいいということです。また,アセトアルデハイドを代謝できない人は,食道がんになりやすいという説も最近出ています。タバコと濃度の高いお酒は避けていただいた方がいいでしょう。

 次は肝炎ですが,肝炎はA型からE型までございます。ただし,経口感染するのはA型とE型の2 種類だけで,ほかのB,C,Dというのは経口感染しません。A型肝炎は今非常に多くなっていますが,抗体がありますと発症はしません。ワクチンで完全に予防ができます。E型肝炎は豚,イノシシ,鹿などが感染している可能性がありますが,火を通して食べれば問題ありません。

 お酒というのは肝障害を起こしますけども,皆さんが考えられているよりは頻度は低いものです。ただ,飲む量には気をつけてください。今年も酷暑が続きますが,おいしいお酒と食事を食べて酷暑を乗り切っていただければと思っております。どうもありがとうございました。

(スライド使用)