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2013年6月14日(金)第4,443回 例会

再生可能エネルギーの固定価格買取制度について

鈴 木    胖 君(教育研究機関管理)

会 員 鈴 木    胖  (教育研究機関管理)

1934年広島県生まれ。’60年大阪大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了,阪大助手。’72年阪大教授。’06年から地球環境戦略研究機関関西研究センター所長。’98年当クラブ入会。’10年~’11年度理事・青少年奉仕委員長。

 本日は固定価格買取制度についての詳しい説明というよりは,これまでのエネルギーの供給システムにおいて,今なぜこのような制度の導入が必要になり,制度の導入によってエネルギーの供給と需要の関係が変わって,それが電力を送る仕組みや需要者(利用者)の態度,ひいては社会全体に及ぼす影響についてお話をしたいと思います。

 今の世界を見てみますと,エネルギー供給の88%は依然として化石燃料,つまり石炭・石油・天然ガスなんです。この何年かいろいろエネルギーのことをいじってきましたが変わっていない,これは深刻な現実です。

変わらぬ化石燃料依存

 化石燃料が使い出されたのは産業革命以後です。イギリスで1760年代後半,産業革命が始まりました。ジェームズ・ワットが蒸気機関を発明。1814年になりますとスチーブンソンの蒸気機関車がリバプールとマンチェスターの間を,貨物と客車を10両以上引っ張って鉄道輸送しました。そのころから石炭の利用が大々的に始まり,工業社会に入ります。1908年になると,フォードの自動車の量産が始まり,石炭に次いで石油の大量消費ということになるわけです。

 この化石燃料の大量消費でいろんな問題が浮かび上がってきます。最初の問題は大気汚染です。これは大気汚染防止技術,集塵・脱硫・脱硝と進んで,日本では煙突からの大気汚染というのはほとんど解消されている。ところがお隣の中国は脱硝装置を入れても,それを動かさないとかいろいろな問題があって,今のような大気汚染の問題を引き起こしています。

 2つ目の問題は,化石燃料の中でも特に石油が地域的偏在と枯渇の恐れ,両方から懸念が生じてまいりました。1973年の第1次石油危機,これは第4次中東戦争。1979年には第2次石油危機,このきっかけはイラン革命です。対策としては石油依存度の軽減ということで燃料転換,特に石油は日本やヨーロッパでは発電には使うなという規制がされるとか,化石燃料に代わる原子力,再生可能エネルギーの開発が広く言われるようになりました。

 第3の問題は,化石燃料消費の廃棄物,いわゆる大量の炭酸ガス(CO2)が大気へ排出されて地球温暖化を進行させていることです。地球温暖化は正確に言えば気候変化です。1988年の気候変動に関する政府間パネルが,UNEP(国連環境計画)とWMO(世界気象機構)の共同で設立されました。政府間パネルで研究が進むにつれて地球は温暖化しつつあり,人類の排出した温室効果ガスがそれに重要な役割を果たしているということがコンセンサスとなってきました。

ドイツがお手本

 再生可能エネルギーの利用促進の世界の取り組みを見ますと,一番早く始まったのはドイツで,2000年に再生可能エネルギー法というのが法律として決められています。日本の制度のお手本でかれこれ10年以上の経験があります。それからドイツに引っ張られてEUの域内電力市場における再生可能エネルギー電源の導入促進に関するEU指令。これは加盟各国がこれからどういうふうに再生可能エネルギーを発電の中で取り入れていくかという目標をつくって,報告しなければいけないという義務ができております。

 お隣の中国ですら,再生可能エネルギー法というのが2006年に施行されていますが,残念ながら日本は再生可能エネルギーについてはついこの間まで非常に冷淡であった。主に原子力でいこうというところできていたんです。そこに,東日本大震災の津波によって福島第1発電所の爆発が起こった。原子力発電の安全性についてのコンセンサスを得るということが,国民の間で非常に難しくなっている。これまであいまいにされてきた燃料の廃棄物をどう処理するんだという未解決な問題もあらわになってきて,このまま改めて原子力というわけにいかないという状況にあります。

 日本で再生可能エネルギーが低く見られるのは,要するに(コストが)高いということにずっと引っ張られたわけです。それがここへ来てどうしようもなくなって再生可能エネルギーを何とか欧米並みに入れようということで,固定価格買取制度というのが入ってきたということであります。

原発事故が転機に

 原子力は安全性の問題,廃棄物の問題でなかなかコンセンサスが得られないということになると,残るのは化石燃料を抑えて,できるだけ再生可能エネルギーを伸ばさなきゃいけない。再生可能エネルギーを何とか(化石燃料と競争できるようにする)社会的仕組みが要るわけです。それが固定価格買取制度です。固定価格買取制度というのは極めて簡単なやり方で,要するに再生可能エネルギーでつくられた電気を決められた価格で,20年(10kW以上が20年,住宅の屋根は10年)ずっと買い取ってもらえる。去年スタートしましたが,去年の価格はキロワット当たり42円,今年の価格は38円ぐらいになっています。しかし,今年の10月から施行される値段は,その時点からまた20年間保証されるわけです。

 再生可能エネルギーが普及してまいりますと,電力系統のあり方というのが従来の集中型から変わってきます。太陽光,あるいは風力など北海道やら東北でできたものをどう集めてくるか。それから太陽電池ですと各家庭も生産者になります。需要者であり供給者ですから,電力会社との関係が変わってくる。電力系統のネットワークも変えていかなきゃいけない。こういう流れがこれから徐々に,徐々に進んでいく。ただし,この流れはずっとこのまま伸びていくというふうに考えております。